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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag7―牢獄の住人―(18)

 本日は祭りだからなのか、メニューはバイキング方式で、好きなだけ料理を取って食べても良いらしい。


 そこで俺も好きなように料理を取り、二人用のテーブル席に一人で座って料理を堪能しながら、ぼっちの昼食はどこか虚しさが込み上げてくる気がする……等と考えているとその出来事は起こった。


 急に頭部に感じた冷たさ。そしてそれが皮膚にへばりつきながら首や顔へと流れる感覚を覚え、そこで自分が今どのような状況なのか理解する。


 俺は湿り、水の滴る前髪の間からこの状況を作り出したであろう原因を確認すると、そこには見覚えの無い、緑色のパーマがかった髪の間から歪めた黄色の瞳を覗かせ、いやらしい笑みを浮かべる、見たところ俺と同じ学年の男子生徒が居た。


「ああ、ごめんね? ついつい手が滑ったのかな?」


「……気を付けろよ」


 関わるだけ無駄、そう思い、俺が緑髪の男子生徒に素っ気なく返すと、緑髪の男子生徒は軽く舌打ちをして不愉快そうに顔をしかめるも、少しすると再びいやらしい笑みを浮かべ、まるで学食に居る人全体に聞かすかのように声を張って話し出す。


「本当にごめんね? 僕も悪かったと思っているよ? けどね、何だかコップに入った水も君が嫌いみたいだったんだ。《牢獄の住人》である君を、ね」


 《牢獄の住人》? 聞いたことがない。コイツの目的は? コイツは一体何をしたいんだ?


「……あれ? ああ、そっか……」


 緑髪の男子生徒は一瞬不思議そうな顔をするも、すぐに愉しそうに顔を歪めて言葉を続けた。


「そういえば君は《色無し》でもあるそうじゃないか。まったく、君も不運だね。……それじゃあ僕は行くよ、また後でね。ツカサ=ホーリーツリー君」


 緑髪の男子生徒がそう言い終わると先程よりも愉しそうな顔をして立ち去ってしまった。


 俺を《色無し》と言った辺り、俺に嫌がらせをしたかったのはわかるが真意がわからない。……まぁ、今はどうでも良いか。


 学食に備え付けられている時計を見て、そろそろ試合がある事を確認した俺は使い終えた食器を戻して闘技場へと向かった。


 闘技場に着くまでの間に濡れていたせいか少し人目を引いたが、無事時間通りに闘技場に着き、控え室へ向かい、少しすると呼ばれたので闘技場の舞台へと上がる。


 するとそこには先程水をかけてきた緑髪の男子生徒が笑顔で立っていた。


「やあ、さっきぶりだね。僕の名前は知っているだろうけど一応名乗っておくよ。僕は一年A組所属、ユーリ=カリエール。見ての通り君の対戦相手だよ」


「…………ユーカリ?」


「ユーリ=カリエールだ! さっき入場の時に名前呼ばれてたただろ!? そもそも君は対戦相手の確認をしていないのか!? まったく……《牢獄の住人》は本当に無知だな……」


 いや、だってさ……一昨日に対戦相手が発表されたのは知ってるけどカーミリアさんが、『そんなもの見に行く暇あったら鍛えなさいよ』とか言い出してこてんぱんになるまで戦わされたんだよ?


 それが昨日も……いや、予選終わってからだから毎日……お陰で見るタイミング逃したから今の今まで対戦相手知らなかった。


 その上、控え室に居た時だって俺の前に誰かが呼ばれたのは知っていたが、『一回戦で負けたりする様な事があったら覚悟しなさい』などとカーミリアさんに言われたせいで緊張して意識していなかった……。


「とりあえず、ユーカリが俺の事を馬鹿にしたいのはわかったから、いつまでも駄弁ってないでとっとと始めないか?」


 俺がそう言うと、案の定ユーカリは俺に指図された事や名前についての事等が不愉快だったのか、わざとらしくも見える舌打ちをして舞台の中心から離れた。


 俺も舞台の中心から離れ、お互いに向き合って試合開始の合図を待つ。


 そうして、少しして聞こえてきた先生の「始めっ!」と言う合図により一斉に動き出した。


「〝ウォート〟」


 俺はユーカリに掌を向けて、拳大の大きさの水の弾丸数発放つ。


「ふんっ! 遅いねっ……」


 しかしユーカリは腕に風の属性強化を施し、水の弾丸を全て叩き落としてしまった。


 ……予想外。今の場合〝ウォート〟は叩き落とすよりも避けた方が魔力も使わず楽だった筈……何か企んでいるのか?


 何となく違和感を感じる。


 その上ユーカリは薄ら笑いを浮かべながらこちらの様子を伺っているだけで動く気配がない。


「余裕そうだな……〝ガング・ウォート〟!」


 初級魔法で駄目だったのなら今度は貫通性があり、威力と速さもそこそこある水で出来た槍を二つ同時に放つ。


 一つはユーカリに向けた俺の掌の前から、もう一つはユーカリの後ろから。


 しかし、正面から向かってくる水の槍をユーカリは余裕そうな表情で属性強化を施した腕を震い、破壊し、後ろから襲いかかってくる水の槍にも反応し、同じ様に破壊してしまった。


 ……だが、まだ焦ることは無い。


 俺は水の槍を破壊されたと同時に足に雷の属性強化を施し、油断しているせいなのか後ろからの水の槍を破壊した事によりこちらに背を向けていたユーカリとの距離を詰め、その憎たらしい表情の顔面に距離を詰めた勢いのまま思いっきり蹴りを放つ。


 すると俺の足は面白い程簡単にユーカリの顔面にめり込み、ユーカリは舞台の端、客席の間際まで文字通り吹き飛んでいった。


 ……ちょっとやり過ぎたかも……顔に思いきり入ってたし。それに何か呆気なくて肩透かしを食らった気分だ。


「まあいっか。油断したユーカリが悪いだけだし」


 案外早く終わったな、などと思っていると、やはりあれだけでは勝てる程甘くは無いらしく、舞台の端でぐったりとしていたユーカリが急に声を上げて笑い出した。


「くっくっくっ……あっはっはっはっは! それで勝ったつもりかい? ツカサ=ホーリーツリー君?」


「…………格好つけるのは別に良いけどせめて鼻血拭いてから言えよ……」


 変なスイッチでも入ったのか……?


「中々に良い蹴りだったよ……だけどね、それだけだ……我求めしは契約の象、〝サピーナ〟」


 俺の言葉は無視し、そうことばを並べながらユーカリは立ち上がり、目の前に青白く浮かんだ七芒星の魔法陣から現れた白銀のレイピアを掴み、笑う。


「魔法は才能なんだよツカサ=ホーリーツリー君。君は《色無し》……君がいくら努力しようがそれは無駄、なんだよ」

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