Flag7―牢獄の住人―(17)
「んなもん決まっ――」
そんな時、俺とコーチは文字通り何かがぶつかる事によって吹き飛ばされた。
「「――っぁ!?」」
しかし吹き飛ばされはしたものの、意外にダメージは無く、直ぐに立ち上がり、何かがぶつかってきた方向を確認する。
俺とコーチの視線の先には、俺達のもはや呟きではなくなってしまった緊張感の無い会話のせいで腹を立てたのか、歯を食い縛りながらエルがこちらを睨んでいた。
「楽しそうに話すならエルも混ぜろぉ!!」
「そっちですかエル様ぁ!?」
エルはじたばたと駄々っ子の様に手足をばたつかせて悔しそうな口調で叫ぶ。……一気に緊張感が無くなったな。
「良いですかエル様。魔闘祭は祭りとは言っても試験の一種なのですよ?」
「それでも祭りだ! 祭りは楽しむものだ! そもそもヴァルは頭が堅いんだよ……だからそんな厳ついおっさんみたいな見た目になるんだぁ!」
「これは生まれつきですから! ……生まれつきなんです……はい、手遅れなのです……」
もうこいつら戦う気無いだろ……。そんな事を思っていると……。
「えっ……?」
不意に目の前の景色が入れ替わり、いつの間にか闘技場の様なところの中心に立っていた。
周囲を見渡すと観客席には何百人もの学院生徒が各学年入り交じって座っており、中心部には俺だけでなく、こちらは一年の生徒が俺含め、何十人か居る。
『貴様ら、こちらを向け』
そんな時、拡声器か何かで大きくされた様な声がしたのでその方向を向くと、学園長が満足気な顔をしてその紫色の瞳でこちらを見ていた。
『まずはお疲れ様とでも言った方が良いか? 察しが良い奴は気付いているだろうが、私の目の前に居る高等部一年の四十人の生徒……貴様ら達は冬季魔闘祭の予選を戦い抜いた強者どもだ。つまり、これにて予選は終了、貴様らの勇姿の続きは本選で見させてもらう』
学園長はそう言い、一度息を吐いて体の力抜き、満足気ではあったが真剣味があり少し強張っていた表情を少し柔和な優しいものに変えて、再び口を開く。
『……さて、今年の冬季魔闘祭の予選は各学年予想以上の早さで終わってしまったがこれで終わりではない。むしろこれからが本番だ。本選に出場する生徒も出場出来なかった生徒も本選が始まるまでの五日間、ゆっくり体を休めるがいい! ではこれにて解散!』
学園長がそう言い終わるや否や闘技場の観客席や俺達の居る舞台から歓声が上がった。
そして解散と言われた事により、生徒達が好きなように闘技場を後にしていく中、俺は周りの勢いに少し圧倒されて夢の中に居るような、なんとも言えない感覚に浸り、闘技場の舞台から雲一つ無い空を見上げていた。
「空色、か……」
空なのだから空色なのは当たり前の事だろうけど、あの色を見るとどうも來依菜を思い出してしまう。
別に思い出したくないわけではないし、忘れてしまっても駄目な事だとはわかっている。わかってはいるが…………そんな事考えずにこの世界で出来た友人達と気楽に馬鹿をしていたい、なんて思っている俺が居る。
……駄目だな。そんなの自分から逃げてるだけなのに。
「何辛気くさい顔してんだよツカサ」
「いやー……俺弱いなーって……コーチは良いよな、能力無くても強いし……」
「……羨ましい、か。本当にそう思うかツカサ?」
「そんなの当たりま……」
俺がそこまで言った時、気付いてしまった。コーチはいつもの飄々とした感じではなく、言葉に少々の怒気を孕み、目付きを鋭くして俺を睨んでいる事に。
「違うな……悪かった……」
強くなろうとしている理由はわからないが、コーチは今まで最低でも俺よりは努力をしてきたのだろう。
能力が無くても強いんじゃなくて能力が無くても強くなる為の努力をずっと……。
俺がそれ以上の努力をしていれば別だが、今の俺には羨む権利は無い。
「いんや、悲観することはねぇよ。とにかく俺が言いたいのは考えるだけじゃなく行動するのも悪くないって事だ」
コーチはいつもの軽い雰囲気に戻り、少し照れくさそうに「柄でもねぇこと言っちまったなぁ」等と言いながら踵を返し、歩き出す。
「ほらっ、あっちでレディちゃん達も待ってるんだからさっさと行くぞ?」
「……ああ、わかった。ところでコーチ」
「なんだ?」
「後で相手してくれないか?」
「夜の?」
「シネ」
「男に興味はないぞ?」
「だから違うから! ただ、お前に柄でも無いこと言わせちゃったから期待に応えないと駄目だなって思っただけだ!」
「なるほどね……」
コーチは「ほーん……」とか「へーん……」等と呟き、何故かしたり顔。
「ツンデレ、お疲れ様です!」
「違うから。そもそもツンデレはカーミリアさんで間に合ってるだろ?」
「へー……アタシがどうかしたのかしら?」
声に促されて俺が振り向くと、そこには呼んでもいないのにカーミリアさんが“素敵な笑顔”を俺に向けて立っていた。
「……や、やあカーミリアさん、奇遇だね……」
「ええ、本当に。アタシは今少しイライラしてたのだけれど、丁度、良いサンドバッグを見つけたところよ。アンタは?」
「俺はちょうど良いサンドバッグにされちゃうところかな? ……頼むカーミリアさんお願いします助け……命だけうわっ!? やめっ……」
無理矢理俺を引きずり運ぼうとするカーミリアさん。声を上げて笑うコーチ。
「はぁ……」
そして溜め息をつく俺。しかしどこかおかしくて笑ってしまう。
今の間はいつ終わるかわからないからこそ、こんな日々を楽しもうかな、と思ってみたり。
……しかし、現実はやはり、楽しいことや、思い通りにいくことばかりではなかった。
そして、それを痛感する事となった始まりは、魔闘祭の予選が終わった六日後の昼……つまりは魔闘祭本選の昼休みの時間。
魔闘祭本選の期間は学内に出店等が並び、本選出場者は試合に出なければならないという決まりがあるだけで登校時間は自由で、本物の祭りの様だった。
だからその日、俺は昼休み終了後の一番始めの試合に出場だったので、午前中から昼休みの前まで、俺と同じく試合が午後からのカーミリアさんに、魔法は無しの肉弾戦のみの稽古をつけてもらってから登校し、昼食を食べに学食まで来ていた。




