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第4章: 第1部: 自分の世界ではない世界

 その日は晴れていた。


 よかった。


 もし曇っていたら、ルチアーノの気分にはもっとよく似合っていたかもしれない。とはいえ、どれだけ今の気分にぴったりだったとしても、曇ってほしいとは思わなかった。


 そんなのは、さすがにきつすぎる。


 自分の感情を抱えているだけでも十分なのだ。おまけに、どんよりとした空の下で、終わりのない雨に打たれる必要までない。


 だが、幸いにもそんなことにはなっていなかった。


 空は晴れ渡っていた。


 ウルブス辺境の町を散策し、冒険するには絶好の日和だった。


 人々があちこちを行き交っていた。立ち止まって話をしている者もいれば、商品を運んでいる者もいる。ただこの日を楽しんでいるだけの者もいた。どこを見ても、人の往来があった。


 ここに来るのは初めてだったため、この人出がいつもどおりなのか、それともたまたま特に賑わっている日に当たっただけなのか、ルチアーノには分からなかった。


 確かなのは、ウルブスが活気に満ちているということだった。


 田舎町らしい、どこか美しい中世風の雰囲気があり、それがこの町を独特なものにしていた。


 少なくともルチアーノの目には、特別に目を見張るような町には映らなかった。巨大な建造物があるわけでもなく、思わず息を呑むようなものもない。それでも、昔ながらの町並みには何か特別なものがあった。


 家の大半は、石か、それに似た素材で造られているようだった。屋根には瓦が敷かれ、建物の一部には木材が使われているように見えた。


 もちろん、例外もあった。


 泥か、それに類するものを使って建てられたような家もいくつかあった。


 ルチアーノは、それらを数秒間眺めた。


 居心地のよさそうな場所だ。


 今の自分の置かれた状況を考えれば、あまりにも居心地がよすぎるくらいだった。


 明るい雰囲気も、すれ違う人々の笑顔も、彼から笑みを引き出すことはできなかった。


 もっとも、よく考えてみれば、ルチアーノはもともとあまり笑う人間ではなかった。


 幸せなときでさえ、笑うという行為が自然にできるわけではなかったのだ。


 腰に両手を当て、長いため息をついた。


 あまりにも長いため息だったため、近くにいた何人かが振り返って彼を見た。


 一人。


 また一人。


 そして、もう一人。


 中には、変な奴だとでも思ったのか、奇妙なものを見るような目を向けてから、そのまま歩き去っていく者もいた。


 ルチアーノは少し恥ずかしくなった。


 ほんの少しだけ。


 別に、そこまで気にしているわけでもなかった。


 何しろ、これ以上ひどい状況になることなんて、そうそうないのだから。


 彼は美しい水色の空を見上げた。


 暗い瞳は伏せがちで、目の下にはくっきりとした隈が浮かんでいた。そんな目を、日差しのまぶしさにわずかに細める。


「はあ……ひどい状況だな、こりゃ」


 飾ることなく、そのまま口にした。


 もっと上品な言い方を探そうともしなかった。


 そのあと、笑ってみようとした。


 失敗だった。


 どうして笑うのって、こんなに難しいんだ?


 単に、慣れていないだけなのかもしれない。


 彼のような人間には、あまりにも難しいことだった。


 魔法を使えたり、何か特別な能力を持っていたりしたら、どれほどよかっただろう。だが、実のところ、それが彼を最も落ち込ませているわけではなかった。


 本当に気が滅入るのは、別のことだった。


 生き延びるだけでも難しいのに、これからはもっと難しくなる。


 その二つをどちらも持っていないというのは、戦うための手段を持たないのと同じだった。


 まるで、戦場に出る前に両腕を切り落とされたようなものだ。


 *これからどうすればいいんだ?*


 数秒間、考え込んだ。


 *やるべきことは分かっている。*


 *まあ……頑張るしかないか。*


 その考えに、彼の表情がわずかに歪んだ。


 *頑張るって、面倒じゃないか?*


 そう。


 面倒なのだ。


 何より、ひどく億劫だった。


 特に、ほかの連中と同じくらい生き延びられる水準に達するだけでも、自分は彼らよりずっと努力しなければならないと分かっているのだから。


 はあ……。


 ルチアーノは再びため息を漏らした。


 *のんびり暮らしたい。快適なベッドに寝転がって、普通の生活を送りたい。それに、誰かと恋愛でもできたら……なんてな。*


 彼は黙り込んだ。


 *でも……。*


 *そんなの、望みすぎだよな?*


 視線を落とした。


 *どうしてこんなことになったんだ?*


 *どうして俺なんだ?*


 また、ため息をついた。


 彼はそれまでずっと、ギルドの外で考え込んでいた。正確には、入口の脇に立っていたのだ。


 当然ながら、入口はかなり大きく、目立っていた。ただし、優雅さとは無縁だった。


 ルチアーノは両手で顔を覆った。


 そして……。


 パシン!


 自分の頬を思いきり叩いた。


「まだ生きてる。まだ、状況をよくする時間はある」


 小さな声でそう言った。


 しかし、頬を叩いた音は、近くにいた人々の注意を再び引くには十分だった。


 何人もの人が振り返った。


 今度ばかりは、かなり恥ずかしかった。


 もういい。やめだ。


 見ている人が多すぎる。


「よし、やるか!」


 自分を奮い立たせようと、小声でそう言い聞かせた。


 そして、その場を離れた。


 文字どおり自分には何もないのだと知ったあの瞬間を経て、ルチアーノはようやく現実を受け入れることにした。


 自分は異邦人として生きていくのだ。


 ほかに選択肢もなかった。


 もしあったのなら、間違いなく拒否していただろう。


 記憶を失っただけでも、新しい人生を始めるのは難しい。


 それなのに、魔法まで使えないと分かったのだ。


 それは、さらにひどい話だった。


 要するに、ムエルガルで生き延びるために彼が選べる道は、それしかなかった。


 ほかに方法はない。


 気に入らないとはいえ、少なくとも彼はそれを受け入れることができた。


 生き延びなければならない。


 それ以外にないのだ。


 悲しい話だろう?


