第4話: クヌート
鐘楼の鐘が鳴り響く中、スヴァルトラズブルク要塞の巨大な両開きの門がゆっくりと開かれた。
そこを渡っていくのは、一隊の重装騎兵。
馬の蹄から騎士たちの頭頂に至るまで、磨き上げられた鋼に覆われている。馬には鎖帷子が掛けられ、騎士たちは鱗状の胸甲を身にまとっていた。
彼らの兜は、陽照海を囲む諸国ではほとんど見かけない形状をしている。
一目見れば分かる。あれは、砕けるまでに膨大な衝撃を受け止めるための兜だ。
それだけでも十分重そうだというのに、上部へ取り付けられた顔面防護具は顎まで覆い、まるで赤熱した鉄に人の顔を刻み込んだかのような造形をしていた。目穴と口の形によって、奇妙に無表情な面貌が浮かび上がっている。
背には、それぞれ異なる種類の長柄武器が括り付けられていた。いずれも旅用の布で丁寧に包まれており、この道中が少なくとも出発時点では危険を伴うものではないことを示しているようだった。
一行は朝日の昇る方角へ向かって進み始める。
蹄鉄は、薄く霜の残る泥地へ深い跡を刻んでいった。
うっすら白く染まった平原では、収穫を終えた畑が静かに広がっている。小麦、麦、大根、ニンジン――すべては冬に備えて領地と要塞の貯蔵庫へ運び込まれていた。
この地方は他の地域ほど四季の移ろいが明瞭ではない。それでも、季節ごとに色づく数少ない木々は主要な街に植えられている。その他の植生は、城壁ほど高い松林と、南方の樹冠に匹敵するほど密な低木ばかりだった。
その騎兵たちを見送っていたのは、外郭城壁の塔の上に立つ一人の少年だった。
青いチュニックの上から茶色い羊毛の外套を羽織り、波打つ赤毛が風に揺れている。
その眼差しには、何かを考え込むような色が宿っていた。見る者によっては、憂いにも期待にも見える曖昧な表情だった。
「考え込みすぎだって、言われたことはないか?」
螺旋階段を上がってきた男が声を掛ける。
細身でありながら妙に存在感のある人物だった。闇夜のように黒い髪。背丈は大柄な部類に入りながら、腕力だけなら他の男たちに劣るだろう。
黒革の外套の内側には赤みを帯びた柔らかな毛皮が縫い込まれ、首元には白銀の狐の毛皮が巻かれていた。剥製となった狐の頭は、自らの尾を噛み続ける姿勢のまま固定されている。
「アタル殿下!」
少年は慌てて跪いた。
「私の前でそんな真似はしなくていい。」
男――アタルは苦笑しながら彼を立たせる。
「父上がどう扱おうと、お前は私にとって家族だ。お前はただの平民じゃない、クヌート。」
「……すみません、アタル。気を付けます。」
「それより、いつ戻ったんだ? 夜明け前に鐘は鳴らなかったはずだが。」
「さっき馬を降りたばかりだよ。」
アタルは肩をすくめる。
「お前を驚かせたくて、鐘を鳴らさないよう頼んでおいた。」
そう言って口元を手で隠しながら笑った。
クヌートは半ば呆れたような目を向ける。
(驚いたというより、ただ予想外だっただけなんだけどな……。一体どこでこんな妙な冗談を覚えたんだろう。)
「叔父上の任務を邪魔したくなかったんだ。」
クヌートは城門の方へ視線を戻した。
「どうせ叔父上なら、堅苦しい宴会よりああいう遠征の方が好きでしょうし。」
「なるほど。」
アタルは頷く。
「でも、お前はどうして来たんだ? 去年戦争になった大平原の二つの王国の仲裁に行っていたはずじゃ……。」
「行っていたさ。」
アタルはため息をついた。
「だが失敗した。あの馬鹿ども、最後の一人になるまで殺し合う気らしい。」
そして軽く笑う。
「仲裁地が近かったから、そのまま寄っただけだ。叔父上が戻るまで、弟の面倒でも見ようと思ってな。」
「まだ子供扱いするんだな……。」
クヌートは少し頬を膨らませた。
「来月には十四になるんだ。農民の中には、もうこの歳で子供を結婚させてる家だってある。」
「ああ、そうか。」
アタルは矢筒の詰まった樽に腰を下ろし、腰の水筒を抜く。
甘い葡萄酒を一口飲み、そのまま弟へ差し出した。
「なら今夜、お前の寝台に女を送り込んでやろうか。」
「ぶっ!?」
クヌートは飲みかけた葡萄酒を盛大に吹き出し、激しく咳き込んだ。
「女を喜ばせる方法くらい、そろそろ覚えておいた方がいい。知識もないまま妻を迎えるのは感心しないぞ。」
「だ、誰も女が欲しいなんて言ってない! まして結婚なんて――!」
「分かってる、分かってる。」
アタルは愉快そうに肩を揺らす。
「だが、お前のその仏頂面を崩すという目的は達成できたみたいだ。」
再び水筒を傾ける。
クヌートも、ようやく小さく笑った。
「……それは、そうかもしれない。」
さっきまで胸を締め付けていた不安は、ほんの少しだけ和らいでいた。
アタルは真面目な声に戻る。
「心配するな。ハルヤ叔父上なら無事に帰ってくる。」
「あの人は、私が見てきた中でも指折りの戦士だ。大会で三位以内を外したところを見たことがない。」
「盗賊崩れの集団ごときに、スヴァルトラズブルクの領主が負けるものか。」




