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第2章: 第2部

 傷跡のある女性は脚を組み替え、腕を組んだ。


 ルチアーノには、彼女の表情がさらに険しくなったように見えた。


 ……俺、怒らせたか?


 そうだったら終わりだ。


 少し前まではずいぶん親しみやすい様子だったのに、今は不機嫌そうに見える。


「どうしてそんなに顔をこわばらせているんだ? どこか痛むのか?」


 女性は身を乗り出し、ルチアーノの肩に手を置いた。


 近すぎる。


 ルチアーノはたちまち緊張し、顔が熱くなるのを感じた。


「えっ……いえ、大丈夫です。体に変なところはありません」


 少しでも距離を取り戻そうと、彼はすぐに答えた。


「じゃあ、目の下にクマを作った、不機嫌な猫みたいなものか。はははっ!」


 その説明は、ルチアーノの癇に障った。


 一瞬、怒りを口に出しそうになった。


 しかし、どうにかこらえた。


「それは、どういう意味ですか?」


 できる限り愛想よく聞き返す。


「うーん……最初はどこか痛むのかと思ったんだ。でも、今の話を聞く限り、体は大丈夫そうだな」


 女性は数秒間、考え込んだ。


「つまり、その顔はもともとそういう顔なんだな。要するに……そういう顔つきってことだ」


 先ほどまでのぶっきらぼうな態度は消えていた。


 今はずっと落ち着いている。


 それどころか、どこか少し愛嬌さえ感じられた。


 そういう顔つき?


 ルチアーノは、その言葉を頭の中で繰り返した。


 だが、自分の顔をそんなふうに表現されるのは、あまり気分のいいものではなかった。


 いくら相手の言うことが正しかったとしても……。


 ……まあ、正しいのかもしれない。


 何しろ、昔から表情に乏しい顔をしていて、周りには怒っていると勘違いされることが多かったのだから。


 ルチアーノはため息をついた。


 自分の顔を見た記憶などないはずなのに、なぜかそのことはわかっていた。


 もっとも、よく考えてみれば、以前に自分の顔を見たことくらいはあったのだろう。


 ただ、それを思い出せないだけだ。


 この頃になると、自分の記憶に抜け落ちている部分があることにも、いちいち驚かなくなっていた。


「そうですよ! これが俺の顔なんですから、どうしようもないでしょう!」


 腕を組み、少し腹を立てた様子で言い返した。


 すると、傷跡のある女性は小さく笑い始めた。


 意外にも、その笑い声は甘く柔らかかった。


 まったく予想していなかったルチアーノは、すっかり面食らってしまった。


「やっぱり、そういう顔なんだな。しかも、ずいぶんかわいらしいじゃないか。そんなに怒らなくてもいいんだぞ」


 ルチアーノは彼女を見つめた。


 どういうわけか、話題はいつの間にか、ほとんど表情の変わらない自分の顔のことになっていた。


 そして、それに気づいていたのは彼女だけではなかったらしい。


 ミカが近づいてきて、女性の肩にそっと触れた。


「はい、その通りです。そろそろ本題に入りましょう」


 女性の表情が、すぐさま変わった。


 最初に見せた、あの真剣な表情に戻ったのだ。


 ルチアーノは、彼女のことをかなり真面目で、少し攻撃的な女性だと思っていた。


 それだけに、笑ったり、あれほど気楽に振る舞ったりしたかと思えば、すぐにいつもの表情へ戻る姿には驚かされた。


 いい意味で。


 少なくとも、おかげで少しだけ気が楽になった。


 ……悪い人ではなさそうだ。


 ルチアーノは、女性がミカと言葉を交わす様子を眺めていた。


 二人の接し方を見る限り、ミカは彼女の助手か何かのようだった。


 やがて、女性は再びルチアーノへと視線を戻した。


「聞きたいことは山ほどあるだろうが、こちらの質問に答えてもらうまでは、そちらの疑問に答えるわけにはいかない」


 声が再び真剣なものになった。


 視線も同じだった。


 ルチアーノはすぐにうなずいた。


 先ほどまでとは違い、もうそれほど怖くはなかった。


 何しろ、この女性はただ、自分の仕事に真剣に取り組んでいるだけのように思えたからだ。


「よし。村の外れにある森で倒れていたと聞いている。どうしてそんなことになったのか、話してもらえるか?」


 ルチアーノは少し迷った。


 ……全部話すべきだろうか?


