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ヒュール  作者: グラム
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第20話: 西の大遺跡 (第十二部)

「……つまり、あなた方は罠にかかることを最初から承知していた。そして、あの丘の上へ大量の食料を運び込んでいた、ということですね。」

 リアムの言葉を、老女は静かに人々へ伝えた。

「その通りでございます。

 すべてが終わったのは、それから数週間後のことでした。

 かつてないほど激しい総攻撃の最中、空を裂くような轟音と共に、無数の炎が降り注いだのです。

 マボンリアン様のお身体は木片によって真っ二つに裂かれ、敵軍の騎兵は、その爆発で生じた突破口から一気に雪崩れ込みました。

 あの瞬間、多くの者が敗北を悟りました。

 私たちは……アルダン様を無理やり戦場から連れ出すしかなかったのです。」

「その四日後には、敵は私たち――女や老人、子供たちが身を隠していた場所へも辿り着きました。」

 老女は静かに話を続ける。

「族長の座を争っていた三人は、その時だけは意見を一つにしました。

 そして私たちは北へ――

 ルブラ山脈を越え、呪われた土地を抜け、この場所を目指して旅を始めたのです。」

(……あの巨人と、アルダンと口論していた男が、残りの二人だったのか。

 ってことは、あの痩せた男は……たぶんもう。)

「なるほど。

 つまり俺は、最後の一人を倒したから、お前たちの長になったわけか。」

「ええ……半分は正しく、半分は違います。」

 老女は首を横に振った。

「我らの掟では、決闘の勝者であっても、よそ者が『族長』や『長』になることはできません。

 今は、他に相応しい呼び名がないため、そのようにお呼びしているだけでございます。」

「つまり婆さんが言いたいのは、お前は俺たちの族長じゃないってことだ。」

 顔中を炭で落書きされたアルダンが、不機嫌そうに口を開く。

 どうやら眠ろうとしても、あの妖精が好き放題いたずらを続けているらしい。

「……え?」

「聞こえなかったのか?

 今、残っている全部族は、お前の配下だ。

 もっと正確に言えば――

 奴隷としてな。」

「……奴隷?」

 リアムの胸が重く沈む。

 借金奴隷や戦争捕虜が奴隷になる風習くらいは知っていた。

 珍しい話でもない。

 しかし、自分がたった一度の決闘で、これほど多くの人間の主人になるなど、想像したこともなかった。

 しかも、戦った相手はまだ生きている。

 そんな形で誰かを所有するなど、到底受け入れられなかった。

 しばらく黙り込み、考える。

 周囲もまた、静かに彼の答えを待っていた。

 やがてリアムは口を開く。

「……つまり、俺はお前たちに何を命じてもいいんだな?」

 その一言を聞いた瞬間、二階の回廊から様子を窺っていた、リアムと同年代ほどの少女が二人、慌てて姿を消した。

「はい、我が君。」

 老女は悲しげに頷く。

「それなら――

 一頭、鞍を付けた馬を貸してくれ。

 できれば、さっきの馬じゃないやつで。

 あいつとは、あまり仲良くなれそうにない。」

 リアムは立ち上がり、荷物をまとめ始める。

 剣についた血と泥を丁寧に拭き取り、鞘へ納める。

 風呂敷の中身を即席の背嚢へ移し替え、それを背負った。

 やがて、一頭の馬が連れて来られる。

 先ほどの巨馬ではない。

 一回り小さく、白樺の樹脂を思わせる淡い栗色の毛並みを持つ馬だった。

 リアムは手綱を受け取り、深く頭を下げる。

 その光景に、野蛮人たちは一斉に困惑した。

 主人が、自分の所有物へ頭を下げるなど聞いたこともない。

 馬へ跨ったリアムは、そのまま静かに口を開いた。

「みんな、聞いてくれ。

 俺は奴隷を手に入れるためにここへ来たわけじゃない。

 ……実は、お前たちと同じなんだ。

 ある一つの希望を求めて、この場所まで来た。

 そして、その希望は今、この荷物の中にある。」

 背中の荷物へ軽く手を添える。

「だから俺は、お前たちの主人になるつもりはない。

 でも、お前たちの掟が俺を主人だと言うなら……

 その権利を使わせてもらう。」

 リアムは真っ直ぐ彼らを見渡した。

「俺の所有物として。

 そして、そのすべてを自由にする権利を持つ者として宣言する。

 ――お前たちは全員、今この瞬間から自由だ。」

 一同は呆然としていた。

 老女が何度も訳し直すたび、人々は「聞き間違いではないのか」と問い返す。

 彼女自身も、自分が本当に正しく聞き取ったのか疑い始めていた。

「Jhá’do hordnarkhagch e do cérr, phulla ibh ile nu borve ka thurlt i.」

 アルダンが立ち上がり、自分たちの言葉で民へ語りかける。

 その一言だけで場は静まり返った。

 ……ほんの二分ほど。

 次の瞬間には、大歓声が沸き起こった。

 今度は疑いではない。

 喜びの叫びだった。

「じゃあ、この剣と本、それから馬は借りていく。

 ……そんなに困らないだろ?

 行こう、アエルフレド。」

「もうここにいるわよ。」

 妖精はいつの間にかリアムの上着のポケットへ潜り込んでいた。

 小さく手だけを外へ出して振る。

 どうやら外の寒さを見越して、先回りしていたらしい。

「峡谷の一番狭い場所へ丸太橋を架けてある。」

 アルダンが言う。

「岩壁を左へ回って少し進めば見つかる。」

「正直、それをもっと早く知りたかった。」

 リアムは苦笑する。

「鹿の後を追って岩場を渡る途中、本気で落ちるかと思った。」

「ふん。

 耳が悪いだけじゃなく、目まで悪かったのか。」

 アルダンは鼻で笑った。

「……やっぱり、お前が族長にならなくて助かった。」

(……なんであいつ、あんなに笑えるんだろう。

 まあ……

 俺が殺した連中は、あの痩せた男の派閥だったのかもしれない。)

「これで、お前がまたみんなの長だな。」

 リアムは馬の向きを変える。

「たぶん、もう会うことはない。

 だから……さよならだ。」

「俺も、お前の住む場所へ行くことはまずないだろう。」

 二人は最後に軽く笑い合った。

 そしてリアムとアエルフレドは、森へ続く道を進み始める。

 一頭の馬を得たことで、深い森の獣道であっても帰路は大きく短縮できる。

 妹を救える時間は、まだ決して十分ではない。

 それでも――

 その希望だけは、確かに以前より近づいていた。


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