【第36話 エンカウント/ミスティ編:嘘で固められた神明裁判】《36-1アル達(被告)の罪状》
アルが勝った。
この事実を認識すると、ハズレ券であろう紙吹雪が舞い散るリングから視線を外し、さっきのベリオットのセリフについて問いただした。
「さっき言ってた『負ければ死ぬ』って、どういうこと!?」
「エースペードとその仲間は、三大神を祀っている神殿のシンボルを盗んだことで、罪に問われている」
「……さっきの言い方だと、アルはこのこと、知ってるのね」
「ギャラクスがあいつに手紙を出している。被害を訴えている国とも、それで話がついている。知らないのは観客だけだ」
ガラスについた手が、自然に握られた。いったん落ち着こうと、ソファに戻る。
「シンボルっていったい何? ベリオットが前に、天空王の神殿に取りに行った『神器』とは何か関係があるの?」
質問の体でベリオットに確認をする。
「そのシンボルは、神器のことだ」
やっぱり、と内心でる呟く。
クリシュナでベリオットと話した、天空王の神殿と神器の話と、今回の一人旅で大地神王と話した内容とを合わせて、答えに確信があった。
「あなたに『天空王の神器を取ってこい』って命令した人いたよね。その人は大丈夫なの?」
二人分のワインを注ぎながら、窓をチラと見る。
アルやその仲間達は「神器を盗んだ罪」に問われている。
ならばベリオットや、その「依頼主」にとっても、他人事ではないだろう。
ベリオットは依頼主について、こう言った。
「エースペードの手配を出した本人だ。心配ない」
依頼主は特定されてはいけないんだっけ。
ここで「もしかして、ギャラクスさん?」と、確信に触れるのを思い留まる。
答えが欲しいのに、依頼主について他言したベリオットが、何かしらのペナルティを負うかもしれないと、この期に及んで考えてしまう。
「さぁ~て、いよいよ決勝戦!! 初出場でありながら、強豪たちの間を勝ち抜いてきた無名の剣士、アルフィード=エースペード!」
ガラスの外で明るく響く審判の実況の声は、最初と変わっていない。
なのに、この事実を知った途端、意地悪く聞こえるようになる。
「さて、突然ですが、今回闘技場にお集まりの皆様に、お詫びしなければなりません……今しがた私は、エースペード氏を『無名の剣士』と称しましたがその実態はーっ! レガリア、クリシュナの遺跡を荒らし、現在指名手配中の盗賊である、という疑いが掛かっているのです! そしてもし、エースペードが途中で負けた場合、その選手には大会とは別途に、賞金を与えるという裏ルールが存在しておりました! 皆さま、サプライズの為とはいえ、騙して申し訳ありませんでしたーっ!」
楽しそうな顔で頭を下げる審判。
言い方がムカつくので、サプライズのお礼に、銃口とキスさせてあげたくなる。
観客席は再び湧き立ち、立ち上がって「よっしゃー! 楽しませてくれよルビー!」と、声援を送っているむさい男の集団。
観客席ではユングの母親が、泣き出してしまい、先生がなだめているのが見えた。
ユングが立ち上がり、アルに向かって呼びかける。
「アル、嘘じゃろ!? 嘘って言えや! 遺跡になんて俺の前ではしゃいでるオッチャンの頭の毛ほども興味ないお前が、なんでそんなことしなきゃならんの!?」
審判は続ける。
「そして彼の持つ剣、これはクリシュナで盗まれた天空王の剣と思われるのですがー、宰相ギャラクス殿いわく『天空王の剣は悪しき者の命を吸い取る』のだそう! それを受けて我らが国王は、エースペードとその一味の容疑については、神に審判を委ねる、この大会を生きて終えることができれば、恩赦を与える』とのことです!!
神のジャッジを代行する者、それはレオパルテの英雄の彼しかいないようです!! 不動のチャンピオンであり、またそのルックスで女性に大人気であります!! 剣術の貴公子……通称ルビーこと、ルベオルス=カルマあァーーーーーーーーっッ!!」
審判にこう紹介されている、白い髪に白い軍服の選手を見る。
(あれが『ルビー』)
私に似ていると言われているだけあって、顔も体格も、まだあまり男っぽくない。
さて、お酒が入ったせいか、ベリオットはいろいろ話してくれた。
アル達が神殿から出てくるところを地元住民が目撃して、という経緯は嘘だということ。
実はその通報は「依頼主」の自作自演であること。
報酬付きで情報提供を募り、彼らの足取りを割り出して、スリザスさんの家に招待状を(この部分でだいたい特定できるが、ギャラクスさんかレオパルテ王かは訊かないでおいた)出したこと。
そして今審判がギャラクスさんの言葉として言った「天空王の剣は悪しき者の命を吸い取る」も嘘で、レオパルテ側が仕掛けた「相手の持ち物にかける呪い」だ、ということも……。
話を引き出そうとしていた私が心配になるほどに、ベリオットは話してくれた。
「媒体はエースペードの剣。『天空王の神器を使う』、『大会の招待状を読む』の二つを満たせば呪いが発動する」
もしかしたら漏れたら困る部分は、彼本人には知らされていないのか。
もしくは魔法や薬、拷問などで自白を引き出そうとしても、そこに触れようとすると、喋れなくなるなどの魔法を自分にかけているとか。
いったん話を変えたいのと、気になったのとで、このことについて尋ねてみる。
「海神王の神殿には、ベリオットは行ったの?」
審判は「レガリア、クリシュナの遺跡を荒らし……」と言っていた。
残りの一つ、海神王については言及されていない。
「俺とルベで行った。だが、海神王の『指輪』は、すでに持ち去られて、なかったんだ」
この流れで「彼らが持ち去った、とは思わなかったのね」と思ったが。
「指輪」
確かに彼はそう言った。
「海神王の遺跡って、どこにあるの?」
「海底鉱脈を辿った先にある、海底神殿だ」
特徴を聴けば聴くほど、私の持っている指輪が「海神王の神器」であると確信が深まっていく。
最初はただの、きれいな指輪だと思って持ち帰ってきてしまった。
だが、魔法効果の増幅に、自分の素養のない魔法でも思い通りに使うことができるという効果があると、魔法の練習をしている時に気付いた。
「神器ねえ、一体何がすごいんだろう」
「お前の今言った、海神王のは『どんな素人でも、知っている魔法なら使える。魔力の消費もない』」
ベリオットの解説で、やはり私の持ち出した指輪が「海神王の指輪」だと確定する。
(……じゃあバレたら私も死刑?)
私が海底の神殿から持ってきた指輪のことは、黙っていようと密かに心に誓い、ベリオットのグラスにワインを注いだ。
すると、外から青ざめた叫び声が耳を突き抜けた。
と思いきや、私は再び立ち上がって外を覗きこんだ。
アルの肩から、血が噴き出していて、剣を持った腕が床に落ちていた。
「……ごめん、ベリオット」
彼に謝罪すると、ドレスの中から取り出した銃で、窓に亀裂を作った。
そして脆くなった部分に突進してガラスを割り、私はリングに降り立った。




