第4章: 第3部
自分がいた場所のお金がどんなものだったのか、ルチアーノはあまりよく覚えていなかった。
だが、一つだけ確かなことがあった。
二つの貨幣制度は、まったく異なっていた。
彼が覚えているものは、ずっと正確な仕組みに思えた。それに対して、ムエルガルの貨幣制度は、ほとんど正反対だった。
ルチアーノは腰に手を伸ばし、お金を入れていた小さな革袋を取り出した。
最初、イルサからムエルガルの貨幣制度について説明を受けたあとにあの硬貨を渡されたとき、彼はそれを贈り物だと思っていた。
もちろん、実際に説明してくれたのはミカだったのだが。
あのときの自分は、かなり世間知らずだった。
この世にただでもらえるものなんてない。
今でも、あのお金を渡された本当の理由を知る前、自分がどれほど喜んでいたかを思い出すと、少し恥ずかしくなる。
それにしても、イルサがあんなに複雑なことを説明している姿は、なかなか想像しにくかった。
何で、あんなことを彼女が説明してくれると思ったんだろう。
別に、彼女を見下しているわけではない。
ただ、複雑なことを説明するのは、彼女の得意分野ではなさそうだった。
それどころか、ルチアーノ自身だって、きちんと説明できる自信はなかった。
だから、ある意味では、二人は同じようなものだと思っていた。
それはさておき……。
ルチアーノが渡されたお金は、一種の投資と考えることができた。
ギルドは、新しくやって来た異邦人たちに、装備を購入し、およそ一週間分の生活に必要なものをまかなえるよう、一定額のお金を支給していた。
もっとも、正直なところ、それ以上のことをするには足りなかった。
しかし、話はそれほど単純ではなかった。
そのお金は、異邦人が自立できるようになったあと、返さなければならないものだった。
また、狩ったモンスターや達成した依頼によって得た利益の一部を返済に充てることもできた。
そして、もし返さなかったら……。
異邦人としての役割を果たさなかったら……。
許可証を失う可能性があった。
さらに、状況が悪化した場合、たとえば逃亡しようとしたり、故意に返済を拒んだりすれば、奴隷にされてしまうことさえあった。
ミカが冷たく、ほとんど威圧するような口調でそれを説明したとき、ルチアーノは思わず唾を飲み込んだ。
生き延びることよりも先に、あの投資分を返すことが最優先だ。
彼はため息をついた。
怖かった。
とても。
何があっても、奴隷にだけはなりたくなかった。
そう想像するだけで、手足が震えてしまうほどだった。
ルチアーノはそんな考えを振り払い、目の前にある武器へと意識を戻した。
テーブルの上には、いくつもの武器が並んでいた。
その中に、長い杖を見つけた。
先端には月をかたどった装飾があり、そのすぐ下には、暗い色の石が木の部分に埋め込まれていた。
彼は慎重にそれを手に取った。
「これは魔法使いクラスの装備ってことでいいんだよな?」
すでに答えは分かっていたが、そう尋ねた。
彼はその杖が気に入っていた。
かなり。
だが、残念なことに、自分がそれを使えるはずもなかった。
何しろ、彼の魔法適性はほとんど皆無なのだから。
魔法使いになりたかったな……。
彼は気のない様子でそう考えた。
杖を再びテーブルに戻すとき、その表情にはわずかな悲しみが浮かんでいた。
そのあと、彼は長剣のほうへ目を向けた。
長剣?
それが正しい呼び方なのか、完全には確信が持てなかった。
俺の理解では……。
彼は考え込んだ。
イルサは、戦士クラスは始めるにはいい選択肢だし、そのあとで何をするか決めればいいって言っていた。
いわば、初心者向けのクラスだった。
ほとんどの人が最初に選ぶクラスだ。
時間が経つにつれて、自分には向いていないと気づき、別のクラスに変更する者もいる。
戦士クラスの良いところは、習得にそれほど苦労しないことだった。さらに、あとになって別の道へ進むことにしても、ほかのクラスへの移行はそれほど難しくない。
だが……。
どうだろうな。
ギルド長の勧めにもかかわらず、ルチアーノは自分が剣を使う人間になる姿を、どうしても思い描けなかった。
それどころか、将来あんなに大きな武器を持って戦っている自分など、想像もできなかった。
彼は自分の腕に目を落とした。
数秒間、じっと見つめる。
細いな。
それほどでもない。
だが、迷うには十分だった。
俺に剣なんて扱えるのか?
