エンカウント/アルフィード《35-2準決勝 VS故郷の親友》
(……いよいよ、出番か)
うるさいくらいに高鳴る心臓をなだめるべく、左胸をひと撫でして深呼吸する。
「さて、行ってくるよ」
立ち上がり、リングへ降りる。
「何ぁーに、照れとんじゃい」
俺が無言でじっとしているのを、緊張していると思ったらしい。
近付いてきたユングが、ニカッと白い歯を見せて笑う。
この状況じゃなかったら、久々の再会を素直に喜んでいただろう。
受付でも、彼に会えることを期待していたし、終わったら真っ先に話しかけようとワクワクしていたのも嘘じゃない。
でも今はユングの態度が余裕そうに見えるばかりで、なぜ同じリングに立たなければならないのかとすら、考えてしまう。
(そういえば、俺の指名手配の話は、もう知ってるのかな?)
「えーと、補足をつけておきますと、アルフィード選手とユング選手は、同じ村で育った幼なじみだそうでして……」
ユングは村にいた頃、ほぼ互角だと思っていた頃よりも、ずっと強くなっていると思われる。
外国の、いくつもの大会で実力を示して、外の世界でも通用することが証明されている。
俺はどうなんだろう。
実力が上がっているのか、それとも自分では気付かぬ間に、下がっているのか。
怠けているつもりはなかったが、客観的に判断はできていない。
(もし俺が勝ったら?)
再会の嬉しさと、自分の指名手配に関する不安で失念していた、彼の戦う目的に、今更思い至る。
村の復興が、どれだけ早く終わるか、彼の双肩にかかっている。
彼の家族や好きな娘もいて、彼の活躍を期待して見守っている。
「で、お二人は、村の道場の中では一、二を争うライバル同士でもあったそうで」
「オッちゃん、長ったらしい講釈はええ! その決着を今、つけるんじゃワレ!」
審判の口上をユングが遮り、マイクを奪い取ってしまった。
「あいこもなければ勝っても負けても、恨みっこなしじゃ! 言っておくがなあ、俺がこのアルに負けてると断言できるんは、顔面偏差値だけじゃい! そこの応援席のネエチャンどもが、アルを見てキャーキャーさえずっとるけん。男は顔じゃないって、全世界に証明しちゃるわい!」
男性客(いつの間にかファンがついているようで、俺にはなかった好意的な言葉が聞こえる)からの声援が沸き、審判が「『マイク返せ』とは言えない」とでも言いたげに手を宙に伸ばしたまま、呆然としている。
なんだか、口から笑いが漏れた。
「おう、余裕じゃな」
「ばれた?」
小さく舌を出して微笑みかけるのが、今俺がユングに対して張れる、精いっぱいの虚勢だ。
「そ、それではレディー……ゴー!!」
開始の合図と同時に、互いの剣がぶつかった。
純粋な腕力は、彼の方が上だ。弾き飛ばされないようにしなければ。
「さっさと片付けんかあ――――!」
「てめえに賭けてんだぞお!!」
刃のぶつかる音の向こうで、野次の声がする。
いったん下がって、体勢を立て直す。
俺が剣を振り上げれば、ユングは余裕で受け止めた。
「アル……お前、ワザとやっとったな…………!?」
何度目かの斬撃を止められた時、ユングが言った。
やはりばれていたようだ。
剣の軌道を少しずつ、大きくしていたことに。
最終的には、次の動きを教えるような大ぶりな斬撃が続いて、彼は疑いを確信に変えたようだ。
そして彼がそれを口にした時の、呼吸の乱れを、俺の耳が聴き取った。
(とはいえ俺も、少しきつくなってきたな……)
「…………何のこと?」
知らぬ振りをして俺は大ぶりの、しかし今のより少しだけ小さい斬撃を、ユングの剣にぶつける。
今度は軌道を少しずつ小さくして、そして彼の刃の中央に衝撃を集中させていく。
そしてまた大ぶりな攻撃を一撃。
それから後ろに飛び退いて、今度は彼に向って真正面から突進して体勢を低くした。
ユングが振り下ろしてきたので、俺は上に振り上げて迎え打った。
狙い通り、ユングの剣は折れてしまった。
「なんじゃい!?」
ユングが動揺している隙に、後ろへ回る。振り向かれる前にユングの首を柄で叩く。
うまいこと、彼はその場に倒れてくれた。
負けるわけにはいかない、だけど絶対にユングを死なせたくなかった。
だからちょっとセコイが、天空王の剣の硬さと、ユングが相手選手の命を奪わないことを利用させてもらった。
「あっさり負けてんじゃねえよ、このクソガキがああ! もっと粘れやあ!!」
ユングに賭けていた連中の罵声と、ハズレ券が舞う。
一応リングアウトは避け、彼自身も戦闘不能にしたのに、血の流れない試合が相当、お気に召さなかったらしい。
俺にも「いい人ぶってんじゃねえ!」とかなんとか、罵詈雑言とゴミが飛んで来る。
俺はやっぱり、ここの大会も住民も、大嫌いだ。




