Flag7―牢獄の住人―(3)
俺達も扉をくぐり部屋に入ると、そこは講堂と同じかそれよりも大きな、第三演習場の様な地形の部屋だった。
しかし只広いだけではなく、部屋の中心の方の床には六芒星の魔法陣を中心にして、その周りに四つの八芒星の魔法陣が組み合わされたものが間を空けて三つ描かれている。
さらに八芒星の魔法陣の上にはそれぞれ俺の背丈と変わらない大きさの黒い箱の様な物が置かれ、幾つかスイッチの様なものと拳大の石の様な物が嵌め込まれていた。
「ここが転移室?」
俺は右を歩くルーナに部屋を見渡しながら確認する。
「はい、ここから今回の魔闘祭の会場に転移をするんです」
「何と言うかよくわからない部屋だな……」
「中央の魔法陣や箱が……?」
「そうそう、何かしら意味が有るんだろうけど、さっぱりわからないなって」
「箱みたいなのは魔充石から魔力を取り出したり魔法陣全体を調整する魔導具……。ちなみに魔充石から取り出した魔力は《オクタグラムの魔法陣》から《ヘキサグラムの魔法陣》に送られているから後は《ヘキサグラムの魔法陣》に体内魔力を通せば勝手に魔導具が調整してくれるから転移できる……」
「へー……博識だな。ありがとう」
俺はそう言い、銀色のツインテールを微かに揺らしながら左側を並んで歩いている少女の頭を軽く撫でた。
「ん……礼には及ばない……」
「…………」
「どうしたの……?」
銀髪の少女は首を傾げてこちらの様子を伺う。……あれ? どうしてここにノスリが居てんの?
「なあノスリ、ここは高等部の校舎なんだが……」
「だから……?」
「何故中等部の生徒がここにいる?」
「私に不可能は無い……」
「いや、理由になってないから」
「ツカサに会う為に来ました……と言ったら?」
「そんな甘い言葉に俺は騙されない」
「ルーナ、ツカサが虐める……」
「ルーナ、ノスリが虐める」
「えっ……私ですか? この場合どっちが悪いんでしょうか……?」
「ツカサ……」
「司さん?」
「いや、ノスリだ」
「結局どっちが悪いんですか!?」
「話をちゃんと聞いていないルーナが悪い……」
「えぇ!?」
「人の話はキチンと聞くべきだ」
「司さんまで!? ふぇぇぇ! 二人が虐めますぅぅ!」
「あ……ルーナが逃げた……」
何だか楽しかったのでノスリに合わせたが少し遊び過ぎたかもしれない。
走り去ったルーナはケトルとカーミリアさんの所へと行っている…………魔闘祭が始まる前にリタイアとかならなきゃいいけど。
「ところでノスリ」
俺は先程よりは少し真面目な口調で本題に入る。
「……何?」
「中等部の生徒がここに居て本当に大丈夫なのか?」
するとノスリはその薄い表情に少し陰りを見せた。……あれっ? 地雷踏んだ?
「ツカサは……ツカサは私が邪魔? 居たら迷惑?」
「そんなわけ無いだろ? それにどうしたんだ? もしかして俺、ノスリが嫌がる様な事言ったか?」
「ううん……ツカサは悪くないし何もない……気にしないで……」
「そうか? なら良いけど……」
何もない様には見えないが今は追求するべきでは無いだろう。
そしてそんな時、丁度ネアン先生の声がかかった。
「一年C組の生徒はちょっとこっち来ーい!」
そう言われC組の生徒が集まると、小さな石の付いたペンダントを渡された。
「お前ら絶対にこれ無くすなよー…?」
「先生! これは何ですか?」
「おお! メガネ、良い質問だな」
「ふふっ……メガネですから!」
「これは一種の生命維持装置みたいなもんだ」
「先生! これを無くすとどうなるんですか?」
「またもやメガネ、良い質問だ」
「メガネで――」
「あ、もう黙って良いよ」
「…………」
哀れメガネ……。俺はお前の勇姿は忘れないぞ。
ネアン先生は面倒くさいだけなのか、さもメガネは眼中に無いかの様に説明を続ける。
「確かこれを無くしたらだったな。えっと簡単に説明するとな? これを無くしたら死ぬ……かもしれん」
「「「「「死ぬの!?」」」」」
クラスの心が一つになった瞬間であった。
「ああ、もちろんこれには戦闘で死なない様にする魔法陣が幾つか施されているが、ダメージ軽減の魔法陣はペンダントを持っている奴同士じゃないと発動しないからな? ま、簡単に言ったら魔獣に襲われてもダメージは減らないって事だ」
ネアン先生がそう言い切るとクラスが少し騒がしくなる。
「なあ先生。これから魔獣が出るようなとこに行くのか?」
「コーチにしては珍しく真面目な質問だな。出ないと思うぞ? ……多分。それに死ぬ前に転移の魔法陣が発動して会場にある宿舎に飛ばされるから要は油断すんなって事だ」
「真面目で悪いか。俺だってそんな時があるんだよ」
「はいはい悪かったな。それじゃあお前ら、そろそろ移動するから左端の魔法陣の上に乗ってくれ」