そう自問した直後、彼は目の前にある剣へ手を伸ばした。
柄を握る。
そして……。
その重さを感じた。
あっ。
その瞬間、あの大きさの剣を一日中持ち歩くことが、どれほど馬鹿げた想像だったのかを理解した。
彼は両手で剣を持ち、いくつか動かしてみようとした。
動き?
彼は動きを止めた。
どんな動きだ?
まったく分からなかった。
それでも、剣を右へ振ってみた。
次に左へ。
一度。
もう一度。
そして、もう一度。
すごくいい感じだ。
何だか不思議だった。
何か、気に入ってしまうものがあった。
強くなった気がする。
しかし、その重さは圧倒的だった。
すぐにそれを実感した。
これは、自分が扱えるようなものではなかった。
戦士クラスは良い選択肢かもしれない。説明によれば、魔粒子を必要とする技術にも、それほど依存していない。
それでも……。
どうにも納得できなかった。
訓練すれば、立派な戦士になれるかもしれない。
いつかは、あの重さにも慣れるかもしれない。
だが、今のところは、しっくりこなかった。
将来、戦士の道を選ばなかったことを後悔するかもしれないな。
彼は再び剣を見た。
でも、今の俺には向いていない。
彼は武器を手放した。
神様……こんなに重いものを、一日中持ち歩いている人たちは、どうやっているんだ?
剣を元の場所に戻した。
彼の腕は、わずかに震えていた。
イルサとミカが彼をギルドに連れてきたとき、さまざまなクラスについても簡単に説明してくれていた。
その種類は多かった。
実際、多すぎるほどだった。
選択肢もかなり豊富だった。
問題は、その大半が魔粒子を必要とする技術を使うことだった。
ルチアーノが驚いたことに、その部分を説明してくれたのはイルサだった。
どうやら、彼女はその話題が大好きらしい。
クラスについて話すたびに、彼女の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
ときには興奮しすぎて、必要以上に話し続けてしまうこともあった。
ルチアーノは、彼女の話についていくのに苦労することさえあった。
イルサが最初に勧めてきたのは、戦士クラスだった。
だが、どうやらそれはもう候補から外してよさそうだった。
やっぱり、あのクラスにするべきだよな?
そう考えながら、彼の目は二本の短剣に留まった。
数秒間、それらを見つめる。
使いたい武器とクラスについて、すでにある程度の考えは固まっていたが、それでも彼は数分間、ほかの武器も調べ続けた。
何しろ、この選択によって、これから先の自分の生き方が決まるかもしれないのだ。
そう、異邦人はクラスを変更することができる。
だが、時間が経つにつれて、それは難しくなる可能性があった。
探索者クラスにも興味を引かれていた。
何となく、惹かれるものがあった。
しかし、考えを変えるほどではなかった。
イルサとミカが二番目に勧めてきたのは、暗殺者クラスだった。
ほかの多くのクラスとは違い、その技を使うために魔粒子を必要としなかった。
もっとも、実際には、どのクラスも何らかの形で魔法と関係していた。
ただ、戦士や暗殺者のように、必ずしも魔法に依存しないクラスもあるというだけだ。
そして、本人が望めば、自分の技術に魔法を組み合わせることさえできた。
だからこそ、イルサはあれほど多くのクラスについて説明してくれたのだ。
何しろ、ルチアーノが通常なら魔粒子を必要とするクラスを選ぶ可能性もあったのだから。
もしかすると、魔法なしでも何とかなるかもしれない。
難しいことだった。
とても難しい。
だが、不可能ではなかった。
さらに、どのクラスであっても、異邦人は教わった技術とは別に、自分だけの技を身につけていくことができた。
ルチアーノは顎に手を当てた。
再び短剣を見つめる。
それから、ほかの武器にも目を向けた。
そして、ついに決断した。
「暗殺者クラスにしようと思う」
その口調には考え込むような響きがあったが、言葉の裏にはもうそれほど迷いはなかった。
もう決めたのだ。
何を買うべきか分かっていた。
そして、何を後回しにするべきかも。
お金はある。
だが、それほど多くはない。
使いすぎるつもりもなかった。
今ここで全部使ってしまえば、そのあと食事をしたり、ほかの物資を買ったり、予想外の出費に対応したりするためのお金が足りなくなってしまう。
いくらかは残しておきたかった。
節約するのだ。
必要最低限のものだけ買おう。
彼は再び装備に目を向けた。
それに、急ぐ必要もない。
そう考えながら、ルチアーノは店主のほうへ向かった。




