第33話:運命の炎を鳴らす鐘 ― 第一部
マリアはいつも、父親が使っていた馬に乗って狩りへ出かけていた。
その馬はかなりの高齢だったが、暗い毛並みに銀色が混じった美しい姿をしていた。
背中にどれほど荷物を載せられても、一度も文句を言ったことはない。
おそらく、乗り手であるマリアがとても軽いことと、彼女のことを少なくとも十年近く知っていることが理由なのだろう。
狩りで仕留めた動物から、その皮、さらには肉食獣の一部まで。
どれだけ奇妙な荷物を背負わされても、この馬が取り乱すことは一度もなかった。
実に良い馬だった。
少女は自分の家の裏にある厩へ馬を入れると、鞍を外して横に置いた。
飼い葉桶には、その日の朝に入れられた干し草がまだ少し残っている。
「今夜はもっと寒くなりそうね。あなたも、この寒さには少し苛立ってるんじゃない?」
マリアは近くに置かれた火鉢へ炭と薪を少し入れた。
銅管を通して、厩全体へ温かさを送り込む仕組みになっている。
その日は、狩場に仕掛けておいた罠を確認しに行っていた。
残念ながら、何も掛かってはいなかった。
この辺りの動物の多くは、冬が訪れると冬眠する習性を持っている。
おそらく今頃は、暖かな巣穴へ入り込み、眠りが訪れるのを待っているのだろう。
雪こそ降ってはいなかったが、冷気と風はかなり強かった。
そのため、少女も冬用の衣服を身につけていた。
毛皮で裏打ちされたブーツ。
狐の毛皮で作られたマフラー。
そして背中と腕を覆う濃い色の羊毛の外套。
腰には同じ素材で作られた防寒具がいくつか取り付けられていた。
「ただいま!」
家へ入るなり、マリアは大声で叫んだ。
そして外套とブーツを脱ぐ。
その瞬間、彼女の胸に喜びが込み上げた。
目に入ったのは、小さなビアだった。
彼女は何着もの小さな服を一生懸命に縫っている。
おそらく、アーフレッドのためのものだろう。
元気そうにしているのは良いことだった。
だが、その一方で片目を失った影響による遠近感の問題は、まだ完全には治っていないらしい。
指先に小さな傷がいくつもあるのが、その証拠だった。
姉のエリザベスは台所にいた。
どうやら今夜の夕食は、パンと何かの煮込み料理になるらしい。
「おかえり、姉さん。今日は何か獲れた?」
「ううん。どうやら動物たちは、もう冬眠を始めてるみたい」
「そう……。だったら、そろそろ家にいる時間を増やした方がいいんじゃない? 今あるお金と燻製肉があれば、冬から春までは何とかなるでしょう?」
「あと数日は罠を見に行くよ。それと、追う価値のある獲物がいないか探してみる」
「私、あの……何て名前だったっけ、あの種類の……」
「そういう動物の名前は口にしない方がいいよ。特に、そういう意味で言う時はね。でも、『ヴァンデルン』って呼ぶなら問題ない」
内海の一部の民族では、「熊」という動物の名前を口にすると、不吉なものを招くと信じられている。
まるで、その大いなる獣の怒りを呼び寄せてしまうかのように。
この迷信は、特に辺境の狩人たちの間で根強く残っていた。
「あなたとお父さんが持ってた、そういう伝説とか迷信って……私には一生理解できそうにないわ」
――まるで、自分がついさっきエルフに会ったばかりじゃないみたいな言い方ね。
「とにかく、名前だけは口にしないように――」
その言葉が途中で止まった。
遠くから、奇妙な音が聞こえたのだ。
その正体が何なのかを理解した瞬間、マリアの目が大きく見開かれた。
そして、ブーツすら履かずに外へ飛び出した。
今や、不気味な旋律ははっきりと聞こえている。
港の鐘だ。
しかも、鳴り止まない。
それが意味することは一つしかなかった。
――危険。
突然の姉の慌てた様子に、家にいた二人の少女は何が起きたのか分からず、ただ呆然としていた。
