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美しく切ない花火  作者: オーストリッチマン
革命編

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第12話 情報交換

 待ち合わせ場所である宿屋の前に着くと、すでにジズゥたちが待っていた。


「悪い、待たせたな」

「ユリウス様、おっそーい! ウチら待ちくたびれて干からびるとこでしたよー!」


 ユニィが頬を膨らませて怒っている。

 これを見たジズゥが、笑いながら助け舟を出した。


「いえ、私たちもさっき来たとこですよ。ユニィはふざけているだけですので、お気になさらず」


 どうやら、ユニィの悪ふざけだったようだ。

 俺は情報交換のために本題を切り出す。


「早速だが、情報交換をしよう」

「はい」

「まずは俺から話す――」


 俺はジズゥとユニィに、冒険者ギルドであったこと――グスマンたちの無礼な態度や、ククルカンという冒険者の存在について話した。

 これには温厚なジズゥも、グスマンたちの振る舞いに腹を立てているようだった。言うまでもなく、一番激昂ていたのは感情表現が豊かなユニィだ。


「すまんな。期待していたほどの情報は得られなかった……。次は、ジズゥ頼む」


 ジズゥたちが商人から仕入れてきた情報は、『王私領トゥランの現状』と『この大陸の情勢』という非常に有意義なものだった。


 まずトゥランの現状だが、この国は税の搾取が異常に厳しく、一般市民は困窮を極めているそうだ。

 この国の王侯貴族は、平民を己の肥やし程度にしか見ていない。手に職がある者はまだ辛うじて生き長らえているが、職を失った者は街外れにある貧民街(スラム)へと追いやられ、その日の飢えを凌ぐことすら困難な生活を強いられているらしい。


 だが、真に腐りきっているのはその先だ。

 この国には、歪な種族差別が根付いている。人間至上主義を掲げる貴族たちは、ゴブリンや爬虫人、虫人といった人からかけ離れた異形の種族を迫害し、徹底的に搾取しているらしい。

 労働力となる健常な者は鉱山での過酷な強制労働に就かされ、老人や子供など、使えないと判断された弱者のみがスラムの最奥へと廃棄されるように追いやられているのだ。

 獣人のように見目良い種族は対象外のようだが……外見だけで優劣を決めるなど、国を統べる者の器ではない。


 過剰な物価高も、門番に要求された法外な通行料も、すべては一部の権力者が私利私欲を貪る腐敗構造が原因だったというわけだ。

 ……全く、どこの世界にも腐った為政者はいるものだな。


 次に、アトランティス大陸全体の情勢についてだ。

 現在、この大陸では『オリュンポス帝国』と『ユグドラシル聖王国』の二国が、突出した軍事力を持っているらしい。


 オリュンポス帝国の要注意人物は、皇帝ゼウスと十二神将(トゥエルブ・ゴッズ)

 ユグドラシル聖王国の要注意人物は、オーディン王と九界王(ナイン・レルムズ)


 この二つの巨大国家に対し、その他の小国は同盟を結んで辛うじて対抗している状況だという。つまり、この均衡が少しでも崩れれば、大陸全土を巻き込む大戦が勃発する可能性がある。


 しかし、ゲームには登場しなかったゼウスやオーディンが、この現実世界に存在しているとは。

 だとすると、エジプト神話のラーや、インド神話のシヴァなども、どこかの国のトップとして君臨している可能性がある。


 ――待てよ。地形は同じなのに、国の勢力図も権力者の顔触れも、ゲームとは別物だ。

 俺はふと嫌な予感がして、ジズゥに尋ねた。


「なぁ、ジズゥ。念のために確認しておきたいんだが……今は何年だ?」

「え? 神話歴50年ですが……どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない」


 ――神話歴50年。


 俺がやり込んでいた『ミソロジーワールド』の時代設定は、《《神話歴元年》》だったはずだ。

 ということは、俺が知っているゲームの時代から『50年後の世界』。

 いや、ゼウスやオーディンといった本来存在しないはずの神々がいることを考えると、単なる未来ではなく、歴史が分岐した『並行世界(パラレルワールド)』の可能性もある。

 いずれにせよ、俺のゲーム知識を過信するのは危険だ。この世界は、俺が知っている世界とは根本的に違う。


「大陸の情勢は大体分かった。残る問題は、俺たちの『連絡手段』だな。今回みたいに二手に分かれて行動した場合、お互いの連絡が取れないと不便すぎる」


 俺がそうこぼすと、ジズゥがベージュのハットに優雅に手を添え、口元に微かな笑みを浮かべた。


「ユリウス様が次にその問題へ行き着くことを見越し、既に調べておきました」


 ……マジか。手際が良すぎるだろ、こいつ。これほど先回りができる男が味方にいるのは、純粋に心強い。


「……さすがだな、ジズゥ」

「もったいないお言葉です」


 ジズゥは静かに、しかし深く頭を垂れた。ただ素直に感謝しただけなのだが、またしても勝手に感服している。あえて訂正するのも面倒なので、俺はそのまま先を促した。


「で、何が分かったんだ?」

「連絡手段は、『魔法通信機(マジックフォン)』という魔道具を購入すれば解決するかと」


 ――魔法通信機(マジックフォン)? 携帯電話みたいな魔道具か。


「そんな便利な物があるのか?」

「はい。ただ、一点だけ問題がございまして」


 ジズゥは表情一つ変えず、ハットのつばを静かに指で撫でた。


「一台、300万エルと少々値の張る代物なのです」


(一台300万エルだとッ!? ということは、四台で1200万エルか……現代の日本なら、高級車が買える金額だぞ)


