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美しく切ない花火  作者: オーストリッチマン
革命編

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第14話 黒き稲妻との交戦

 翌朝、目が覚めるとジズゥが俺に話しかけてきた。


「今日、奴らは来ますかね?」

「来るだろうな」


 それから待つこと数時間。予想通り、森の奥から『黒き稲妻』のメンバーが姿を現した。

 見覚えのあるグスマンとモラレスは分かるが、その後ろに漆黒のマントを羽織った見知らぬ男が一人いる。どう見ても、彼らの仲間だろう。


「あれェェエ? 貴様はギルドでこの俺様に気安く声をかけてきやがった勘違い野郎ォじゃねェか。なんでここに居るんだァ? 邪魔だから今すぐ消えろ」


 俺と目が合うなり、グスマンがいきなり喧嘩腰で捲し立ててきた。


「お前たちが――」


 俺が言葉を続けようとした瞬間、それを遮るようにしてルティが前に出る。


「こんノータリンがッ。ワイ(お前)らがここん来るって知っとったけん、わざわざ待っとったとやろうがァ」


 低く、地を這うようなルティの声。それは一切の感情を削ぎ落とした、純粋な殺意の塊だった。

 だが、対するグスマンは下品に顔を歪める。


「俺様たちを待っていただァァァ? おい、聞いたかモラレスゥ。このザコども、俺様たちとやり合いてェらしいぜ」

「ハハハ、このマヌケどもをぶっ殺してやろうぜ。おい、そこの女ァ。お前だけは殺さないで可愛がってやるから安心しろよ」


 道端に吐き捨てられた汚物でも見るような目で、ユニィは静かに一言を放った。


「……キッッッッモッ」


 その純度100%の嫌悪感に満ちた一言に、モラレスが顔を真っ赤にして叫ぶ。


「キ、キモ……キモいだと!? このクソアマァァァ! もう命乞いしても助けてやらねェからな! 覚悟しとけよ!」


 一触即発の空気になる中、後ろに控えていた漆黒のマントの男が静かに口を開いた。


「おい、お前ら。オレのことを忘れてねぇか?」

「あっ、すんません。バルデスさんのこと忘れてました。実は――」


 敬称付きか。となると、こいつがリーダーだな。

 状況説明が終わったのか、グスマンが再びこちらに凄んでくる。


「おう、待たせたな」


 ルティがどうしても奴らをぶっ飛ばしたいと懇願していたので、ここは一番手を任せることにした。


「そっちの一番手はだい(だれ)や?」


 ルティの問いに、グスマンが心底呆れたような表情で答える。


「まさか、この俺様とサシでやろうとしてんのか? ザコのくせに」

「なんや? ビビって一対三でやってほしかとや?」


 ルティの挑発に、グスマンが面白いように激昂する。


「バカか貴様、逆だ逆。一対四でやってやるって意味だ。御託は良いから早く全員でかかって来い」

「ギャッハッハ! 全員でかかって来いだァァァ? 数的不利で負けたときの言い訳やろが」

「な、何だとォ。いいぜ、そこまで言うならサシでやってやるよ」


 ルティの見事な挑発に相手があっさりと乗り、勝負は一対一で決着をつけることになった。

 俺たちは戦う二人をその場に残し、ゴブリンの洞窟前へと下がる。対する『黒き稲妻』の残りの連中も、少し離れた位置へと後退していった。


 グスマンが大剣を構えるなり、ルティに向かって力任せに斬りかかる。

 だが、ルティは振り下ろされた大剣の刀身を左手一本で掴み止め、その重い斬撃を完全に殺してみせた。そしてそのまま相手の懐へと踏み込み、ガラ空きになったグスマンの左脇腹へ強烈な拳を叩き込んだ。


「ガァッ……!?」


 たった一撃。それだけでグスマンの体はくの字に折れ曲がり、モラレスのいる場所まで十メートル以上吹っ飛び、地面でのたうち回った。


「ありゃあ、内臓が逝っちゃったねぇ。プククゥ」


 凄惨な光景を見たユニィが、楽しそうに呟く。


「しかし、あの程度の実力でよくユリウス様をコケにできましたね」

「井の中の蛙ってやつだな」


 俺とジズゥが呆れていると、血を吐きながら起き上がったグスマンが吠えた。


「ちょ、ちょっとはやる……ようだな。ゲホッ……ハァ、ハァ……。な、なぶり殺して……やろうと思ったが、止めだ……。俺様の最強魔法で……あ、跡形もなく消してやるぜ……」


 ルティは右手を前に突き出すと、『かかってこい』とばかりに手招きをして、フッと鼻で笑った。


「パンチ一発でハァハァ言いよるやっかっ。御託はよかけん、さっさと撃って来い。カス」

「し、死ねやァァァ。炎龍のブレス」


 グスマンから放たれた炎を見たルティは、腹を抱えて笑い出した。


「ギャハハハ! こんションベン見てェな火遊びが『炎龍のブレス』だってェェェ? 見してやるよ、本物の炎龍のブレスをよォォォ!!」


 ルティの口から放たれた業火は、グスマンの炎をあっという間に飲み込み、その熱量すらも同化していく。

 巨大に膨れ上がった炎は、すべてを焼き尽くす奔流となって真っ直ぐに突き進み、そのままの勢いでグスマンの全身を丸呑みにした!