その間にもマリアは急いで靴を履き、防寒具を身につけていく。
「マリア、いったい何が――」
「鐘が鳴り続けてる。何を意味するか分かってるでしょう?」
マリアは急いで答えた。
「私が様子を見に行ってくる。すぐ戻るから」
「扉と窓にはしっかり鍵を掛けて。それからビアを連れて二階の部屋のどこかに隠れて。屋根へ出る扉にも忘れずに鍵を掛けておいて」
「気をつけて! 何が起きているのか分かったら、すぐ戻ってきて!」
エリザベスはそう叫びながら、窓の鍵を閉め始めた。
マリアは再び厩へ駆け戻った。
そして馬に鞍を取り付け始める。
腹に回した革紐をできる限り強く締めていく。
もっとも、正しいやり方とは到底言えなかった。
その証拠に、馬からは不満げな唸り声と嘶きが返ってくる。
「分かってる、分かってるって。私だってこんな寒い日に外へ出たくないわよ。でも、何が起きてるのか確かめなきゃ」
マリアは馬の首を軽く撫でた。
「今回は大人しくしてくれたら、ニンジンをあげる。どう? 約束する?」
馬が短く嘶いた。
「うん。じゃあ、約束ね」
弓と矢筒を取り、そのまま馬へ飛び乗る。
そして乾いた森の中を駆け始めた。
途中、ヘルマンの家を通り過ぎる。
扉は半開きになっていた。
「……あの人も聞いたのね。急いで出ていったんだ」
「さあ、行くわよ!」
マリアは馬の脇腹へブーツを押しつけた。
「もっと速く走れるでしょう!」
その合図に応えるように、馬はさらに速度を上げた。
港を囲む木造の壁の近くには、すでに大勢の人々が集まっていた。
ほとんど空になった港では、まだ何人かの漁師たちが船から荷物を回収し、門へ向かって走っている。
子供たちまで何が起きているのか見ようとしていた。
柵の隙間から覗き込んだり、背伸びをしたり、飛び跳ねたりしている。
「マリア!?」
低く力強い声が少女を呼んだ。
振り向くと、そこにはヘルマンがいた。
普段よりも厚手の服を着ている。
首元から膝までを覆う、羊毛と麻で作られた大きな上着だった。
「何してるの? 鐘が鳴り続けてる意味は分かってるでしょう?」
「分かってる。でも、何がこっちへ向かってきているのか確かめないと」
マリアが城壁の上へ続く階段へ向かおうとした。
しかし、その前にヘルマンが彼女の前腕を掴んだ。
「もう暗すぎる。矢を撃たれたって、隠れる場所を見つけられないぞ。家へ戻れ。妹たちと一緒にいろ!」
「何から守れっていうの?」
マリアは振り返った。
「鐘があんな風に鳴り続けるのは、正体不明の船が近づいている時だって知ってるでしょう」
「ただの正体不明の船じゃない」
ヘルマンは港の外へ目を向けた。
「船の種類も大きさも分からない。遠くに弱いランタンの明かりがいくつか見えるだけだ」
「もうほとんど冬じゃない。満月だったとしても、そんな遠くのものなんて大して見えないでしょう」
マリアは少し考える。
「それに、あの老人はリアムと仕事に出てる。だったら、今港を指揮してるのは誰?」
「第一船長だ。少し前から、小舟を出して接触を試みている」
「……まだ戻ってこないの?」
「いや」
まるで、その言葉を合図にしたかのように――
港の方から、凄まじい叫び声が響き渡った。
「なっ……何だ!?」
ヘルマンが叫ぶ。
すぐに、少し離れた場所で様子を見ていた兵士が声を上げた。
「ヘ、ヘルマンさん! 第一船長! こちらへ来てください!」
その兵士は、ごく普通の若い兵士だった。
装備にも特別なものはない。
いつもの厚手の上着に、頭を守る鼻当て付きの兜。
二人が城壁へ近づき、何が起きているのか確認しようとする。
群衆をかき分け、港の様子が見える場所まで進んだ。
そこで二人が見たものは――ほとんど同時に、言葉を失わせるものだった。
