第9話 鳥籠 2
まさかそんな事を言われるとは思っていなかったのだろう、僅かに顔色を失ったシリウスは無言で俯いていた。
「たかだか子供一人雇うだけに、なぜここまで厳しいのか、と思ったかね?」
口調は固めだが、ヴィヴィアンは本来真面目で誠実な女性だ。それを知っているからこそ、萎縮する少年の立場も理解した上で、ここだけは譲れないと最初に話を持ち出したのだと理解出来る。
「我々は依頼人から荷物を預かり、それを相手先に届けるのが仕事だ。だがこれは預かる側にも依頼する側にも、双方信用がなくては成り立たない。だが残念な事にその信用は、意外に儚く脆い。……我々は以前、二回程この信用を裏切られた。依頼人に裏切られた時は、大切な仲間の命を危険に晒した。仲間に裏切られた時は、大切な荷を紛失しかけた。そのような愚行を二度と繰り返すまいと、依頼を受理する際も、雇用に関しても、以前より厳格に審査を行う事にしたのだよ」
あの時、ヴィヴィアンは重傷を負った仲間に対して責任を取りたいと、辞職をルシアに願い出た。だがそれを引き止めたのが、当の怪我をした本人達だった。
『荷物の中身について虚偽の申請や記載をしたのは、依頼人の方です。法的に責任を取らねばならないのは彼等で、貴方ではありません。どうか御一考を』
『ヴィヴィアンは既に〈鳥籠〉の顔。ここで働くみんなの事を、一番に考えてくれる有難い上司。そんな人に何も悪ぅ無いのに辞められたら、ぼくらが馴染みの顧客や仲間みんなから、恨まれてしまいますやん。そんなん言わんとって下さい』
他の配達人からも同じ意見が多く、顧客からも懇願され、画して辞職は撤回された。それ以降、仲間を守る為、そして顧客からの信用回復の為に、ヴィヴィアンは規約を大幅に改定した。
「昨今は子供とはいえ、犯罪を犯している場合もある。私は〈鳥籠〉の社長として、仲間や顧客に迷惑や損害を与えかねない人物を雇えない」
そこまで話すと、ヴィヴィアンは話途中でルシアが注いでくれたお茶を飲んだ。室内は街路樹にとまる小鳥の鳴き声が聞こえる程静かで、皆が話の続きを待っている。
「……だが、今回は少々いつもとは事情が異なる。君を連れて来たミカド・東郷は、我が〈鳥籠〉でも職歴が長く、顧客・仲間共に信頼の厚い人物だ。彼が長い間バディ候補を吟味し、探していた事は皆が知っている。そんな彼が昨夜『未成年のバディ候補を同行』『〈グレース法〉が該当するか確認したい』と打診してきた。これは〝信用に値する若者を見つけた、助けになってやれないか〟という事に他ならない。我々とて、道に迷う若者の手助けをする事に異議はない。〈グレース法〉が適用されるか確認する為にも、我々の信用を勝ち取る為にも、考えてみてくれないか」
ヴィヴィアンはまるで〝己と戦え〟と鼓舞するように、真っ直ぐシリウスを見つめている。
「ミカド、〈グレース法〉については何か彼に説明を?」
「ここに来る途中、馬車の中で一通りは話したよ」
「そうか。ならば話は早い」
予想通り、役所から来てくれたそうなエディー・ミリガン氏と目線を交わすと、ヴィヴィアンはこう切り出した。
「働く意欲があるのなら、当然我々は迎え入れたい。だからこそ真実を話し、君を雇う事に対して問題など無い事を示して欲しい。それに〈グレース法〉の審査が通れば我々だけではない、この国の人皆が君の力になれるのだ。解るかね?」
シリウスが助けを求めるように、横目で俺を見た。当惑する青い瞳が、内にある不安を如実に知らせてくる。今、彼に一番必要なのは、分かりやすく、安心出来る言葉だろう。
