エンカウント/アルフィード《36-2剣を持つ腕がなくとも》
夢なのか、幻なのかは分からない。
でも、ミスティであることは間違いない。
最後に会えた嬉しさで、涙腺が刺激された。
「実の兄に銃を向けるとは。教育が、必要みたいだな」
ルベオルスの声で、こう言うのが聞こえた。
更に突然リングに上がって来た彼女に対して、審判が実況する。
「おおーっとぉ、どういう事でしょうか。今まで家族構成など、謎とされてきたルビー選手ですが、ここで妹が登場ぉ!? しかもアルフィード選手を庇って、銃を持っての乱入です!! しかし、さすがルビーの妹……と言いましょうか。彼そっくりの美少女であります!」
……やっぱり、そこにいるんだ。
本物の兄がいるとは、思わなかったけど。
「血のつながりなんか、どうでもいい。私の兄さんは、この彼……アルフィード=エースペードよ!」
その言葉に、再び目頭が熱くなった。
この役立たずをまだ、兄さんと慕ってくれるのか。
ずっと、彼女は俺を憎んでいると思っていた。
「でも、あんたを連れてお墓参りすれば、母さんと……が喜ぶかもとは、思ったけどね」
ミスティの口ぶりはまるで、ルベオルスが兄だと知っていたかのようだ。
兄妹のやり取りに、審判が割り込んだ。
「ですがー、今手を貸したら反則負けになります! 恩赦もなくなってしまいますよ!?」
「はぁ!? この状態見て続けられると思ってるわけ? あんた目、いらないんじゃないの? 私が雇い主なら、即クビよ、クビ! つべこべ言ってないで、救護呼んで!」
「ですが、エースペード選手は『負け』を宣言していなければ、武器を手放してもいませんし、死亡もしていませんし……」
「……あんた、手だけで剣が振れると思ってんだ? じゃあ落とされた手で、マイク握れるか、やってみる?」
ミスティが審判を脅し始めたところで、「アル!」と呼ぶ、セレフィナの声がした。
走馬燈と思いきや、本当にそこにいた。
「うわわ! セレ姉ちゃん、これ何とかならないの!?」
ゴーフルの奴、俺の腕が切り飛ばされたのを、さっき見たばかりじゃあないか。
自分事なのに、何だか無性に可笑しい。
「イルゼ……ルルディの事、後で聞いたわ」
「あたしは大丈夫だけど、あんたこそ今、やばいんじゃない?」
俺の後ろから、イルゼの声がミスティと会話しているのが聞こえた。
彼女達が知り合いだなんて、今初めて知った。
「今なら間に合うわ。腕を貸して!」
セレフィナがゴーフルに、俺の腕を持って来させようとするが、俺は慌てて止めた。
「やめろ、余計な事はするな!!」
勝負はまだ終わっていない。
俺は渾身の力を込めて起き上がる。
「でもよお、兄ちゃん」
「……ゴーフル、安心しろ。田舎っぺ男は…………図太いんだ……!」
残った左腕で、自分の落ちた腕から剣をふんだくる。
少し落ち着きのない、ミスティと視線が交差した。
「ありが……とう」
なぜいなくなったのか。
どうしてここに。
しかもどうしてキレイに着飾っているのか。
訊きたい、言いたいことはいろいろある。でも今は礼だけ言う。
耳を疑う情報が、審判によってもたらされる。
「えーっと、今入った情報によりますと……ルビー選手の妹だというこの女性、かつてクリシュナ国を騒がせた、青い瞳の賞金稼ぎ『盗賊狩りのサフォー』だといいます!!」
「そこの女、止まれ!」
いつの間にか、リングには警備の兵士達が押し寄せていた。
「やば」
ミスティは身を翻して、また鳥のようにどこかへ走り去ってしまった。
「この不具め! 何ができる!?」
こう罵倒するルベオルスに視線を戻し、返事をする。
「……たぶん、君を倒すことは、できない…………だろうな」
掠れた声でルベオルスに答えると、両脛を狙う刃を跳んでかわす。
そのまま右脚を軸に回転して、ルベオルスを蹴り飛ばした。
惜しい。
リングのふちまで吹っ飛んでくれたが、踏みとどまったようだ。
もう少しで、リングアウトには持ち込めたものを。
「ヤキが回ったか!」
「ああ、その通りだ!」
剣を振るも、片手がなくてバランスがとりづらく、思うようにはいかない。
ぶつかったショックでルベオルスの手から剣が離れ、隙が出来た。
そのまま懐に潜り込んで頭突きをかまし、今度こそリングの外へ飛ばす。
「アルフィード選手、反則負けです!」
審判の声が、俺の負けを宣言した。
「そんな!」
「んだと!? リングアウトさせんのも、いいんじゃなかったのかよ!?」
セレフィナとゴーフルが審判に詰め寄ろうとするも、審判は毅然と説明した。
「評議の結果ですと、あなた方は治療目的で、選手に触れています。これは仲間が手を貸したとみなし、失格です」
じゃあ、俺はもうダメだろうな。
そう思いながらも、血をかなり失っているせいで頭が回っていないのか、別に悔しさも何も感じなかった。
「いいえ、負けで結構です」
そこに来ていたマクベスが、リングの上に上がって二人を止めた。
「マクベス兄ちゃん! だけど……」
「アルさんの剣を、見て下さい」
そう言ってマクベスは、俺が落とした剣を拾う。
「あれ? アルの剣って、金色だったはずじゃ……」
イルゼが俺の剣を覗き込み、驚く声を上げた。
鍛冶屋から受け取った当初は黄金色だった剣の刃は、白金色に輝いている。
「……呪いは、解けたようですよ」
「……どうして?」
負けたら、剣の呪いが俺の命を吸い取るんじゃ、なかったのか? と続けようとしたところで、マクベスはある「思い違い」を指摘した。
「条件は『ルベオルスの前で力を示す』ことです」
「示せて……たのか?」
「まさか『とどめを刺す』か、『落とした腕から武器を切り離して終わり』ってところで、あなたが起き上がって蹴りでも頭突きでも、やってくるとは思わなかったんでしょうね」
湯をぶっかけた氷が溶けるくらいの勢いで、緊張が解けてでいく。
体中の筋肉が緩み、膝が地面に落ちた。
「大丈夫かい? 医務室運ぶよ」
イルゼの声がして、体が宙に浮くのを感じた。強烈な眠気で瞼も閉じていく。
「アル!」
セレフィナの声に呼ばれた瞬間に、目の前が暗くなった。