 あの暗い部屋で目を覚ましたところから、蜘蛛に噛まれるまでのことを。


 あまりにも荒唐無稽な話だ。自分でさえ、信じるのに苦労するほどなのだから。


 だが、答えを知りたいのなら、正直に話す必要がある。


 それに、話してみて損をすることもないだろう。


 最悪の場合、頭がおかしいと思われるくらいだ。


 もっとも、そう思われたとしても、ルチアーノには彼女たちを責めることなどできなかった。


 そうして、彼はすべてを話し始めた。


 暗い部屋のこと。


 奇妙な階段のこと。


 自分が「神殿」と呼んだ場所のこと。


 森のこと。


 目を閉じたあと、別の場所に現れたような、あの奇妙な感覚のこと。


 そして最後に、蜘蛛のこと。


 数分もしないうちに、覚えていることをすべて話し終えた。


 意外なことに、二人とも笑わなかった。


 馬鹿げた話を聞かされたとでも言いたげな目を向けてくることもなかった。


 それどころか……。


 二人は終始真剣な表情で、ルチアーノの話に耳を傾けていた。


 彼が話し終えると、女性は小さく息を吐いた。


「うーん……正直に言うと、君の話を信じるのは少し難しいな」


 彼女は短く間を置いた。


 ルチアーノにも、彼女の気持ちはわかった。


 気絶する直前に自分が経験したことさえ、まだ完全には信じられないのだから。


 そう言おうとしたところで、女性が続けた。


「何しろ、おかしな話だからな。異邦人が古代都市に現れるときは、いつだって大勢の集団でやって来る。君のように、一人だけで現れることはないんだ」


 ルチアーノはわずかに眉をひそめた。


 ……異邦人?


「これまでに、そんなことが起きたという記録はない」


「妙だな……」


 女性は考え込んだ。


「君は本当に、たった今やって来た異邦人なのか?」


 そう言ったあと、彼女は独り言のように話し続けた。


「とはいえ……衛兵たちが、古代都市の方角から来て倒れていた君を見つけたことは確かだ」


 まるで、自分の考えを整理しようとしているかのような話し方だった。


 ルチアーノは気にしなかった。


 むしろ、彼女の気持ちも理解できた。


 今の話を聞いただけでも驚くことばかりで、口を挟む気にはなれなかったのだ。


 ほんの数言を聞いただけなのに、頭の中はすでに情報でいっぱいだった。


 それまでルチアーノは、自分の話があまりにも荒唐無稽だから、彼女たちが不審に思っているのだと考えていた。


 だが、違った。


 問題は、まったく別のところにあるらしい。


 疑問が多すぎる。


 わからないことが多すぎるのだ。


 そして、女性が再び話し始めようとした、そのとき。


 ルチアーノは彼女の言葉を遮った。


「……異邦人って、何ですか?」


 ほとんど反射的に口をついて出た質問だった。


 彼は目を大きく見開いていた。


 女性は一瞬、黙り込んだ。


 それから、額に手を当てた。


「ああ……私は馬鹿だな。まずはそこから説明するべきだった」


 話を遮られたことに腹を立てるどころか、女性はむしろ謝ってくれた。


 ルチアーノは数秒間、彼女を見つめた。


 やっぱり……。


 この人たちは、悪い人ではなさそうだ。


「さて、妙なことはひとまず整理できたところで、君自身のことを少し話してやろう」


 傷跡のある女性は微笑みながらそう言った。背中を少し丸め、目の前で両手を組んでいた。


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