「ヴィヴィアンは安心して迎え入れる為にも、シリウスの事をきちんと知りたいと思っているんだ。どうして家を出たのか、生まれた所はどこか、とかね。それをシリウス本人の口から話して欲しいって言ったんだよ。ただ今回は〈グレース法〉が使えるかどうか調べる為に、家の中の事や、他所の人には言いにくい事も、勇気を出して話して貰わないといけないんだ。〈グレース法〉はそれが本当かどうかを役所の人が調べに行ってくれて、事実そうだった時に初めて使えるようになるんだよ。嘘をついて、金だけ貰おうとする悪い人もいるからね。申し訳ないけれど、これは避けて通れない、どうしても必要な事なんだ」
シリウスは、黙って俯いた。彼にとって自身の事を話すのは、ネストカで国境を越えるよりも遥かに勇気が必要な事だろう。
「……貴方にとっては、私達はまだ〝よく知らない人〟ですもの。そんな人を相手に自分の事を話すのは、怖いかもしれません。でもどうかこれだけは信じて下さい。今この部屋にいる人達は、貴方の力になりたいと本気で思っているの」
ルシアが優しくシリウスに話しかける。その時、それまで黙っていたミリガン氏が口を開きかけた。
「もし君が、身近な人から虐待を……」
俺は咄嗟に彼に向け、手を上げて続きの言葉を制止させる。この質問を予想していたからこそ、ある事を決め、馬車内で説明を省いたのだ。
「シリウス」
そっと呼びかけると、彼はゆっくり上半身をこちらに向けた。その瞬間、俺は右手を彼の顔に向けて勢いよく伸ばす。
次の瞬間、ネストカの宿の時とほぼ同じ事が起こった。
シリウスは反射的に肩に力を入れ、奥歯を噛み締めると、眼を強く閉じて自衛の行動を取ったのだ。その場にいた俺以外の大人全員が、ハッとした表情になる。
証明する為とはいえ、俺がとった行動は非情ともいえるものだ。だが、自分が酷い男だと思われる分には構わない。思い出したくもない事を根掘り葉掘り聞かれ、暴力を受けた辛い記憶を、無理矢理引き摺り出すような苦痛を、限りなく減らしてやりたい。その一心だった。
内心で謝罪しながら、伸ばした手を頭の上にそっと置き、ぽんぽんと優しく跳ねさせる。
「話せる事だけでもいいんだ。心配しなくて大丈夫だよ、ここにいるのは、みんなシリウスの味方なんだから」
そっと開かれた青い瞳が、切なさを含んで俺を見上げる。ミリガン氏は俺の意図を察してくれたようで、それ以上虐待について踏み込む事はなかった。先程の行動だけで充分とみてくれたのだろう。〈若年支援課〉の彼ならば、虐待の疑いがあるというだけでも、最初の審査を通過する事は当然知っているだろうから。
「……君にだけ誠意を示せ、勇気を出せと言う訳ではないぞ。こちらも君に信用して貰う為に、用意していた物がある。意欲ある若手を本当に雇いたいのだ、という証を見せよう」
ヴィヴィアンは立ち上がると、自分の机から一枚の紙とペン、そしてインクを持って戻ってきた。
「これは仮登録の用紙だ。審査が通れば改めて正式に雇用登録をして貰う事になるが、査定を待っている間の君の身柄も、仮登録という形で〈鳥籠〉が保証する事を約束しよう。後は君が署名するだけにしてある」
座り直したシリウスは俯き、腿の上に握りしめた両手を置いたまま、暫くの間動かなかった。室内はその間、静寂に包まれたが、咎める者はいなかった。この少年には葛藤する時間が必要な事を、その場にいた皆が理解していたからだ。
だがその時、不意にヴィヴィアンが左手を制止するように上げ、人差し指を立てた右手を口の前に添えた。――静かにしろ? こんなに静かなのに? と不思議そうな俺達周りの反応を他所に、彼女は自身の腕章を使って、誰かに走り書きの手紙を送った。
次の瞬間――
廊下の方で妙な音がした後、「きゃっ」という小さな女性の悲鳴が聞こえた。
――あれは、アリスの声か?
