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ヒュール  作者: グラム
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第6話: アエルフレド

朝日はまだ大地へその荘厳な温もりを注いではいなかった。

 このような寒冷な季節、その恩恵を受けられるのは山々の頂だけである。

 ――もっとも、空高くまで届くものは他にもあった。

 一筋の白い湯気。

 一つの丘の頂から真っ直ぐに立ち昇っている。

 地面の裂け目からは熱湯が湧き出し、天然の湯溜まりをいくつも形作っていた。

 その周囲には、小さな林檎と桜の果樹園。

 さらに低木には、本来この季節には実らないはずの果実が枝を彩っている。

 ブラックベリー。

 ラズベリー。

 ブルーベリー。

 季節外れとは思えないほど豊かな実りだった。

 深い谷や平原を覆う凍てつく霧から逃れるには、まさに理想的な場所だった。

 リアムとアエルフレドが出会って以来、二人が初めて心から暖を取ることのできた夜。

 ……それでもなお、アエルフレドは安らかな眠りを得ることはできなかった。

 気付けば、彼女は見知らぬ場所へ立っていた。

 膝ほどの高さしかない草原が果てしなく広がっている。

 不思議なことに、その身体は人間と同じほどの大きさになっていた。

 遠くへ目を向けるほど景色は霞み、曇天と地平線がゆっくりと溶け合っていく。

 厚い雲の裂け目から覗くのは、白と青緑に輝く星々だけ。

 漆黒の空へ無数の穴を穿つように、その光だけが静かに瞬いていた。

 どこなのかも分からないまま、アエルフレドは歩き始める。

 不安はない。

 ただ、理由もなく前へ進んでいた。

 一歩。

 また一歩。

 耳を覆っていた静寂が、少しずつ音を取り戻していく。

 頭の中を満たしていた耳鳴りは、やがて草を踏みしめる微かな音へと変わっていった。

 その足跡の後ろには――

 砕け散った小さな翅が無数に散らばっていた。

 神秘種の白目のように黒く染まった羽。

 風が吹くたび、その欠片は灰となって空へ舞い上がる。

 まるで巨大な焚き火の燃え殻のように。

 その焚き火は、大地の奥底から噴き上がっていた。

 巨大な丘を取り巻くように黒い瘴気が渦巻き、

 丘の頂から麓まで、

 燃え盛る炎から、

 裸足のアエルフレドの足元まで、

 まるで蛇のように這い続けている。

 彼女は、その星色の煙から目を離せなかった。

 誰かの悲鳴が聞こえる。

 丘の頂から逃げようとしている。

 しかし誰も助けには来ない。

 やがて悲鳴は一つ、また一つと消えていき――

 最後に残ったのは、

 一人の赤子の泣き声だけだった。

 次第に大きく。

 次第に鋭く。

 次第に絶望に満ちていく。

 雷鳴が太鼓のような律動を刻み、

 青白い稲妻が幾本も地面へ落ちる。

 まるで蒼い森が一瞬だけ生まれては消えるようだった。

 アエルフレドの心臓もまた、

 雷鳴とは異なる奇妙な拍子で激しく鼓動していた。

 それほどの速さだった。

 もし正気を保っていたなら、

 彼女は運命を受け入れ、

 その場で死を待つことを選んでいただろう。

 死後の世界というものが本当に存在するのか。

 ただ、それだけを知るために。

 いつの間にか、

 世界は闇に覆われていた。

 冷気が青白い肌へまとわりつく。

 その瞬間、

 ようやく彼女は我に返る。

 目を開けたまま夢を見ていたことを理解した。

 足元には、一枚の青銅鏡。

 召使いが命を懸けて磨き上げたかのように、美しく輝いている。

 しかし、

 映っている光景は今ではなかった。

 リアムと出会った、あの日だった。

 熊が巣を襲った。

 妖精たちの集落を、

 蜂蜜の巣とでも勘違いしたのだろう。

 だが、

 一度その血が口へ入った瞬間、

 獣は正気を失った。

 どんな蜜よりも甘かった。

 どんな獲物よりも魅惑的だった。

 熊は食べることさえ忘れ、

 ただ殺す。

 引き裂く。

 一匹でも多く、

 一人でも多く、

 逃げられる前に命を奪おうとするかのように。

「……もっと早く動いていれば。」

 アエルフレドは震える声で呟く。

「エセルの赤ちゃんを助けられたのに……。」

「どうして……。

 どうして私は、自分が襲われるまで動かなかったの……。」

「本当に……

 私は最低だ……。」


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