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ヒュール  作者: グラム
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第10話: 西の大遺跡(後編)

二人とも、終わりの見えない戦いによってすでに消耗しきっていた。

浅い切り傷から流れる血が汗と混ざり、肌を焼くように痛む。

だが、それはまだ本当の重傷とは比べものにならなかった。

「……よし。」

蛮人はそう言って、剣を鞘へ収めた。

「ここまでにしておこう。」

「……は?」

「バフィール・イ・ライク・マクス・ウー。」

その言葉と同時に、鍛冶場の外から地鳴りのような振動が伝わってくる。

蛮人はそれだけ告げると、背を向けて建物を出ていった。

リアムは剣を下ろさない。

(足音は二歩ずつ、間隔が一定だ……四足歩行の獣じゃない。)

(マリアなら、きっと重さまで言い当てられるんだろうな……。)

心臓の鼓動が速くなる。

姿を現すと思うたびに、さらに重い一歩が地面を打った。

さっきよりも強く、さっきよりも大きく。

嵐の前に物干しの布が震えるように、剣先が細かく揺れる。

刃にはすでに無数の傷が刻まれていた。

小さな欠け目や歪みから、鋼の破片がぽろぽろと落ちていく。

鍛冶場に並ぶ武器のすぐ脇。

そこへ――巨体が現れた。

入口をくぐるだけでも窮屈そうだった。

上枠へ手を添え、身をかがめながら中へ入ってくる。

「大きい」という言葉では足りない。

村ではリアム自身も長身と見られていたが、目の前の存在はその比ではなかった。

(二メートル……?)

(いや、違う。俺が一八〇なら、あいつは……三メートル近い。)

リアムは一歩も動けなかった。

巨人が身に着けているのは、膝近くまで届く薄いチュニックだけ。

何の汚れか分からない染みが無数に付いている。

裸足だった。

だが、その足裏は人のものではない。

厚い胼胝は、まるで獣の蹄のように見えた。

両肩には、二つの猪の頭が重い外套を支えている。

剥製にされた獣の牙が、毛皮を身体へ固定していた。

そして、その中央。

顔を覆っているのは、片目だけを残した巨大な獣の頭蓋骨。

下からは四本の巨大な牙がねじれながら突き出している。

武器は棍棒。

いや、もはやそれは武器というより凶器だった。

柄は巨大な大腿骨。

おそらく仮面と同じ生き物の骨だろう。

先端には漆で固められた岩塊が括り付けられ、毛皮の残った革紐が何重にも巻かれていた。

巨人はその棍棒を持ち上げ、頭蓋骨の奥から咆哮を放つ。

耳を裂くほど大きく、ぞっとする声だった。

周囲の鳥たちは巣を捨て、悲鳴のように飛び立っていく。

直後――。

要塞屋敷の内部から、凄まじい轟音が響いた。

小さな建物の中には、床からリアムがいた場所まで一直線に破壊の跡が伸びていた。

リアムは灰色の石階段の上へ叩きつけられている。

先ほどまで閉ざされていた扉は、無残な木片となって散らばっていた。

破片の多くは、彼と石段の間に積もっている。

視界が揺れる。

埃と木片が服にまとわりつき、重さを増していた。

(速い……っ。)

(ごほっ……ごほっ……。)

(馬に蹴られたって、ここまで痛くはない。)

