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【第35話 エンカウント/ミスティ編:知った顔のスター選手達】《35-1ベリオットが警戒する、闇の奥の視線》



 つまりここに男女が入るのは、「そういう意味」もあるということ。


 この部屋のそんな裏の用途を理解して「えっ!?」と驚いたり「やだあ」とか、照れたりする流れなのだろうけど。


(……いいなあ、私もそういう扱いがよかった) 


 私は多くのカトレア席ユーザーカップルへの嫉妬と羨望(せんぼう)で、それどころではなかった。


 カトレア席ユーザーどころか、混み混みの一般席で、はぐれないように腕を組む仲睦まじいカップルだって羨ましい。


 それにひきかえ私は。


 ベリオットを前にして、想いを伝えるどころか「会いたかった」すら言えないでいる。


「で、なんでお前は帰ろうとしたんだ?」


「だって……ベリオット、私に来て欲しくなかったんでしょ? あんな嫌そうな顔されてまで、居座ってたくない」


 だったら、繁華街へ行って遊んでいる方がまだマシだ。


 試合中の時間であれば、空いている店も多いだろう。


「ちがう!」


 ベリオットが声を荒げ、驚いて彼の方を振り返った。


「何!? 急に大声出して。ビックリするじゃない」


 振り向くと、すぐ近くまで距離が詰められていた。


 息がかかるくらい、耳に口が近付けられる。

「さっきの……」


「次の選手は、アルフィード=エースペード!」


 知っている名前がコールされたので、思わず再び窓の外を振り返る。

「アル!? なんで!?」


「ルベの奴……この闘技場のスター選手が、エースペードと戦いたいんだそうだ」


(アル、勝てるの?)

 確かに村では一番だったけど、この試合には世界中から腕に覚えのある戦士が集まっている。


 働き始めてすぐ、カフェのお客さんから「お姉さん、闘技場のルビーに似てるね」と言われた。


 ここからその「ルビー」とは誰で、どんな人物なのかという具合に、雑談の中で自然に情報を得られたのだった。


 フルネームは「ルベオルス=カルマ」。


 レオパルテ国名物である闘技場のスター選手であり、ちょうど私と同い歳の男性であること。


 ルビーのような紅い瞳から「ルビー」のあだ名が付いていること。


 ベリオットと同じ王廷(おうてい)騎士であることも。


(アル、勝てるの?)


 確かに村では一番だったけど、この試合には世界中から腕に覚えのある戦士が集まっている。


 最終的に控えているのは、文字通り王直属の騎士。


「ねえ、ルベオルスって本名?」


 答え合わせの為に、事前に得た情報を伏せて、ベリオットに尋ねる。


「いいや、俺がてきとうに付けた。本名はルビーだが、女みたいで気に入らないそうだ」


「その気に入らない本名が、今度は通称になっちゃうとはね。ところで家族の話とかする? たとえばきょうだい……『妹がいる』とか」


「ルベの奴は『俺には、妹なんてものはいない』って言ってるが、ギャラクスが言うには、血縁上はお前の兄貴なんだってな」


 ギャラクスさん、知っていたならなんで、養子縁組の話の時に言わなかったんだろう。


「話を続けてもいいか?」


 腕を掴まれ、彼の方に振り向かされる。


 確認する口調なのに、話を中断されて怒っているのか手つきが粗い。


「痛いってば」


「……悪い」


「こっちこそ、話の腰折っちゃってゴメン」


 ひとたびソファに戻って座り、聴く姿勢になる。


 アルの方は気になるけれど、大丈夫だと信じることにしよう。


「さっき廊下で」


 ここまで言いかけて、ベリオットはまた、通風孔(つうふうこう)の辺りを凝視している。


「さっきから通風孔を気にしてるみたいだけど、何かいるの?」


 一見何もいないようで、たとえば魔族にしか見えない何かが、そこから覗いているとか。


「たぶんいない。だが、いてもおかしくはない。あれがたぶん、お前にも目を付ける」


 ルーバーの隙間に並ぶ、二つの目を想像してしまう。


 幽霊や魔物じゃなくても、そんなところに潜んでいるなんて、絶対普通じゃない。


 ベリオットは続ける。


「さっきの芸術家の近くに、いつも変なのがうろついてる。あいつがいたということは、この闘技場にも、来てるはずだ。カトレア席は通風孔で全室繋がってるから、こっちに来ることもできる」

「通風孔から、わざわざ他の部屋を覗きに来るの? ミローティだって一緒なら、注意するんじゃない?」


 名前が知れてしまっている人にとって、家族や友人と言った関係者の行動も、自分の評価の一因になってしまう。


 ましてや今日一緒にいるのなら、連れが奇行などしようものなら、絶対に止めるはずだ。


「家族や友人といった物理的な連れじゃなくて、いわゆる『幽霊』というやつだな。たぶん、存在すら認識してないだろう。ギャラクスは『古くからこの土地にいる霊だから、あまり気にするな』とか言ってるが。俺はどうも、好きになれん」


「そんなに嫌な顔して、何かされたの?」


「ルベの奴が目を付けられてるのか、アパルトマンの部屋の窓に、白いオッサンが貼り付いて中を覗いてたそうだ。王城でもアパルトマンでも廊下とか天井とか、物陰からもねっとりした目で、おそらく同じオッサンがあいつを見てるのを、俺も見た。……気持ち悪い」


 主に取り憑(つ)いているのはランジェロ=ミローティ。しかしルベオルスにも付きまとっている。


 返事に困り、言葉が詰まった。


「あー……えーと、そう。でもルベって、男でしょ? ただの男色家なんじゃない? それなら私は大丈夫だと思うけど」


 男色家自体は、そこまで珍しくないとは聞く。それならば女の私は関係ない。


「そうか? 顔が同じだからお前も目を付けられてると思ったんだが」


 その時、外でも「勝者、アルフィード=エースペード!」と、司会者が試合終了を知らせた。

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