もしや社長室にまで盗み聞きをしに来ていたんだろうか。俺がシリウスを伴って何も言わずに二階へ上がったから、気になって気になって仕方がなかったのだろう。
「失礼した」
ヴィヴィアンが心底呆れ果てた顔で皆に謝罪した。
「個人情報の扱いというものが、残念ながら理解出来ない者が当方におりまして。……実は今朝早くうちの魔法課に依頼して、ちょっとした仕掛けをこの二階に施しました。隣の部屋の前に反応魔法と、廊下全体に雷魔法を。後者は私の合図で発動し、この部屋の扉を開くと解除されるようにしてあったのです。」
……つまり、アリスが来るのを見越して罠を張っていたという訳か。ここ最近、俺と仲間の会話をそこかしこで盗み聞きしていた事は、ヴィヴィアンも知っているし想定済みだったんだろう。多分隣の通信課の前を通ったら、ヴィヴィアンに何らかの形で通報されるようになっていたんだな。
「……物音一つしませんが、どうなったんでしょうか?」
ライオネルが廊下に繋がる扉を見ながら呟くと同時に、空中から現れた青い鳥がヴィヴィアンの腕章に高速で飛び込み、ふわりと輝かせた。
「魔法課からの返信だ。〔あの子は、オイタの罰として玄関の植え込みに飛ばしておいたわよ。おつかれ〜☆〕だそうだ」
つまり今、正面玄関に行けば植え込みに嵌っているアリスが見られるって事だな。まぁ自業自得だ、仕方がない。この仕掛け、ヴィヴィアンは気に入ったようだから、今後改良しながら使い続けるだろう。
周りで一騒ぎあった中、机の上の仮登録用紙とインクとペンを前に、シリウスは終始無言だった。だが次の教会の鐘が鳴るかという間際、小さな声がぽつりと最初の真実を告げた。
「そんなもの出されても、おれ、どうする事も出来ねぇよ。……読むのも書くのも、ダメなんだ」
「学校へは行っていなかったのかね?」
シリウスの首が、苦笑したまま横に振られた。
「そんな所が、あったのかどうかも知らねぇ。遠くどころか、外にほとんど出た事がないんだ。前にも一度逃げた事があるけど、その時はすぐ捕まってさ。殴る蹴るの連続で、気を失って――眼がさめたら、床板が眼の前にあって、首に輪がつけられてた。おれを見下ろした親父が『これからは、家から離れるほどそいつが首をしめるぞ』って笑ってたよ。だからあの日から、家の近くの事しかわからねぇんだ。もともとメシ作ったり掃除したりは全部おれがやってたから、家の横にあった畑に行く以外は出なかったし」
――何て事だ。ほぼ監禁じゃないか。
この子の父親だと解っていても、内に湧き上がる怒りを抑える事は難しかった。
やはり首の妙な日焼け跡は、首輪だったのだ。恐らく魔道具の一種だろう。家のどこかに首輪と繋がる魔道具の本体が隠してあり、距離が増す程、絞まる仕組みになっているのだろう。家事を全部やらせていた事といい、暴力で言う事を聞かせるやり方といい、己の子供だというのにまるで奴隷の扱いだ。そんな親が存在するという事が、俄には信じ難かった。
ネストカの食堂で俺と同じメニューでいいと言ったのは、字が読めなかったからか。いくつか読み上げて、選んで貰えば良かった。気の利かない自分が情けない。
質問の口火を切ったのはミリガン氏で、メモを片手に聞き出すその顔つきは真剣そのものだ。
「ご両親のお名前は? あと、今幾つですか?」
「……親父の名前はボリス。……母さんは、おれが小さい頃にいなくなったって聞いた。顔も知らねぇ。歳は十七」
「姓名の姓は分かりますか? あと、他に一緒に住んでいる人はいましたか?」
ライオネルが続けて柔らかく尋ねる。
「イル……なんとかって言ってた気がする。何年か前から、家に親父が連れて来た女と、その子供が居座ってた」
「彼等の名前は解るかね?」
「親父は機嫌がいい時、あの女の事をマデリーンって呼んでた。息子の方がニコで、娘がカレン」
「ニコとカレンの歳はいくつぐらい? 二人はどんな人?」
ルシアの問いに、シリウスは顔を歪めた。
「多分ニコはおれより上、カレンは下だと思う。二人とも、性格の悪いクズみたいな奴らだった」
「家がどこにあったか、国や街の名前はわかりますか?」
丁寧にメモを取りながら、再びミリガン氏が尋ねる。
