第32話:口笛の矢 ― 第一部
観察地点は、容疑者たちの拠点を南側から取り囲む、険しく岩だらけの丘の上にあった。
弓兵は周囲から集めた土をいくつか積み上げ、その上を木々の枝で覆っていた。残されているのは、そこから拠点を覗き見るための小さな隙間だけだった。
そこにいる彼は、しばらく前から若い友人の存在に気づいていた。
そもそもリアムは、近づいてくる気配を隠すのが昔からあまり得意ではない。
「……状況はどうなってる?」
リアムは小声でテイターに尋ねた。
「自分の目で見てみろ。あそこを見張っている男は、六人以上確認できなかった」
正直なところ、あの野営地はかなり立派だった。
周囲には棘のある枝を集め、それをさらに太い木の枝へ絡ませて支柱にした柵が設けられている。
見張り台は二つ。
どちらも藁葺きの屋根が取り付けられているが、現在兵士が配置されているのは片方だけだった。
その周囲には小さな天幕がいくつか並んでいる。
おそらく地面に掘った穴を葉や獣皮で覆ったものだろう。
しかし、その中でも一つだけ、他より離れた場所に大きな天幕が張られていた。
そこには頻繁に一人、あるいは二人の男が出入りしている。
さらに、木材と石を組み合わせた小さな倉庫らしき建物まで建てられていた。
そしてそれは、簡素な桟橋の近くにあった。
そこには小さな商船が一隻停泊している。
ただし、すぐに出航するつもりはないらしい。
帆は完全に畳まれ、船体も波に引かれて動かされないよう、複数箇所をしっかりと固定されていた。
「……おかしい」
テイターが呟いた。
「何がおかしい?」
「俺が確認したのは、せいぜい六人だ。それなのに、あそこにはテントが多すぎる。必要な数より五つも多い」
「その五人は、近くまで何かを狩りに行かされたんじゃないか? 魚と交易品だけで食料を賄えるとは思えない」
「それなら、あれも説明がつく」
テイターは建物の方向を指差した。
正確には、その建物に隣接するように並んだいくつかの屋根へと。
「馬小屋?」
「そうだ。あの大きさなら、少なくとも数頭は馬がいるはずだ」
「それなら、俺たちがここへ来た目的はもう終わったってことか?」
「理屈の上ではな。ここにいる人数は確認できた。だが……少し気になることがある」
「何だ?」
「お前が来る前、船から大量の書類をあの大きな天幕へ運んでいく奴を見た。あそこに何が書かれているのか読めれば、奴らが何を企んでいるのか、もっと詳しく分かるかもしれない」
「だが、それをやるなら、残りの五人が戻ってくる前じゃないとまずい。もし失敗したら、全員を相手にしなきゃならなくなる」
「その通りだ」
「ふん。あの鍛冶屋、本当にお前に頭の使い方を教え込んだようだな」
突然、背後から声が聞こえた。
二人は驚いて、危うく声を上げそうになる。
そこに立っていたのは、村の保安官コンラッドだった。
「うわっ、保安官! 心臓が止まるかと思ったぞ!」
「耳を掃除しておけという忠告だ。そうしないと、あの野営地へ入った時に見つかるぞ」
コンラッドはそう言うと、拠点の方へ視線を向けた。
「それに、今がちょうどいい。日が完全に沈むまで、まだ少し時間がある。その間に、もっとまともな作戦を考えるぞ」
「ハンフレッドも呼びますか?」
テイターが尋ねた。
「必要ない。あいつは入口を見張りながら、こちらの話も聞いている。そうだろう、孫よ?」
岩の隙間から手だけが伸び、肯定するようにひらひらと振られた。
「俺も最後の方は聞いていた。さっさと決めよう」
ハンフレッドの声が続く。
「まず、弓兵にはあそこの見張り台にいる男の代わりになってもらう。見えるか? あいつ、かなり眠そうだろう?」
コンラッドは見張り台を指差した。
「そこを利用して倒せ。方法は任せる。ただし、怪しまれないように奴の防具を使え。分かったな?」
「どうやってそんなことをしろっていうんだ?」
「簡単だろう? お前は村でも指折りの弓使いだ。あいつの首に裂傷用の矢を当てればいい」
「嫌だ。俺は……俺はそんなことをするために来たんじゃない」
「何だ? お前は、そんなことも――」
保安官の言葉をリアムが遮った。
「テイターの言ってることが正しいです。裂傷用の矢じゃ、首みたいな場所に当たったら血がかなり出る。木の隙間から血が垂れているのを他の連中に見られたら、何かがおかしいって気づかれる」
「……では、もっといい方法があるのか?」
「あります。テイター、あの口笛を鳴らす矢を持ってる?」
「ああ。敵を攪乱したり、合図を送ったりするために使えると思って持ってきた。でも一本でも撃てば、野営地中の連中がこっちを見るぞ」
「分かってる。一本貸してくれ。俺に考えがある」
口笛の矢は、もともと軍隊などで敵を怯えさせたり、味方へ合図を送ったりするために使われていた。
しかし、やがて一部の狩人たちも、それを獲物を目的の場所へ誘導するために使い始めた。
一見すれば普通の矢と大差ない。
ただし、矢尻だけは通常より大きく、鋭さも抑えられている。
そして最も特徴的なのが、そこを横方向に貫く小さな穴だった。
その穴によって内部に空洞が生まれ、矢が勢いよく飛んで空気を切り裂くことで、独特の口笛のような音を発生させる。
リアムはポケットから、いつも持ち歩いている小さな布切れを取り出した。
万が一のために持っている包帯の一部だった。
その布をさらに小さく切り、穴の中へ押し込んでいく。
内部に隙間がなくなるまでしっかりと詰め込むと、今度は穴の入口と出口を、それぞれ革を編んで作った丈夫な紐で縛った。
「よし。これなら、もう音は出ない」
リアムは矢を軽く持ち上げた。
「こいつは重いから、兜に当てれば殺さずに気絶させられる」
――まあ、下に厚い防護用の綿入れでも着ていれば、だけど。
そう思ったが、友人の肩にこれ以上余計な重荷を背負わせるつもりはなかった。
「必要なのは、これを使うタイミングだけだ。誰も近くにいなくて、矢が兜に当たった音を聞かれない瞬間を狙う」
リアムは見張り台の下を指差した。
「その後、お前はあそこの小さな穴から入って、上へ登る」
「柵の下にある、犬が掘ったみたいな穴のことか?」
「そうだ。そこを這って進んで、見張り台を乗っ取る」
リアムはテイターを見た。
「さあ、もう文句はやめろ。最大の問題は解決してやったんだからな」
「そして二つ目の役目は、お前だ、リアム」
コンラッドが口を挟んだ。
「お前には、あの大きな天幕へ入り、何があるのか確認してもらう」
「どうして俺なんだ?」
「お前がここにいる中で唯一、文字を読めるからだ」
コンラッドは呆れたようにため息をついた。
「まったく……お前たちは文句が多すぎる」
「分かった、分かった。俺が行く」
リアムは小さく息を吐いた。
「ただ、何か問題が起きた時に備えて、二人には正面入口で待機していてほしい」
「当然だ」
コンラッドが頷く。
「もしすべてが失敗したら、お前とテイターはできる限り時間を稼げ。その間に俺とハンフレッドが背後から全員を叩く」
そして、彼は太陽が沈みかけている空を一瞥した。
「だが、そろそろ始めた方がいい。そうでなければ、あの五人が戻ってきて、こちらが不意打ちを食らうことになる」