巨人はゆっくりと近づいてくる。

一歩ごとに、苦しげな唸り声と重い呼吸が響いた。

時間の感覚がおかしい。

遅く感じたかと思えば、次の瞬間には一気に加速する。

リアムは立ち上がれない。

動くのは手首だけ。

その力だけで、かろうじて剣を握っていた。

再び、怪物の棍棒が振り下ろされる。

その動きは、まるで巨大な蹴りだった。

石と革で覆われた先端が床を擦り、リアムへ向かって突進してくる。

彼は咄嗟に剣を構え、前腕を支点にして受け止めた。

だが、勢いは止まらない。

身体は再び吹き飛ばされ、階段上の扉へ激突する。

扉は前のものと同じように砕け散った。

棍棒はそのまま横木へ叩き込まれ、周囲は瓦礫の barricade と化す。

建物全体が震えた。

天井から埃が降り注ぐ。

階下では、巨人が瓦礫を引き剥がし、粉砕している音が響いていた。

その度に、建物の揺れはさらに大きくなる。

リアムの左手に残っていたのは、もはや剣ではなかった。

柄。

鍔。

そして、三本の指ほど残った刃の根元だけ。

残りはすべて砕け散っていた。

瞼が閉じそうになる。

素手であの怪物と戦えるはずがない。

意識は重く沈み、右側の顔を血が伝っていた。

こういう孤独な瞬間には、いつも記憶が蘇る。

六年前。

リアムは九歳。

幼いベアトリスは三歳だった。

その頃から彼女は弱い子だった。

いつも鼻を垂らし、なかなか体重も増えない。

父は漁へ出たまま、四人の船乗りと共に消息を絶った。

母もまた、娘と同じように生まれつき身体が弱く、常に病を抱えていた。

それでも、村の多くの女性とは違う美しさを持っていた。

銀色の髪。

その色は、末娘のベアトリスへそのまま受け継がれていた。

リアムだけは、淡い金色が混ざっている。

苦しい生活だった。

それでも、わずかな蓄えで何とか暮らしていた。

母が再び病に伏せるまでは。

彼女は決して、息子に自分の手足を見せようとしなかった。

いつも包帯で巻き、服で隠していた。

あの日の朝は、ひどい雨だった。

ベアトリスは泣き止まない。

理由は分からない。

リアムはリザとマリアに手伝ってもらいながら、必死に寝かしつけようとしていた。

お腹が空いているのかもしれない。

そう思って、リンゴ粥の瓶を開けてもいいか母へ聞きに二階へ上がった。

そして、扉を開けた瞬間――。

彼は、なぜ家が静かだったのかを理解した。

母は白い長い寝間着を着ていた。

露出した手足は、すべて包帯で覆われている。

ただ、首だけは違った。

縄が巻かれ、その身体を支えていた。

顔には銀髪が張り付き、血の混じった唾液で濡れていた。

あの時の母の顔を、リアムははっきりと思い出せない。

葬儀の時でさえ、心がそれを見ることを拒んでいた。

彼はただ、ベアトリスだけを見ていた。

小さな妹は、兄と隣人の手を何度も振りほどこうとしていた。

一度だけ、ほんの少しだけ成功した。

そして、開いたままの墓穴へ向かって走り出した。

もしマリアが飛び込んで脚を掴まなければ、そのまま落ちていただろう。

ベアトリスは泣くことしかできなかった。

そして、リアムの脚に顔を埋めて涙を隠していた。

その記憶は、突然の痛みで途切れた。

脛に何かが当たったのだ。

見上げると、天井の梁の隙間に何かが引っかかっている。

どうやら、あの巨人が暴れた時に落ちてきたらしい。

「……剣?」

リアムは目を細めた。

長い剣だった。

地面へ立てれば、リアムの肩ほどまで届くだろう。

柄を包んでいた黒い革は、年月によって朽ち、触れただけで崩れ落ちる。

その下から木の芯が露わになっていた。

鍔と柄頭は青みがかった金属で作られ、精緻な装飾が施されている。

鞘から抜き放たれた刃は、細長く湾曲し、片刃だった。

月光のように淡い。

だが、重くない。

むしろ、信じられないほど均衡が取れていた。

階下の音が止む。

瓦礫はもう、巨人を止められない。

逃げ道はない。

窓は小さすぎる。

リアムはそれを理解していた。

彼はただ、剣を構える。

肋骨には針を刺されるような痛みが走っていた。

息を吸うたびに痛みは増す。

深く呼吸できない。

短く、浅く、空気を吸うしかなかった。

(長引かせる余裕はない。)