「……わからねぇ。人もあまり訪ねて来なかったし、そばに他の家もなかった。辺り一面黒っぽい地面がずっと続いてて、畑に何を植えてもロクに実をつけないんだ。毎日、親父とあの女がメシの事でケンカしてた」
そこでふと、言葉を止めたシリウスの表情が僅かに緩んだ。
「だからここに来る途中、馬車の中から麦が遠くの畑までいっぱい実ってるのを見て、びっくりしたんだ。あんなにキレイなもの、初めて見た」
眼を閉じたのは、脳裏にある金色の波を思い出す為だろう。痩せた土地に住んでいたらしい彼にとって、あれは夢のような光景だったに違いない。
「……一度そんな目に合ったのに、また家を出ようと思ったきっかけは? そもそも、どうやって首輪を外したんだい?」
一番聞きにくい事は、敢えて俺から言わせて貰った。
「……っ、それ、は……」
シリウスが、言葉に詰まる。
俯き加減の横顔から頬の筋肉が動いたところをみると、また歯を食いしばったらしい。腿の上に置かれた手が服を鷲掴みにしたまま、力を入れ過ぎて微かに震えている。必要な事とはいえ、これから一番思い出したくない事を、この子に話させようとしているのだ。自分達は今、罪深い事をしているのだと、改めて思わされた。
だが数分後、少年は顔を上げた。――その瞳に、決着をつけたいという強い意志が垣間見える。
窓から教会と各学び舎からそれぞれの鐘の音が十二回、別の楽器のように複雑に重なり合い、風と共に流れ込んだ。世の中は長閑な昼時を迎えたというのに、これからシリウスは苛烈な過去との決闘を強いられる。
「……あの日初めて、オモヤで台所じゃねぇ部屋におれを連れて行った親父が、ここで待ってろってすぐ出て行ったんだ。そんな事は今まで一度もなかったし、妙だなって思ったけど――すぐに親父が知らねぇ男と一緒に戻ってきた。親父はそいつから金を受け取って、後ろ手で扉に鍵をかけながら、おれに笑って言ったんだ。『オレとこいつで、お前に男を喜ばせるコツを教えてやる。これからしっかり稼いで貰うからな』って」
裏切りと、絶望。
こちらが想定していたよりも、遥かに無慈悲な現実をこの少年は見ていたのだ。愛してもやらず、食事も自由も満足に与えず、年頃になると体を売らせて金を得る――こんな唾棄すべき男が、この少年の父親とは。鬼畜等という言葉が生温く感じる程に、その所業は冷酷だった。これが血の繋がった親のする事か。
俺は我知らず、膝の上の拳を握り締めていた。
「……男がいきなりおれを突き飛ばしてきたから、そのまま床に倒れこんだ。そうしたら親父が、布でおれの両腕を頭の上に縛り上げて、押さえつけてきやがったんだ。それを見た男が、仰向けのおれの上に乗り上げてきたと思ったら、……今度は力まかせにおれの服をはぎ取り始めた。……だからヒッシで暴れてテイコウした。暴れる度に二人に殴られたけど、それでもやめなかった。何回殴られたか、わからなくなった時――突然、首が軽くなった。その時、おれに馬乗りになってた男が『何だこれ』って何かを持ち上げたら――おれの眼の前に、皮のところがすり切れて、完全に壊れたあのいまいましい首の輪がぶら下がってたんだ。そこからはムチャクチャ暴れてやった。ムチュウで男をけり飛ばして、今度はこっちが親父を突き飛ばして――窓を破って逃げたんだ。腕を縛ってあった布は、噛んで解いた。走れるだけ走って、あとはひたすら歩いて。昼だと見つかるかもしれねぇから、動くのは夜にした」
脳裏に夜の闇に紛れて歩く、ぼろぼろの服を来た少年が浮かんだ。歩くのだって、満足な食事が与えられなかったこの子にとっては、きっと俺の想像もつかない程、大変な労力だったに違いない。
「街に着いた後は、干してある服を貰って、食い物盗んで食ってた。でも少し前にクソ野郎共に見つかって『仲間に入って金巻き上げるのを手伝え、嫌ならここで殺す』って言われて。仕方なく仲間になった」
それがあの時、俺を囲んだ残りの四人だった訳か。
「……あとの事は、……この人が知ってる」
ちらりと横目で俺を見ると、シリウスは再び目線を下げて沈黙した。
一通り少年が話すのを黙って聞いていた大人達は、今や何としてでも彼をここに留めるぞと静かに意欲を燃やしていた。そんなクソ親父の所になど、この子を絶対に返すものか。虐待の中でも性的なものは最優先対象になると聞いたし、この分だと絶対に〈グレース法〉は適用されるだろう。あとは審査の結果を待つばかりだな。
