《32-3再会できた嬉しさと、少しの切なさ》
宿屋に出現した盗賊達、そしてその宿屋の主人は、衛兵に捕らえられ、縄を掛けられた。
衛兵隊長に紹介してもらった、都内の宿屋に移った私に、ベリオットはあの後の事について話してくれた。
「取り調べの結果、宿屋の主人は盗賊と通じていて、金を持っていそうな客を襲わせ、分け前をもらってたそうだ」
彼が今日ここに来たのは、結果の報告と、逮捕に貢献した謝礼の金一封を渡しに来た、との事。
「その取り調べも、『メルフ・コル』で?」
手の平一つ分サイズの、炎の魔法陣がついた湯沸かし台に、シルバープレートケトルを置きつつ尋ねる。
「そうだ。俺が頭そのものに命令すれば、嘘を考えることもできなくなる」
つくづくシンプルなのに、便利で、そしてすごく恐ろしい魔法である。
「私、お金持ってるように見えた?」
駐在に「お財布なんて持ってたの?」なんて、鼻で笑われた私が。
どうにも信じられず首をひねったが、問題は身なりではなかったと、彼の説明で判明する。
「そいつが言うには、『宿代を取り出した袋が、重そうに見えた』んだと」
普段使いのお金は目を付けられないように、あえて地味な袋に入れていたのに。
「どこでどうやって、目を付けられるか、分かったもんじゃないわね。この格好でも狙われるんだし、いっそボロい服でも着てた方がいいんじゃないかとすら思えてきたわ」
狙われないのはもはや、廉価着すら買えないような本当の貧民や、浮浪者だけではないだろうか。
そんな考えを吐露すると、ベリオットから忠告がされる。
「やめておけ。金持ちが盗賊とかがスリに狙われないよう、あえて貧乏な振りをすることも多い。あんまりみすぼらしい身なりをしてると、かえって狙われる。本当に金を持っていなかったにしても、本物の貧民の場合は裁判も起こせなければ、殺してその辺に埋めても、捜す奴すらいないからな」
「……超、怖いんですけど」
「それじゃあ、用事は終わったからもう行くぞ」
彼がいとまを告げたタイミングで、湯が沸いた。
「待って。お茶くらい飲んでいかない?」
数秒の沈黙に耐えられず、まるで言い訳のように、私はの口は訊かれてもいないことをまくし立てる。
「わざわざ来てくれたのと、あと宿屋移る時に、送ってくれたお礼。それとも早く帰らなきゃ、まずい?」
「用事は別にないが、あまり帰らないとメルの奴がうるさい」
メル?
さらっとベリオットの口から出された、女の人っぽい名前を耳が拾う。
「恋人? まさか奥さん? クリシュナ行った時とか、大丈夫だったの?」
ショックが声に出ないように気を付けながら、その「メル」との関係をさりげなく訊いてみる。
「いや、部屋付きのメイドだ。王宮の中に仮住まいがあるから、掃除とかを頼んでる。遅くなるとすぐ『働きすぎ』だとか『休め』とか言ってくる」
「ふーん、なんだかお母さんみたいね。どんな人? いくつくらい?」
「お前と同じくらい、だろうな」
奥さんや彼女ではないことに、一瞬でもホッとしたのは間違いだった。
「だが、茶の一杯くらいだったら」
ベリオットが帰った後、一人残された私はふと、ある事実に気が付く。
(私、一回も名前呼ばれたことないな……)




