第2章: 第3部
自分は「異邦人」と呼ばれていた。
なぜか、その言葉が妙に気になった。
だからだろうか。気づかないうちに、ルチアーノは傷跡のある女性に、その意味を尋ねていた。
しかし、彼を呆然とさせたのは、それだけではなかった。
「古代都市」という名前もまた、彼の頭の中に引っかかっていた。
初めは、それが何を指しているのか分からなかった。だが、衛兵たちが古代都市の方角からやって来た彼を発見したのだと女性から聞かされたとき、ばらばらだった情報が少しずつつながり始めた。
つまり……「古代都市」というのは、俺が「神殿」と呼んでいた場所のことか。
あの遺跡は、実際には古代都市だったのか……。
あそこにいたときでさえ、あれが都市だった可能性など考えもしなかった。
だが、今になって考えてみれば、納得できる話だった。
巨大な石造りの建造物に、道、そして廃墟。どれも、かつてはもっと大きな何かの一部だったように見えた。
そして、その名が示すとおり、そこは本当に古い場所だった。
壁にはひびが入り、苔に覆われていた。建造物の一部など、何世紀ものあいだ放置されていたかのようだった。
女性は、彼について話したいと言っていた。
その口ぶりからして、重要な話なのだろうとルチアーノは理解していた。
もっとも、彼にとっては重要というより、興味をそそられる話だった。
知りたくてたまらなかった。
異邦人であるとは、どういう意味なのか。
傷跡のある女性が何を話してくれるのか、彼の体まで待ちきれないと言わんばかりだった。
女性は両手を膝の上で組み、説明を始めた。
「異邦人、ねえ……」
少し間を置く。まるで、考えを整理しているかのようだった。
「異邦人というのは、どこかからやって来た、記憶のない人々……と言えばいいかしら」
「どこかから?」
ルチアーノは困惑し、わずかに首を傾げた。
「本当なら、どこから来たのか教えてあげたいところだけど……残念ながら、それは誰にも分からないの。本人たちでさえ、自分の記憶を失っているせいで分からないのよ」
女性はため息をついた。
その表情が、わずかに悲しげなものへと変わる。
「異邦人は別の世界から来た人々だ、という噂は、古くからあるわ。正直に言えば、本当にそうなのかもしれないし、そうではないのかもしれない」
彼女は短く間を置いた。
「でも、もし本当にそうだったとしたら、かなり驚くべきことよね。異邦人の大半も同じように考えているみたいだし、もしかすると、何かしら真実が含まれているのかもしれないわ」
ほんの少し前まで、ルチアーノの中で膨らみ続けていた好奇心と期待が、一気にしぼんだ。
まるで、頭から冷水を浴びせられたようだった。
ようやく探し求めていた答えが見つかるのだと、ほんの一瞬だけ思っていた。
だが、違った。
実際のところ、それはすでに分かっていたことだった。
自分がどこかから来た人間だということくらい、ルチアーノにも分かっている。
問題は、その場所がどこなのか、まったく見当もつかないことだった。
記憶を失っている以上、この世界の出身である可能性だって十分にある。
ただ、すべてを忘れてしまっただけなのかもしれない。
それでも……。
心の奥底には、自分はこの場所に属する人間ではないのだと、しきりに訴えかけてくる小さな感覚があった。
だが、それを裏づける証拠は何ひとつない。
つまり……。
結局、何も変わっていなかった。
何ひとつ、状況は進展していない。
ルチアーノは、自分でも気づかないうちに、長く沈んだため息を漏らしていた。
傷跡のある女性が、再び彼の肩に手を置いた。
今度は、その表情が違っていた。
悲しそうに見えた。
それとも……。
彼を哀れんでいるのだろうか。
おそらく、自分がどれほど落胆しているのか、彼女には分かったのだろう。
「確かに、私には慰めてあげられるような立場じゃないわね。自分の人生の記憶が何もないというのが、どんな気持ちなのか、私には分からないもの」
彼女の声は穏やかだった。
「でも、何があったにせよ、あなたが生きている限り、いつか自分の身に何が起きたのか、突き止められる日が来るかもしれないわ」
その言葉は、ルチアーノにとって大きな慰めになった。
一瞬、泣きたくなった。
