Flag7―牢獄の住人―(19)
……只の馬鹿かと思っていた。けど馬鹿だとしても、その言い方は気に入らない。
「あまり相手を見縊ってると痛い目見るぞ……」
俺はユーカリに対して冷静を装って言い返すも、結局は装っているだけ、そんな自分の表情とは裏腹に、自分でも不思議なほど簡単に挑発に乗ってしまい思わず強力な魔法を使ってしまう。
「〝結果知らずの大洪水〟!」
俺は俺の頭上に現れた青白い五芒星の魔法陣から電気を帯びた雨をユーカリへと向けて放つ。
電気を帯びた雨はユーカリへと迫り、呑み込もうとするがユーカリはその場から動こうとせずただ薄ら笑いを浮かべているだけ。
「〝風よ〟」
そうしてユーカリは只一言、そう呟く。
するとユーカリの目の前辺りから突風が吹き、俺の放った〝結果知らずの大洪水〟は全て吹き飛ばされてしまった。
「甘いよ。〝結果知らずの大洪水〟は強力だ。けど一つ一つの威力は小さいからこんな風に広範囲の攻撃をしてしまえば簡単に一蹴出来る」
「だからどうした?」
「はぁ……全く君は諦めが悪いね。君の使える魔法で一番強い魔法は封じられたんだよ? 僕の《宣告のフルール=アッティア》によってね……」
ユーカリは惚れ惚れとした顔で己の持っている白銀のレイピアを見る。
「僕の持っている《宣告のフルール=アッティア》は司法に属する武器で一番の知名度を誇っているというのに…………ああ、君は《牢獄の住人》だから何も知らなかったね、ごめんごめん」
「いい加減黙れ!」
俺は雷の属性強化を足に施してユーカリの背後に回り込み、《暦巡》を取り出し左下から右上へと斜めに薙いだ。
しかしユーカリは直ぐに反応してこちらに振り向き、《宣告のフルール=アッティア》により受け流されてしまう。
「へぇー……意外だね」
「そりゃどうも!」
俺は刀を振るい、流され、繰り出された刺突を避ける。
そんなやり取りが数回繰り返されるとユーカリは突如俺と距離を取った。
「はぁ……面白くない。全くもって面白くないね、ツカサ=ホーリーツリー君。僕としては《牢獄の住人》はどんなものか気になっていたが、やはり君は《色無し》だ」
「何を言いたいんだ?」
「幻滅した、さっきも言ったけど面白くない、わざわざ挑発したのにこの程度……僕は君を過大評価していたよ」
ユーカリは溜め息混じりにそう言い、肩の力を抜くと、一言。
「だからもう終わらせるね」
「――ッ!?」
突如、目の前に現れたユーカリから繰り出された刺突を俺は無理矢理体を右に捻り回避し、刺突を繰り出した事で空いたユーカリの右脇腹に火の属性強化を施した左腕で殴る……
「君は弱い」
……が、風の属性強化を施した右腕で防がれてしまった。
「お前は何がしたい?」
「僕は強いものと戦いたい、だから君に興味が湧いた」
「俺が転校生だからか?」
「大体そんな感じではあるのだけど、詳しく言うと君が《色無し》であったり《牢獄の住人》であったりするからかな」
「……なあ、その《牢獄の住人》ってやつについて教えくれないか? 《色無し》についてはわかるが、それについては知らないから何を言っているのかよくわからないんだが……」
戦闘中にそぐわない質問にも関わらず、俺がそう言うと、ユーカリは自身のレイピアの切っ先を下げて、軽く冷たい笑みを浮かべながら口を開いた。
「ああ、それもそうだね。これ以上挑発したって何も変わらないし、流石に知らないままなのは気の毒だろうしね。そうだね、《牢獄の住人》っていうのはこことは違う世界に住まう人を指す言葉だ」
一々棘のある言い方に少しムッとしながらも、それを堪えて話を聞く。
それにしても……《牢獄の住人》という呼び方は、別の世界に住む人間を指す言葉にしては少し物騒な呼び方ではなかろうか? それではまるで――
「犯罪者みたいだとでも思ったかい? 仕方がない事だよ、《牢獄の住人》は神の域に手を伸ばそうとした、だから別の世界に閉じ込められたてしまった…………まあ、そうは言っても現代まで伝わる神話みたいなものだし、何千年も昔に起こったと言われているだけだから、誰も本物を見たことはなかったんだけどね」
ユーカリはそう言い、冷たい笑みをほどき、柔和な表情をすると、話は終わったとでも言うように《宣告のフルール=アッティア》を構え直した。
「あっ、ちょっと待ってくれ。なぁユーカリどうしてお前は俺が〝結果知らずの大洪水〟を使える事と別の世界から来た事を知っていたんだ?」
するとユーカリは呆れた様な表情を浮かべ、溜め息混じりに応えた。
「僕達が戦った予選は中継されていたんだよ……そんな事も知らないのかい? それに君と戦っていた相手は夏期の魔闘祭で準優勝した……エルシー=スチュアートだ。中継されたのも当たり前で、そこで混合魔法を使ったり別の世界から来ただのとほざけば話題になるのも当たり前じゃないか」
……知らなかった……。ああ……ここに来るまで視線にを感じたのは濡れていたからじゃなくて予選で悪目立ちしたからなのか……。納得した。だが、もう一つ、気になることが。
「お前、エルの事気に入らないのか?」
「どうしてそう思ったんだい?」
「そんなの、さっきエルの名前を出したときに気に入らなさそうな顔してたら誰だってそう思うだろ」
「……ははっ……確かにそうだね。けどその通りだ、僕は彼女が気に入らない……現在の状況に甘んじて馴れ合うだけの、進む事をやめた没落貴族の事なんて気に入る筈がないだろう……まぁ、君に言ったって意味がないだろうけどね……何も知らないのだから」
人が関わるにあたって、気に入らない人が出てくるのは当たり前だ。だからユーカリがエルを気に入らないと言うのも別に不思議ではない。むしろ異世界でも人はどこまでも人なのだと不謹慎ながらも少し安心したくらいだ。
「確かに俺は何も知らない。ここの事も、エルの事も……だが、それはお前にも言えるんじゃないのか? 確かにお前は俺よりは多くの事を知っている……けど、それは全てじゃないだろ」
「だから何だい? 確かに僕が知っているのは彼女の事含めて全てじゃないさ、けれども彼女が没落貴族であるということには変わらない」




