第11話 冒険者ギルド(2)
俺たちは二階の奥にあるギルマスの部屋に案内され、改めて謝罪を受けていた。
「ギルドマスターのイツァムナーだ。先ほどは、ウチの若いモンが迷惑をかけたみたいで本当に申し訳ない」
「いえいえ。お互い様ということで、気にしないでください」
「そう言ってもらえると助かる。――で、今日はこのギルドに何用で? 新規の冒険者登録、それとも仕事の依頼ですかな?」
隠す理由もない。ここは本当のことを言うか。
「いえ、情報収集です」
「――情報収集?」
「はい。実は、移住先を探しておりまして」
「移住先?」
「ええ。レムリア大陸からアトランティス大陸へ。どの国が適しているか、各地を渡り歩く冒険者の皆さんに話を聞けないかと思い、伺った次第です」
「なるほど、そういうことでしたか!」
俺はふと気になって、先ほどのグスマンとモラレスがどういう奴らなのか、ギルマスに尋ねてみる。
「ところで、あの二人の若者は何者なんですか?」
俺の質問に、ギルマスは少し顔を曇らせてから、観念したように口を開いた。
「……彼らは、このトゥランで二番手の実力を持つと言われるA級冒険者パーティー『黒き稲妻』のメンバーです」
「二番手、ですか。それだけ実力があれば、あの態度も頷けますね」
「実力だけならいいんですがね」
「だけなら?」
ギルマスは一度、周囲に視線を走らせてから声を落とした。
「……王侯貴族に賄賂を渡して、後ろ盾にしているんですよ。だから、このワシでさえ、強く出られん」
「……なんや、実力だけじゃなかったい。結局コネと金か。反吐が出るばい」
横で話を聞いていたルティが、汚物を見るような目で吐き捨てた。
若くしてそれなりの力と実績を持ち、おまけに権力者の庇護まで受けている。ギルド内で横柄な態度を取れる理由もそこにあるのだろう。
話のついでに、この世界における冒険者ランクの仕組みについても探りを入れてみた。
すると、階級は下から順に、C級(下級)、B級(中級)、A級(上級)、S級(超級)、そしてL級(伝説級))――完全にゲーム内の階級分けと同じだ。
(ということは、ゲーム時代にトッププレイヤーとして『L級』まで上り詰めていた俺は、この現実世界でもL級冒険者扱いになるのか……?)
ここで自分のギルドカードを取り出して確認してもいいが、万が一本当に『L級』などと刻まれていた場合、ギルドマスターの眼前で無用な波風を立てることになりかねない。今ここで確認するのは控えるべきだろう。
ヤマの森で異空間収納の中身を見たときに、ステータスも併せて確認しておくべきだったか。
いずれにせよ、焦る必要はない。ギルドを出てから、人の目がない場所で静かに確認するとしよう。
ついでに、ナンバーワン冒険者のことも聞いてみる。
「ちなみに、ナンバーワン冒険者の方は何て言うんですか?」
「ナンバーワンですか? それは『ククルカン』ですね。その者がこのギルドの頂点です」
「ちなみに、そのククルカンが所属しているパーティー名は何て言うんですか?」
「――パーティー? いえ、徒党は組んでいませんよ。なので、『孤高のククルカン』と呼んでいる者もいるみたいですが」
「――組んでいない?」
「ええ。ククルカンはこの国の冒険者の中で突出した力を持っているので、『ザコとは組まん』と言って一人で活動しています。まぁ、奴の場合は一人で活動する方が都合がいいんでしょう」
「そんなに強いんですか?」
「ええ。私も元冒険者でS級ですが、同じS級でもククルカンとワシでは天と地ほどの実力差があります。奴はL級寄りのS級ですからね」
ククルカン。いずれ会うことになるかもしれない。覚えておいて損はないな。
その時、ルティが慌てた様子で壁に掛けてある時計を指差し、俺に話しかけてきた。
「ユリウス様! そろそろ行かんば、待ち合わせに遅れるっスよ!」
(なにっ、もうそんな時間か!)
あのグスマンのせいで、余計な時間を食わされた。
急いで待ち合わせ場所に行かなければならないが、どうしても聞きたいことがあるので、ギルマスに最後の質問をぶつけた。
「あと一つ聞きたいことがあるのですが、このギルドに『転移魔法』を使える者は在籍していますか?」
「転移魔法……ですか? 私が知る限りその様な魔法を使用できる者はおりませんね」
「――知らない? つまり、存在しないと?」
「……おそらく」
……蘇生魔法と同じか。転移魔法も、この世界には存在しないとは。
ギルマスに挨拶をし、俺たちは部屋を出た。
階段に向かっていると、受付の方から「ヤマの森のゴブリン退治ですね。承りました」という声が聞こえてきた!
――ヤマの森のゴブリン退治!?
(それって、俺が見逃してやったゴブリンたちのことじゃないのか?)
だとすると、ポポル村の村長がギルドにクエストを出したということだ。
誰が依頼を受けたのか気になり、受付を見る。すると、グスマンたちが依頼書を受け取っていた。
(よりによって、あいつらか……。)
奴らの手に掛かれば、ゴブリンたちが無差別に蹂躙される。助けに向かうべきか。
……いや、それは体のいい建前だ。本音を言えば、俺たちに牙を剥いたあの若造どもを、この手で始末したいだけだ。
方針は決まった。まずはジズゥたちと合流するべきだが――その前に一つ、済ませておくべき事があったな。
ギルドをあとにした俺は、人目を忍んでギルドカードを取り出し、ステータスを確認する。
階級の欄には、予想通り『L級』と刻まれていた。
つまり、この世界においても俺の実力は『伝説級(L級)』という絶対的な領域にあるという証明に他ならない。
だとしたら、A級程度のグスマンやモラレスなど、路傍の石も同然だ。全く脅威ではない。
自身の圧倒的なステータスを確認し終えた俺は、合流地点へと向けて素早く駆け出した。