(でも、あの怪物相手にまともに呼吸できるのは……二撃、いや三撃が限界。)

(その間に終わらせるしかない。)

「頼む……この剣、持ってくれ。」

「最悪でも、しばらく腕が折れるだけで済めばいい。」

そう呟いた時には、もう遅かった。

二人は再び向かい合っていた。

頭蓋骨の仮面の奥から、黒い瞳がリアムを見据える。

淡い緑の瞳が、それを見返す。

どちらも言葉を交わさない。

理解できないからではない。

この瞬間、対話は戦いによってのみ行われると知っていたからだ。

巨人が棍棒を持ち上げる。

果実を潰すように、リアムの頭蓋を砕こうとしていた。

斜めに振り下ろされる一撃。

その瞬間、リアムは踏み込んだ。

狙ったのは胸ではない。

振り下ろされた武器そのものだった。

蛮人は気づいていなかった。

自分が罠へ踏み込んでいることに。

白い刃が閃く。

右手の指が飛んだ。

薬指。

中指。

そして人差し指の一部。

しかし、棍棒の勢いは消えていない。

リアムは剣を大腿骨の柄へ当て、その反動を利用して後方へ跳んだ。

二つの力がぶつかり合う。

棍棒の破壊力。

そしてリアム自身の跳躍。

衝撃は暴力的な推進力となり、彼の身体を壁へ叩きつけた。

だが、巨人もまた隙を晒していた。

リアムは床と壁を足場に、一気に踏み込む。

窓ガラスが圧力で砕け、外の草地へ飛び散った。

白い刃が巨人の脇腹を貫く。

怪物は数歩後退した。

怒りに任せ、傷口の周囲の筋肉を硬直させる。

刃はまだ体内に残っていた。

そのまま棍棒が振るわれる。

リアムは咄嗟に受けた。

だが守れたのは、肋骨の中央だけだった。

リアムの肺には、もう余裕がなかった。

残ったわずかな息は、屋根の梁へしがみつくために使われている。

世界がゆっくりになる。

少しずつ。

そして、恐ろしい闇が視界を覆い始める。

身体が重い。

まるで体重が三倍になったかのようだった。

巨人が咆哮する。

跳躍の構え。

このまま飛びかかれば、屋根ごとリアムを叩き潰すつもりだ。

(今だ!)

二人は空中で激突した。

だが、優位に立ったのはリアムだった。

刃は巨人の腹の側面を深く切り裂く。

内臓までは届かない。

背骨にも届かない。

それでも、筋肉を大きく裂いた。

二人とも地面へ着地する。

一方は骨がひび割れ、あるいは折れている。

もう一方は大量の血を流し、片脚を真っ赤に染めていた。

(あと一回……。)

(あと一撃だけでいい!)

巨人が背を向けた瞬間。

リアムは最後の力を振り絞って踏み込んだ。

白い刃は、行く手にあるものをすべて切り裂いていく。

力が尽きるまで。

背骨へ届く寸前まで。

二人とも、もう立ってはいられなかった。

だが、どちらが明日を迎えるかは明らかだった。

リアムはようやく息を吸う。

苦しい。

それでも、呼吸できる。

剣を引き抜いた瞬間、蛮人の巨体が崩れ落ちた。

重さで床板が割れる。

片腕が穴へ垂れ下がる。

血が滴り、下の赤熱した炭へ落ちていった。

「……やっと、倒れた……。」

リアムもまた、その場に崩れ落ちた。

これほど身体を酷使したのは、老鍛冶屋との訓練以来だった。

彼は一度だけ、かすかに目を開ける。

誰かが自分を運んでいる。

だが、誰なのかは見えなかった。

空には、夕日の最後の光が残っている。

それでも周囲は明るかった。

最も高い塔が、激しく燃えていたからだ。

重く冷たい雲の下で、その炎だけが夜を照らしていた。


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