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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag7―牢獄の住人―(20)

「そのさ、没落貴族とか勝手に決め付けるのは可笑しいと思わないのか?」


「君は何も知らないからそう言えるんだよ」


「ああ、確かにそうかもなりけど、お前は自分勝手過ぎるんだよ。お前は俺に弱いと言った。俺は弱い……認めたくはないけど事実だ……そしてそこでお前は俺に幻滅した」


「それが何か? さっさと言いなよ、時間の無駄だからね」


「その上、エルの事も好きな様に語った……お前はエルが何も考えていないみたいな言い方をしただろ?」


「みたいな、ではなく事実じゃないか、それも」


「事実か……本当にそうか? それはお前が嫉妬しているだけじゃないのか? お前が思っている以上にエルは色々な事を考えている」


「君こそ彼女の何を知って何を語っている? 嫉妬か……確かにそうかもね……それはあるかもしれない……残念ながら前回はプラナス=カーミリアに負けてしまって僕は彼女と実力を競えなかったからね」


「何を知ってか……そうだな、言ってやるよ、俺はお前よりもエルの事を知っている……お前、何も知らないんだな」


 何だろ……少々おかしい……嘔吐しそうな感覚とは違う気持ち悪さ……腹の底が煮えたぎる様な……ああそうか……俺、ムカついているのか……こいつの自分勝手な解釈に……自分の考えを人に押し付けている事に……。


 珍しい……こんなに血の気が多かっただろうか……?


「ああ、そうかい……」


 案の定、俺の言葉は勘に触った様で、ユーカリは〝風鎧〟を纏って距離を詰めてきた。


「〝風よヴァン〟」


 そうして大きな風の塊を纏わせた《宣告のフルール=アッティア》が振り抜かれる。


 俺は咄嗟に魔力付加を施すことと《暦巡》を構えることしか出来ずに壁際まで、客観的に見ると恐らく派手に、吹き飛ばされた。


「ッ……ァ……」


 舞台の壁にぶつかり息が洩れる。


 こうなること位、いつもなら予想出来ていた筈だ……それでも、自分で思っていた以上に頭に血が昇っていたのだろう。


 ぶつかった事で背中からゆっくりと体全体に、広がる様に感覚が軽く麻痺してくる。だが、そんなものはどうでもいい。動ければ別にいい。


 《暦巡》の柄を、感覚の薄れた手で強く握りしめる。


 ふらつく体には構わず、足を踏ん張って立ち上がり、さっきまで俺がいた場所に立っているユーリ=カリエールを見据えると、ユーリ=カリエールは口角を吊り上げた。


「嬉しそうだな」


「そりゃ思っていた通りにいかなかったのだから嬉しいに決まっているじゃないか」


「そんなに大事か? 貴族だからってのは。この国の貴族は第四次帝締戦で七英雄程ではないけど活躍した人達に送られたってだけの只の勲章だろ?」


「確かに栄誉と言うだけで、それ以上は大した意味のないものかもしれないね……けど、その勲章を授かった時から我がカリエール家には人々の期待と敬畏が集まった……だから、その為に僕は強くなる。それが僕の誇りだ」


「へぇ……だから同じ貴族として堕落して見えるエルの事が気に入らないのか。立派だな……」


 俺は両足に今出来る全力の魔力付加を行って真っ直ぐユーリ=カリエールの所へ駆けて行く。


「だろう? 〝風よヴァン〟」


 風の塊がユーリ=カリエールから放たれると同時に俺は右に跳び、着地した不自然な姿勢から今度はユーリ=カリエールに向かって跳んだ。


「……ッ! 往生際が悪いね、僕は時間を無駄にしたくないんだよ。そもそも、そんな体の使い方をしたら幾ら魔力付加しているとは言え、足が折れるぞ!」


 そう言いながらユーリ=カリエールは風を纏った《宣告のフルール=アッティア》を振り抜いてきたが、俺は右手に持っていた《暦巡》を《宣告のフルール=アッティア》に思いきりぶつけ、纏われていた風を利用することでユーリ=カリエールの真上に移動した。


「往生際が悪いのが俺の長所でね、それに足がどうのとか、今は別に構わないからこんなことをしているんだよ。〝スペリオ・ヴィオ〟」


 俺の手の平の前に青白く五芒星が浮かび上がり、そこから深く黒い闇がユーリ=カリエールを呑み込もうと放たれる。


「何を考えて……チッ、〝風鎧〟…………少々痛いだろうけど我慢しておくれよ?」


「うぐっ……」


 しかしユーリ=カリエールは俺の放った闇の上級魔法を風の鎧を纏って回避し、更に俺の背後へと回り、俺の右腕に拳を振り下ろした。


 殴られた勢いで地面へと打ち付けられた俺は当然ユーリ=カリエールを見上げる形になる。


「気分はどうだい? 多分、腕が折れたんじゃないかな?」


「何故腕を狙った? 嫌がらせのつもりか?」


「それを言うなら君がさっき闇の魔法を使ったのだって嫌がらせだろう? わざわざエルシー=スチュアートが得意な闇の魔法を使うなんてさ」


「へぇ……やっぱエルは闇の魔法が得意なんだ。詳しいな」


「そりゃね、これでも昔は家同士の交流もあったし……それにしても少しお喋り……と言うか、嫌味が過ぎるんじゃないかな?」


「それを言うならお前だってペラペラと喋っているじゃないか。それともムキになっているって言った方が良いか? 案外短気なんだな」


「……〝風よヴァン〟」


 すると俺の悪口を聞き飽きたのか、はたまた煽りが効いたのか、ユーリ=カリエールは言い返して来たりはせずに《宣告のフルール=アッティア》に風を纏い、そのレイピアを振り上げた。


「それと良いことを教えてやる。今のお前が持っているのは誇り何かじゃなくて傲りなんだよ。〝地鎧〟」


 俺は立ち上がりながら“折れていた”右腕で《暦巡》を振り、風を纏った《宣告のフルール=アッティア》を受け止め、押し返す。


「一体何をした……地属性の属性強化とはいえ、そんなに早くは傷は塞がらない……ましてや折れた腕を一瞬で治すのは以ての外だ。その上、武器に属性強化をするなんて……そんなこと出来る人物はアビエスの血族位しか知らない。……そうか……その武器の能力か……」


 《暦巡》の能力。ずっと能力が使えないと思っていたけど、それは違ったらしい。属性強化の増幅。恐らくずっと使えていたんだ。あの時、王宮でロイドさんと戦った時に火の属性強化が一瞬濃くなったのはきっとこいつのお陰だ。


「ああ、そうだよ。とは言っても使えるようになったのはさっきからなんだけどな」


 武器の能力を使える事をユーリ=カリエールは脅威に思ったのか、バックステップで距離を取った。


 体の傷は大体治って殆ど痛みもない。刀を握る右手も問題なく動く。しかしだからと言って疲労が無くなる訳では無いので安心は出来ない。


 その上、先程の攻撃は受け止める所で終わってしまい、ダメージを与える事は出来なかったのも正直のところキツい。


 ……けど、可能性は広がった。


「〝雷鎧〟」


 俺は雷の鎧を纏ってユーリ=カリエールの横へと移動し、《暦巡》を振り下ろす。


「くっ……〝風鎧〟」


 しかしユーリ=カリエールは風の鎧を纏って数歩後ろに下がる事で避け、その場で《宣告のフルール=アッティア》に風を纏い振り抜いてきた。


 迫りくる風の塊に対して俺は《暦巡》に纏わせた雷に更に魔力を込めてぶつけると大きな砂埃を上げて風と雷は相殺する。

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