《33-2迎える人魚達》
「おお!」
私に気付くと嬉しそうな声を上げて、老人は駆け寄ってくる。
「よくぞご無事で……」
「いやいや、アンタ誰よ!?」
目の前の知らないお爺さんは、あたかも私を知っているかのようだ。
「お怪我は、ございませんか?」
「ありません。だから誰……」
もう一度尋ねようとしたところで彼の、鱗に覆われた尾ひれが目に入る。
(人……魚!?)
同じ種族を見たのは、母さんを除いて、これが初めてだった。
人魚なんて、おとぎ話の中の迷信だ。
村を出てからそういう説が定着しているのを知って、マーメイド人口の少なさを、思い知らされていたから。
そして老人の口からは、更に私を驚かせる言葉が出た。
「みんな、『セドナ様』が戻られたぞ!!」
老人が嬉しそうに叫ぶと、鎧の兵や、エプロン(?)のような布を巻いたふくよかな婦人など、大勢の人が召喚魔法のように、その場にフッと出現した。
いずれもみな、人魚の姿をしている時の私や、老人と同じ尾ひれがついている。
同時に冷たい石造りの遺跡は、ダンスホールを思わせる空間に変貌する。
「え!? な……何事!?」
歓迎の渦の中、私は混乱の渦にのまれた。
アンタら誰だ? どこから湧いてきた?
(もう何からつっこんだらいいか、分かんない!)
「ああ、よかった! セドナ様……ああ、よかった」
皆が口々に「セドナ様」の無事を喜んでいる。
「セドナって……」
確かに、さっきもそう呼ばれた。
盛り上がっている彼らには申し訳ないが、まず状況を整理させてもらいたい。
まず、私が「セドナ」でないことを明かした。
「えーと……違います!」
心底驚いた顔をされているが、構わず本名を告げ、人違いであることを強調した。
「私は『ミスティ』です。ただ、母の名前が『セドナ』と言います」
「し、失礼いたしました。あまりにそっくりでしたので。……ということは、貴方様はミスティお嬢様ですか。……大きくなられて」
老人のこの口ぶりから「セドナ様」は、母さんのことだ、というのは間違いではないらしかった。
「時にお母様は、お元気ですか?」
あまりされたくない質問だったが、正直に答える。
「……死にました」
みながざわつき、そして落胆の空気が、場を支配した。
嘘でも「元気です」と言えばよかったかと、少し後悔した。
本人がいないのであれば、いくらでも嘘のつきようはあるのに。
せめて本当の事は、言うべきではなかっただろう。
心配してくれている人達には不誠実ではあるだろうけど、あんな悲惨な真実を知らされたら、いらない悲しみと、人間に対する憎しみを植え付けるだけだ。
「事故で」
皮肉にも、村長達がついていた嘘を、私も口にした。
もう尋ねてはいけないような雰囲気を出すべく、暗い表情を心掛ける。
「ところで、おじいさん。ここはどんな場所なんですか? 私、迷い込んでしまって」
私が質問すると、老人は優しい口調で言った。
「ここはあなた様の、いるべき場所でございます」
それから周囲が真っ暗になり、周囲にいた人々が消えた。
水の流れは急激に早くなって、気を抜いたら流されそうになるほどに。
(苦しい……!)
あまりの水圧に息ができなくなり、体の自由がきかなくなって…………。
………………………………………………………………………………!!
「ん、んん!?」
目の前には、明るくなった空。
上に広がっている空を見て、私は「飛び起きた」。
「あ、あれ? なんで私……!?」
私は今の今まで、海底の神殿内部で、海底の住人と話をしていたはずだ。
当然横になってなどいないから「飛び起きる」という動作が、できるわけがない。
(私、瞬間移動でもしてたっていうの?)
私は瞬間移動の魔法は、使えないはず。
手の平にゴツゴツした感触があり、見てみると、神殿で見つけた指輪だった。
「……まさか、これのおかげ?」