「他の店だともう少し安いんじゃないのか?」

「いえ、残念ながらこのキニチで魔法通信機(マジックフォン)を販売している店は、そこ一軒だけらしいです」


 他に取り扱う店がないのをいいことに、足元を見て法外な値を吹っ掛けているのだろう。

 いくら何でも高すぎる……が、離れていても通話できる魔道具は、今後の活動にどう考えても必需品だ。幸いなことに、金だけは有り余るほどある。これは、買うしかない。


「よく調べてくれた、ジズゥ!」

「ありがとうございます!」

「ウチも手伝ったしぃぃぃ!」

「もちろん、ユニィにも感謝しているさ」


 俺がその派手なユニコーンカラーの髪を優しく撫でると、ユニィは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。直後、頬を染め、長い睫毛(まつげ)を揺らして、照れくさそうに笑った。


「えへへ〜」


 ジズゥとルティの視線に、羨ましそうな色が混じっていたが、俺はわざと気づかないふりをした。


「では、魔法通信機(マジックフォン)を買いに行くか!」


 ジズゥの道案内のもと、俺たちは魔法通信機(マジックフォン)屋へ向かった。


 ◇


 キニチの路地をしばらく歩くと、ジズゥが『魔法通信機(マジックフォン)店アルバレス』と書かれた看板を指差した。


「ユリウス様、ありました。あそこで魔法通信機(マジックフォン)が売っているそうです」


 ジズゥの指し示す指先には、地下へ続く薄暗い階段があった。

 俺たちは一段ずつ階段を降り、重厚な鉄の扉を開けて店内に入る。


「いらっしゃい」


 店内に踏み込むと同時に、野太く威勢のいい声が響いた。

 声の主は、スキンヘッドで目元に厳つい刺青(タトゥー)を入れた大男。カウンターの奥にどっしりと構え、こちらを睨みつけている。


 店内の広さは六畳ほど。お世辞にも広いとは言えない。

 この閉鎖的な空間に、俺たち四人とイカつい大男が一人。どうやら、このいかにも『その筋』にしか見えない人物が店主らしい。


 俺は一瞬たじろぎつつも、目的のブツについて切り出した。


魔法通信機(マジックフォン)を買いに来たんですけど……ありますか?」

「あるよッ」


 店主は威圧感のある低い声で短く答えると、ガラス張りのショーケースを顎でしゃくった。


 ――これが魔法通信機(マジックフォン)か。見た目は完全に現代のスマートフォンそのものだ。

 メールやネット検索みたいな機能があるのか確認してみる。


「これ、通話以外に何か機能はありますか?」

「通話以外の機能ォ? んなもんはねェなァ」


 ネットが使えないのは予想していたが、メッセージ機能すらなしか……。

 通話だけで、一台300万エル。思わず顔が引きつる。


「ちなみに、月額料金や通信費はいくらなんですか?」

「あァ!? なんだソレは。つきがく……りょうきん?」


 どうやら、この世界には月額料金という概念自体が存在しないようだ。


「いえ、なんでもないです……」


 本体代はバカ高いが、月額料金がかからない『買い切り型』なら、長期的に見れば悪い買い物ではないのかもしれない。とはいえ高額なのは事実だ。ダメ元で値引き交渉を試みる。


「あの、四台まとめて買うんで、少しは負けてもらえませんか?」

「値引きィ? 四台だろうが八台だろうが、四台で1200万エル。どうする?」


 交渉決裂か。まあ、他に売っている店が無い以上、独占企業の言い値で買うしかない。


「分かりました。では、1200万エルで買います」


 俺は異空間収納(アイテムボックス)から金貨が詰まった袋を取り出し、1200万エルをカウンターに重厚な音を立てて置いた。


「おっ、兄ちゃん気前がいいなぁ! 冷やかしかと思って愛想のない態度取っちまって悪かったなッ。ほいよ、毎度あり!」


 一瞬で態度を豹変させた店主。1200万エルの一括払いを見た途端、顔がとろけるような笑顔になった。露骨な手のひら返しだ。

 受け取ったはいいが、設定や使い方が分からない。俺は店主にレクチャーを頼んだ。


「これの使い方、教えてもらえますか?」

「あいよッ!」


 使い方を教わりながら店主と雑談を交わしていると、この店の奇妙な構造の理由が判明した。


 魔法通信機(マジックフォン)は超高級品のため、常に強盗の標的になるらしい。その対策として、あえて『強力な魔法の使用が難しい地下』に店を構えているのだとか。

 狭い地下で爆発魔法などを使えば、自分も生き埋めになる。強盗も命は惜しいというわけだ。


 さらに店が狭いのは、店主自身が『武闘家』だからだそうだ。

 この狭さなら強盗は長い剣や槍を振り回せない。逆に、至近距離のステゴロに特化した店主にとっては、ここが最強の処刑場になる。

 理にかなった防犯対策だ。


 一通りの操作を習得した俺たちは、店を出て地上へと戻った。


「よし、全員魔法通信機(マジックフォン)を手に入れたな。これで準備は万端だ」


 通話テストを終え、俺は仲間に向かって頷く。


「連絡手段も確保したところで……いよいよ、例の『ヤマの森』に向かうか」


 不快なA級冒険者グスマン、そしてあのゴブリンたちが待つ森へ――いざ、出発だ。

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