「ありがとう、シリウス」
礼を言われた当の本人が、きょとんとしているのを見てルシアは微笑んだ。
「……そして、そんな辛い出来事を思い出させてごめんなさい。よく勇気を出して打ち明けてくれましたね。ここからは我々大人の仕事です。貴方がこれからすべき事は、審査が終わるまで仕事を覚えながら待つ事です。ミカドが必ず、貴方の力になってくれますよ。勿論、私達もね」
そう言うとルシアはヴィヴィアンに断って机に向かい、何事かを書いたメモを手に戻ってきた。
「これを貴方に」
「……でも、おれ……」
「そこに書いてあるのは〝シリウス〟。つまり貴方の名前です。仮登録の紙に、それをお手本に名前を書いてごらんなさい」
「……!」
シリウスは感激したようにメモをまじまじと見つめていたが、暫くすると恐る恐るペンに手を伸ばした。
「この白い部分が書く所だ。インクに、ペンの先の所を浸してみてくれ。……そう、それから紙に先を当てて……」
ヴィヴィアンが、出来うる限りの優しい声で補助をする。皆が心配そうに見守る中、懸命に横に置いたメモを見ながら、少年が慎重に字を書くガリガリという音だけが響く。――数分後、上体を起こし利き手を上げたシリウスが、大きく息を吐いた。緊張のあまり、呼吸を忘れていたようだ。
「おめでとう、シリウス。これで〈仮〉とはいえ、君はたった今からこの〈鳥籠〉の一員だ。しっかり働いてくれたまえ」
ヴィヴィアンが用紙を手に、にんまりとシリウスに笑いかける。皆が笑顔で祝いの言葉を口にすると、照れたのかシリウスはほんのり頬を赤く染めて、下を向いてしまった。――口調は悪ガキだけど、こういった所が可愛いんだよな。
場が落ち着いたところで、ミリガン氏が俺に一枚の書類を差し出した。
「東郷さん、一つお願いがあります。彼はまだ未成年ですし、我々としては是非、バディの貴方に後見人になって頂きたいのですが。よろしいでしょうか?」
成程、面倒を見る保護者が必要という訳だな。
俺は二つ返事で了承し、ミリガン氏の差し出した書類の後見人の欄に、自身の名前を書いた。
「あの、彼の住まいなのですが。まだ借りられる歳でもありませんし、どこかの寮に空きがないか、調べて貰う事は出来ますか? 本人さえよければ、見つかるまで私の家で預かりますので。――どうだい、シリウス?」
見知らぬ男の相手をさせられる所だったのだ、他人と一緒は嫌かもしれないと思っての提案だったが、大きく見開かれた青い瞳が、じっと俺を見つめ返してくる。
「……ずっとおっさんの家じゃダメか?」
「別に構わないけど……俺とはこれから仕事中も一緒なんだし、一人がいいなら、遠慮せずに言っていいんだよ?」
だが、シリウスの首は横に振られた。
「ライオネルの家だと、君と同じ年頃で配達人をしている、息子さんもいるんだよ。聞いてみなくていいのかい? 本当に俺でいいの?」
今度はこくん、と首が縦に振られる。
「……迷惑じゃねぇなら、おれ、おっさんの家がいい。……ここで暮らすのは初めてだし、右も左もわからねぇ。それに、まともな家のセイカツってのをした事がねぇから、教えて欲しいんだ」
成程な……。同じ年頃の子がいたら、話しやすくていいんじゃないかと思ったけど。――逆に普通の生活をしてきた子との隔たりを、感じてしまうかもしれないな。
「そうか。うちでいいなら歓迎するよ。男同士だ、気楽に共同生活といこう」
俺の返事を聞いたシリウスが、ふわりと微笑む。やっぱり、笑うと別格だなぁこの子。
「では、本日この件は一旦ここまでにしよう。ミリガンさん、明日もう一度お手数ですがおいで頂けますか?審査にかかられる前に、詳細を詰められたらと思いますが」
「えぇ、ではまた明日。お邪魔致しました、失礼します」
皆がミリガン氏を送ろうと立ち上がった、その時だった。
「――あっ」
シリウスが、小さく声を漏らした。
「どうした?」
「――違うかも、しれないけど。思い出した事があるんだ。家のあった所のことで」
「何でも良い、言ってみてくれ。情報を増やす事が何より大切だ」
ヴィヴィアンの言葉に、シリウスが頷く。
「親父に昔、逃げて捕まった後言われたんだ。『ラガトはどこに行ってもジゴクだぞ』って」
――室内は、その一言で緊迫した空気に包まれた。




