エンカウント/アルフィード《34-3賭け事(ギャンブル)と過失致死の解禁》
「勝者、アルフィード=エースペード!!」
審判の声が高らかに上がる。
喝采の声と、負けた選手への怒りの声が会場に響いた。
当然だ。
と言いたいところだけど。
こんなに大きな大会で拍手を浴びるのは初めてだ。なのでかなり、嬉しかったりする。
「ばかやろーっ!! ガキ相手に何やってんだ、金返せーっ!」
ハズレ券と、怒号が舞う。
実はこの大会、年齢指定のもと賭け事が許されている。
普段は法律で禁止されている賭け事が、こういう大会の日のみ解禁されるのだそうだ。
国民には開放日なのだけど、ギャンブルをしない俺としては、この状況は地獄のようだった。
罵声だけならまだいい。
観客の怒りが酒ビン等を投げるといった、有形で飛ばされた場合は、怪我をしてしまうじゃないか。
試合で負う怪我は甘んじて受け止めるにしても、空き瓶やバナナの皮を踏んですッ転ぶだなんて、御免被る。
そして単純に、汚い!
これからは別ブロックの試合なので、当分俺の出番はない。
観戦でもしながら待つかと、みんなのいる三階の観覧席へ向かう。
「さすがアルね、すごいわ!」
応援席に行くと顔を合わせるやいなや、セレフィナが席を立って喜びの声を上げてくれた。
会場の熱気のせいで、彼女まで頬が上気している。
「次、もう準決勝だね。兄ちゃんすごいじゃん!」
はしゃぐあまりに飛び立とうとするゴーフル。
そんな彼を、イルゼが肘で押さえつけていた。
「スゴイはスゴイんだけど……このチビ天使、どうにかなんない? さっきから歓声上げるたびに、飛んでこうとするんだよねえ。……何はともあれ、おめでと」
「いや、正直たいした相手じゃなかったし」
「もう勝ったも同然じゃん! やっほーい!」
ばたつかせているゴーフルの翼を隠すべく、イルゼと一緒になって、両手を広げて立ちふさがる。
翼が生えて飛ぶのは、「鳥人属の類だ」と言えば、何とかなるかもしれないが。
それよりも心配なのは、ハズレた奴に撃ち落されてしまうではないか……ということ。
「マクベスはいないの?」
「マクベスさんなら、当たり分の換金に行ったわ」
セレフィナが答えながら、廊下へのドアを視線で指す。
「不謹慎だなあ。人の生き死にがかかってる試合で、ギャンブルするなんて」
そうなのだ。
この闘技場での大会、お祭りイベントのくせに死人が出てもOKという、恐ろしいルールが設けられている。
他の日でもこの闘技場では、見世物としての処刑も行われているようで、死刑制度のなくなったトリフィラートでは、もはや考えられない。
「どしたどした!? チンタラしてんじぇねーぞ!!」
座るや否や、後ろの席で怒声をまき散らす輩どもの唾が飛んでくる。
彼らの懐具合なんてどうでもいい。
うるさい、汚い。それが全てだ。
仮にも王女様の誕生日イベントに、なんでこんなのが出入りしているのかが、いささか疑問だし不満だ。
上階の席で観戦している上流階級の客達は、文句を言わないのだろうか。「こんな奴らと同じ空間で、観戦したくない」と。
いや、だからでこそ、別フロアに彼ら用の席どころか、受付まで別々に設けられているのだろう。
同じことを思っていたのか、俺より先にイルゼが舌打ちした。
「うるさいねェ、唾飛ばすんじゃないよ。汚ないったらありゃしない」
「おぉ、なんだテメエ!?」
抗議した相手が女だからか、男は醜く顔を歪めて威圧的に迫る。
こういう連中と関わるとロクな事がないので、イルゼを止めようとした。
「金が欲しけりゃくれてやるわ!」
彼女はそう啖呵を切って何かを投げつけると、腕組みをして前に向き直った。
金と言っていたが、コインでも投げつけたのかな。
(こんな連中に。もったいない)
床に落ちたものを目で追っていた連中は一瞬硬直し「う、……あぁ!!」と、情けない悲鳴を上げて、タジタジと後ずさった。
すっかりお行儀よくなって、席に戻った男達への嫌悪感が声に滲まないように、床を確認する。
「何を投げ……、あ」
そこにあったのは、二つに曲げられた銅貨だった。
「こうなりたくなきゃ、静かにしてな」
低く小さな声だったが、イルゼの殺し文句が、はっきり聞こえた。
「す……すごいわね。後ろの人達、黙っちゃった」
怒られた連中につられて、セレフィナもたじろぐ。
俺なんかよりずっと男らしいと、つい感心してしまった。
「こういうの見てると、ホント腹立つね。そんなに金が欲しいなら、この時間も働けばいいのよ」
「はは、耳が痛いね」
いつの間にか戻っていたマクベスが、曲がったコインを拾い、男達に「はい」と渡した。
「え、聴いてたの!?」
イルゼの、さっきまでの男前な表情が一変する。
「そこのドアから入って来た時、ちょうどイルゼさんが、彼らに達にコイン投げてました」




