【第36話 エンカウント/アルフィード編:決勝の合図と死刑判決の言い渡し】《36-1サプライズの公開処刑ショー》
——決勝戦。
銀の長い髪に赤い瞳、白い軍服を着た選手……ルベオルスが入場し、俺の緊張は最高潮になる。
(……ついに、ここまで来たんだな)
「さぁ~て、いよいよ決勝戦!! 初出場でありながら、強豪たちの間を勝ち抜いてきた無名の剣士、アルフィード=エースペード!」
審判の、熱の入った大声につられるように、会場全体の歓声が今まで以上に沸き立つ。
「……さて、突然ですが、今回闘技場にお集まりの皆様に、お詫びしなければなりません」
今まで騒がしいくらいだった審判の声が、急に静かになるので、観客席は彼の次の言葉を待つ雰囲気になる。
「今しがた私は、エースペード氏を『無名の剣士』と称しましたがその実態はーっ! レガリア、クリシュナの遺跡を荒らし、現在指名手配中の盗賊である、という疑いが掛かっているのです!!」
観客席から「何ぃーーーーっ!?」と、ロックハート父子の声が聴こえる。
「そしてもし、エースペードが途中で負けた場合、その選手には大会とは別途に、賞金を与えるという裏ルールが存在しておりました! 皆さま、サプライズの為とはいえ、騙して申し訳ありませんでしたーっ!」
審判がわざとらしく頭を下げると、予期せぬ断罪ショーの催しに、ガラの悪い観客が大いに盛り上がる。
「よっしゃー! 楽しませてくれよルビー、盗賊野郎を公開処刑だ-っ!!」
ユングの前列に座っていたゴツい男連中なんて、興奮して立ち上がってしまっている。
「アル、嘘じゃろ!? 嘘って言えや! 遺跡になんて、俺の前ではしゃいでるオッチャンの頭の毛ほども興味ないお前が、なんでそんなことしなきゃならんの!?」
楽しそうに、俺の処刑で笑っていた禿頭の男が、ユングを見ながら何か言いたそうにしているのが、ここからでも見て取れる。
「そして彼の持つ剣、これはクリシュナで盗まれた天空王の剣と思われるのですがー、宰相ギャラクス殿いわく『天空王の剣は悪しき者の命を吸い取る』のだそう! それを受けて我らが国王は『エースペードとその一味の容疑については、神に審判を委ねる、この大会を生きて終えることができれば、恩赦を与える』とのことです!!」
嘘つけ。
剣に呪いを掛けたのは、お前の差し金だろう。
いけしゃあしゃあと宰相の顔をして、国王の隣でリングを見下ろしている、魔王アンジェを見上げた。
「神のジャッジを代行する者、それはレオパルテ屈指の英雄である、彼しかいないようです!! 不動のチャンピオンであり、またそのルックスで女性に大人気であります!! 剣術の貴公子……通称ルビーこと、ルベオルス=カルマあァーーーーーーーーっッ!!」
審判の絶叫とともに、ワーッと歓声が上がった。
ルベオルスが、低く冷たい声で言う。
「まあまあ頑張ったようだな。今楽にしてやる」
彼の姿が突然、消えた。
(……どこだ!?)
寸前まで、目の前にいたはずなのに。狼狽し、視線を周辺に泳がせる。
いた…と、目が彼の姿を捕らえたと思うともういない。
突然心臓が跳ね上がるような、強烈な殺気を感じたかと思うと、目の前にルベオルスの姿が迫っていた。
彼の剣を間一髪で受け止めた……と思った。
剣同士のぶつかり合う音もなく、数秒の間、静かになる。
次の瞬間、観客席から誰かの大きな、歓声なのか悲鳴なのか区別できないような、甲高い叫び声が上がった。
「どうした?」
ルベオルスの、侮蔑を含んだ目と視線が交差すると同時に、体の正面が、血がしぶきを上げた。
着ていた金属板入りのレザーアーマーは、ぱっくりと割れている。
試合中にもかかわらず目がくらんで、正面から視線が大きくブレる。その拍子に気付いた。右肩から血が噴きあがっていることに。
そして石の床の上には俺のシャツと同じ、灰緑の袖を纏った腕が転がっている。その手に握られているのは、間違いなく、俺の呪われた剣だ。
力が抜けた。
というよりは、自分に合わない鉄の鎧を、持て余すように体全体が重くなった。
もう足は自分のいう事など無視し、体を支えるという役目を放棄してしまった。
冷たい床に倒れこんでいるのに、脂汗が、全身から流れ出る。
(思ってみればどうして、こんなことしているんだろう?)
うまく働かなくなった頭に、こんな考えが浮かぶ。
最終的な相手は、かつて世界中を死で覆いつくした魔王だ。
そして魔王を操る首謀者は神様なのだ。
こんな田舎の若造が意気込むこと自体が、バカバカしい。魔王はおろか、闘技場のスター選手にすら、歯が立たないではないか。
天空王の神器の片方は、ギャラクスの方に渡り、海神王の指輪も行方不明。
それに……。
かつては俺を「お兄ちゃん」と呼んで甘えてくれていた、ミスティの笑う顔が浮かぶ。
(無実の女の子ですら、助けられなかった。そんな奴が、世界だって? 笑っちゃうよ)
ミスティは俺の事が嫌いになって、またいなくなってしまった。
(……もう、眠ってしまおう)
血が広がって海になるのを、静かに眺めた。
痛みが徐々に引いている気がするのは、錯覚だろうか。
「使い手がこれでは、せっかくの剣が哀れだな」
怒りと蔑みを含んだ声が、頭の上で吐き捨てられた。
(まったくその通りだ。笑えるよ)
目を閉じて、静寂の世界へ踏み入れる。
観客席の声や、ガラスの音の割れる音なんて、どうでもいい。
(ミスティ……もう一度だけ、会いたかったよ)
ルベオルスと同じ顔の妹分に、心の中で別れを告げた。
その時、銃のような乾いた炸裂音ではなく……明らかな銃声かなり間近でして、驚きで視線を上げた。
「少しでも動いたら撃つ」
紫色のドレスを着たミスティが、ルベオルスに銃を突き付けていた。