 死を直感したのか、グスマンは「た、助け――」と叫び声を上げる。だが、その命乞いすらも巨大な炎に掻き消され、彼は文字通り『跡形もなく』消滅。さらに、後ろに控えていたモラレスまで巻き込み、一瞬にしてただの消し炭へと成り果てた。


「跡形もなく消し飛んでしまいましたね」


 ジズゥが微笑みながら口を開く。


「ああ、あっけない最期だったな」


(――ちょっと待て。俺がやる予定だったモラレスまで死んでしまったじゃないか。俺のこの怒りは、どこにぶつければいいんだ!?)


 恨みはまったくないが……仕方ない。残ったバルデスに、この理不尽な怒りをぶつけるしかないか。


「残ったバルデスはユニィがやる予定でしたが……ユリウス様がやりますよね?」

「えぇ〜! ウチがボコりたかったのにぃ。まぁ、ユリウス様ならしゃーないかぁ」


 そんなことを話していると、不意に『待たんかコラァ!』というルティの怒声が響いた。

 慌てて見ると、ルティが森の奥へ向かって猛ダッシュしていくのが見えた。バルデスの姿がない。どうやら、森の中へ逃げ込んだようだ。


 状況を把握した俺は、すぐさま指示を出す。


「ジズゥは、さっきのルティの炎で森に燃え移った火の消火を頼む。ユニィは俺と一緒にバルデスを追うぞ」

「はぁい!」


 俺たちがバルデスの捕獲に向かおうとしたその時、魔法通信機(マジックフォン)が鳴った。電話の相手はルティで、『チキン野郎ば捕まえたけん、今からそっちに戻るっス』という内容だった。300万エルの投資、さっそく役に立ったな!


 数分後、消火を終えたジズゥが戻ってきた。

 それから間もなくして、逃げようとした逃げようとしたバルデスの首根っこを片手で掴み、まるで市場の帰りに芋袋でも引きずるような気軽さで戻ってきた。


「こいつ、どがんします?」


 地面へ放り投げられたバルデスは、滝のような冷や汗をかきながらわめき散らした。


「お、オレに手を出したら、あの『ククルカン』さんが黙っていないぞ」


 ククルカン――。王私領トゥラン最強の冒険者か。

 こいつに手を出せば、その『最強』が報復に来る。つまり、俺の『L級』の力がどの程度通用するのか、明確な基準を知る絶好のチャンスだ。


「一応確認するが、お前に手を出せば、その人物が報復に来るんだな?」

「あ、当たり前だ! オレはこの国でククルカンさんの次に期待されている冒険者だぞ!」


 その言葉を聞いた瞬間――俺は一切の躊躇なく剣を振り抜き、バルデスの左腕を切り落とした。


「うぎャアァァッ!?」


 左腕をスッパリと断たれたバルデスが、泣き叫ぶ。


「ほら、手を出してやったぞ。早くククルカンとやらを呼べ」

「腕がぁぁぁ」


 耳障りなので、俺はユニィに指示を出した。


「ユニィ、うるさいから腕を治してやれ」

「はぁい。リストア」


 ユニィが魔法を唱えると、バルデスの肩の切断面から、沸騰するように肉が盛り上がり、骨が組み上がり、血管が網目状に広がっていく。


「……っ、ぎ、あ、あああ!」


 痛覚すら追いつかない速度での強制再生。地面に転がっている自分の左腕を見つめながら、新しい腕が生えてくる恐怖にバルデスは白目を剥いた。


 繋ぐんじゃなく、(ゼロ)から再生させたのか。

 これほどのヒーラーが控えているなら、万が一ククルカンとの戦いで半殺しにされたとしてもリカバリーがきく。ますます好都合だ。


「腕は綺麗に治してやったぞ。早く呼べ」

「わ、わかったよぉ……ヒッ……」


 恐怖で顔を引きつらせたバルデスが、震える手で魔法通信機(マジックフォン)を取り出し、ククルカンに連絡を取った。返答は、『三時間後にここへ着く』とのことだった。


 俺たちは、怯えるバルデスを放置し、この世界の最強たる『ククルカン』の到着を悠々と待つことにした。

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