送り出した小舟には、もともと二人の男が乗っていた。
一人は櫂を漕ぐ船員。
もう一人は船首で大きなランタンを掲げる見張りだった。
しかし、戻ってきた小舟に乗っていたのは、一人だけ。
しかも、その小舟は血で染まっていた。
残った青年が、必死に船を漕いで戻ってきたのだ。
船の座席の一つには、仲間だった兵士の頭部が残されていた。
兜は革紐によって、まだ頭に固定されたままだった。
そして、船を満たしていた大量の血の原因となったもの。
それは、外套に包まれた無惨な状態の肉塊だった。
その中から辛うじて見分けられたのは、一つの手だけ。
二人の兵士が船へ乗り込み、詳しく状況を確認する。
そして小舟を岸へ固定した直後――
櫂を漕いでいた男の両足首が、船の梁を固定するための釘によって打ち付けられていることに気づいた。
「……あいつ、血が足りなくなれば死ぬって分かってたんだ」
マリアは、急いで船から運び出されていく兵士を見ながら呟いた。
「それでも、全力で漕いで戻ってきたんでしょうね」
「……ふむ」
ヘルマンは短く唸った。
その顔には、明らかな警戒が浮かんでいる。
「私は第一船長と話してくる。こういう時のために、矢を保管してるはずでしょう?」
「行ってこい。そして妹たちと一緒にいろ。俺はここに残って手を貸す」
「私が村でも指折りの弓使いだって知ってるでしょう」
マリアはヘルマンを真っ直ぐ見た。
「ここから矢を撃った方が、ずっと役に立つ」
「馬鹿なことを言うな」
ヘルマンは強い口調で返した。
「お前は戦場を見たこともなければ、人を殺したこともない。そんなことをする必要はない。さっさと行け」
「……嫌」
マリアは首を横に振った。
「今回は、あなたの言うことを聞けない」
「自分が外に出ている間に、あいつがリザを狙うかもしれないんだぞ?」
「『あいつ』は、玄関を通ることすらできないわ」
マリアは即答した。
「昔、お父さんが私たちに罠の作り方を教えてくれたでしょう。リザは毎晩、それをちゃんと作動させてる」
「その場所と解除方法を知っているのは、私たち四人だけ」
一瞬だけ、ヘルマンの眼差しが普段より重くなった。
子供たちが、そんな生き方を強いられていた。
それを思うと、どうしようもなく悲しくなる。
彼の人生において、こうした光景そのものは決して珍しくなかった。
だが――
この子たちは違う。
長い年月の中で、ヘルマンが本当の意味で心を寄せるようになった、最初の子供たちだった。
「……ったく」
ヘルマンは頭を掻いた。
「お前は本当に、壁みたいに頑固だな」
「口に気をつけて。私、まだ子供なんだから」
「そんなことを言われるには、もう十分歳を取ってるだろ」
ヘルマンは呆れたように言った。
「それに、お前はもうずっと大人みたいな振る舞いをしてる」
「せめて、鎧代わりになるような厚い服があるか教えて」
「厚手のものなら、今着ている」
「これじゃ足りない」
マリアは自分の服を見下ろした。
「遠くからでも、矢一本で致命傷になることがあるでしょう?」
ヘルマンは少し考えると、古びた粗末な鍵を彼女へ差し出した。
「これを持っていけ」
「お前は馬に乗ってるんだろ。俺の家へ行って、道具の置いてある側の扉を開けろ。使えそうなものがあれば、好きに持っていけ」
「でも、あなたは?」
「俺なら大丈夫だ」
ヘルマンは外套の下を少し見せた。
「もう鎖帷子を着込んでここまで来てる」
武器については何も答えなかった。
答える必要などなかった。
腰には、大きな斧がはっきりと吊るされていたからだ。
「俺はこれから村の民兵をまとめる。お前は行け」
「……分かった」
マリアは鍵を受け取った。
「ありがとう、ヘルマン」