だが、どうにかこらえた。
今、自分がどんな顔をしているのかは分からない。
正直なところ、そんなことはどうでもよかった。
ただ、彼は頷いた。
「ありがとうございます」
短い言葉だった。
それでも、今の自分にできる限りの誠意を込めて伝えた。
女性はゆっくりと、彼の肩から手を離した。
「そうそう。異邦人と私たち人間を区別する唯一のものは、体のどこかにある印なの」
ルチアーノは顔を上げた。
「印?」
「ええ。場所は異邦人によって違うことが多いわ」
女性は何かを思い出したような顔をした。
「実は、あなたには謝らなくちゃいけないことがあるの……」
ルチアーノは瞬きをした。
突然謝られた理由が分からなかった。
「あなたが目を覚ます前に、異邦人であることを確認するために、体を調べさせてもらったの。それで……」
彼女は少し間を置いた。
その顔に、どこか怪しげな笑みが浮かんだ。
そして、ルチアーノの体のある部分を指さした。
ルチアーノは指の先を目で追った。
そして、何を指しているのか理解した瞬間、顔が真っ赤になった。
「えっ!?」
慌てて両手で股間を覆い、顔をそらした。
シーツをかぶっていたのだから、そんなことをする必要はなかった。それでも、反射的にそうしてしまった。
傷跡のある女性が、腹を抱えて笑い出した。
この人、化け物か……。
ルチアーノは、いっそ消えてしまいたい気分だった。
「ごめん、ごめん……」
女性は笑いをこらえようとしていた。
「だって、あなたの反応があまりにも面白かったんだもの。そんな顔をするのを見るのは初めてよ。自分がどんな顔をしていたか、見せてあげたいくらいだわ」
ルチアーノは、耳を疑った。
しかも、ミカまで笑っていた。
もっとも、彼女の笑い方はずっと控えめで、どうにか隠そうとしているようだった。
もう死にたい!
今の恥ずかしさは、とても言葉では言い表せなかった。
「それで?」
ルチアーノは、明らかに不機嫌な声で尋ねた。顔はまだ真っ赤なままだった。
傷跡のある女性は、ようやく笑いすぎて浮かんだ涙を拭い始めた。
「冗談よ。そこはもう調べたけれど、異邦人の印はなかったわ」
女性はルチアーノの肩を指さした。
「あなたの印は、そこにあるの」
それから、彼女は微笑んだ。
「だから、安心していいわよ」
彼女は腕を伸ばして親指を立て、満面の笑みを浮かべた。
「安心なさい。あなたの小鳥くん、なかなか立派そうだし、将来有望みたいね」
ルチアーノは、その言葉の意味を数秒間考えた。
そして、ようやく意味を理解すると、先ほど以上に恥ずかしくなった。
「変態!!」
思わず、遠慮なく叫んでいた。
傷跡のある女性とミカは、再び笑い出した。その笑い声は、さらに数秒間続いた。
ルチアーノは、二人が笑い終えるまで黙っていた。
「俺の肩に?」
「そのとおりよ」
ルチアーノはシャツの袖をまくり上げた。
右腕と肩のつなぎ目あたりに、奇妙な印があった。
それは三つの円で構成されており、それぞれの円には、見たこともない暗い色の小さな記号が添えられていた。
三つの円は縦に並んでいて、上から順に大きくなっていた。
ルチアーノは、その印をじっと観察した。
いつの間に、こんな印が現れたんだ?
おそらく、古代都市の地下にいたときに現れたのだろう。
だが、そう考えると、また別の疑問が浮かんでくる。
どうやって現れた?
それに、いつ?
もし誰かが自分の体に描いていたのなら、さすがに気づいたはずだ。
ルチアーノは印に手を当て、消そうとした。
肌の表面をこすってみる。
何も起こらなかった。
「そんなことをしても無駄よ」
女性の声が、彼の思考を遮った。
「消せないの。今までにも、何人もの人が試しているわ」
ルチアーノはゆっくりと手を離した。
もう一度、印を見つめる。
その印には、何か不安をかき立てるものがあった。
ふと、女性が異邦人について話し始めたときから、ずっと気になっていたことを思い出した。
ルチアーノは顔を上げた。
「さっきからずっと考えていたんです。少し疑問に思っていることがあって……」
彼は短く間を置いた。
「俺以外にも、異邦人はいるんですよね?」
ルチアーノは真剣な表情で問いかけた。緑色の瞳を持つ女性の目を、まっすぐに見つめながら。