 自分で言うところの、どうしようもない役立たずであるにもかかわらず、イルサもミカも、彼を死ぬ運命にある人間のようには扱わなかった。


 それどころか。


 二人は彼を励ましてくれた。


 役に立ちそうなものだって、いくつか手に入れることができた。


 そのあと、異邦人ギルドに所属していることを証明する証明書の準備ができるまで、町を見て回ってくるようにとイルサに言われた。


 市場にも立ち寄り、必要なものをいくつか買ってくるようにとのことだった。


 そうして、彼は今の状況に至ったのだった。


 ウルブスの町を歩きながら、ルチアーノは道の片側に集まっている異邦人たちの一団をいくつも見かけた。


 それぞれの一団の前には、小さな看板が掲げられていた。そこには、ルチアーノが完璧に理解できる言語で文字が書かれていた。


 *どうして異邦人だって分かるのか?*


 簡単なことだった。


 彼らは武器を持っていた。


 服装も、少なくともルチアーノの目には、戦闘に適しているように見えた。


 だが、それだけではなかった。


 彼らが掲げている小さな看板には、見覚えのある言語で文字が書かれていたのだ。


「なるほど……これが俺たちの言語か……」


 ルチアーノは看板を数秒間眺めた。


「異邦人の言語……」


 本当に彼の注意を引いたのは、そこだった。


 書かれている内容ではない。


 言語そのものだ。


 なぜか?


 イルサとミカから、異邦人が到着した際に受ける最初の説明を聞いていたとき、奇妙なことに気づいたからだ。


 この世界の人々が書く文字は理解できないのに、話していることなら問題なく理解できた。


 分かりやすい例がイルサだった。


 言葉が同じではない。


 少なくとも、そう見えた。


 理由は分からないが、ムエルガルの人間が話す言葉は、ルチアーノには何の問題もなく理解できた。


 一方、文字となると、まったく話が違った。


 何ひとつ理解できなかった。


 見慣れない記号ばかりだった。奇妙な形をしていて、何秒間見つめていても、意味を見いだすことができなかった。


 あの言語で読み書きができるようになりたければ、勉強するしかない。


 そして、正直なところ、今はそんなことをしている場合ではないと思っていた。


 その一方で、看板に書かれている内容は興味深かった。


 書かれている文字自体は、彼の知らない言語のものだった。それなのに、どこかおかしなことがあった。


 記号を見るだけで、その意味が理解できたのだ。


 さらには、そうした言葉をどう書けばいいのかまで分かるような気がした。


 単語だけではない。


 文章までだ。


 まるで、その知識が頭のどこか奥深くに埋もれているかのようだった。


 しかし……。


 *ああいうチームのどれかに入るべきだってことは、分かっている。*


 ルチアーノは再び一団を見渡した。


 いくつもあった。


 どの一団も、新しい仲間を探しているようだった。


 だが、運の悪いことに、そしてイルサが言っていたとおり、魔法適性がまったくない人間が受け入れてもらえる可能性は、極めて低かった。


 そういうことなら、わざわざ尋ねて回る意味もあまりない。おそらく断られると分かっていることに、時間を無駄にする必要はなかった。


 一人で行動すること自体は苦ではなかった。


 むしろ、そのほうがかなり気楽だった。


 誰かに頼る必要もない。


 ほかの人間と絶えず話したり、興味もないことに時間を費やしたりする必要もない。


 *人と話したり、くだらないことをして騒いだりするのは、俺の性に合わない。*


 とはいえ……。


 問題はそこだった。


 ギルド長と話した内容を考えれば、この世界でチームを組むことは、単に推奨されているだけではなかった。


 必要なことだったのだ。


 生き延びられる可能性が高まるからというだけではない。狩るモンスターの数が増えれば、それだけ多くの金を手に入れられるからでもある。


 それに、一人で大きな成果を上げるのは、かなり難しかった。


 不可能と言ってもいいくらいに。


 *そういえば……。*


 ルチアーノはわずかに眉をひそめた。


 *記憶を失う前の俺って……もしかして、ちょっと人付き合いが苦手だったんじゃないか?*


 しばらく考えた。


 *つまり、自分から行動して、あまりほかの人と関わろうとしないような人間のことだ。*


 前を見つめた。


 *それって、反社会的ってことなのか?*


 本気で疑問に思っているようだった。


 さらに考え続けた。


 *うーん……たぶん、そうなんだろうな。*


 小さくため息をついた。


 それから、異邦人たちの一団を見るのをやめ、再び歩き始めた。


 目指すのは市場だった。


 場所が分かるのはなぜか?


 簡単だ。


 ミカが、そこまでの道順をかなり詳しく教えてくれていたのだ。


 実際、説明がとても分かりやすかったおかげで、ルチアーノは町の中で迷うことなく進めていた。


 万が一、何か問題が起きたとしても、近くにいる人に尋ねればいいだけだった。


 もっとも……。


 弱いことに加えて、異邦人のチームに加わるには、もう一つ障害があった。


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