↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
81/170

【第32話 ミスティ編:郊外にある宿屋の秘密】] 《32-1災難は終わらない》

(こわー……レオパルテでも、こんな所があるのね)


 レオパルテ王国は、人口や流通だけでなない。


 技術や武芸、芸術においても世界有数の国だと聞いていた。


 だけどこの都手前の街は、そんな華やかなイメージとは大きくかけ離れている。


 宿屋の布団に入って眠れぬまま過ごしていた夜明けに、押し寄せてきた盗賊達を見て、しみじみ先進国の陰の部分を感じる。


 疲れていたのに眠れなかったのは、虫の知らせだろう。


 いつもは荷物に入れてしまうか、ベッドサイドに置いておく銃を、今日は枕の下になんとなく、隠していたのも。


 歌声で眠らせ、珊瑚(さんご)の枷(かせ)で拘束した盗賊達を見下ろし、肩で息をした。


(宿屋の主人に……報告しなきゃ)


 部屋のドアノブについた鍵は、すでに開いている。彼らが侵入する時に、開けられたのだろう。


(ん?……待って)


 立て続けに酷い目に遭ったからか、もともと私の性格がひん曲がっているからなのか、ある「疑い」が私の中に浮上する。


(女の一人旅を狙ったのはいいとして。宿屋の主人が気付かなかったのも、ありえない話じゃない。だけども、どうも釈然(しゃくぜん)としないのよね)


 こんな夜中に申し訳ないが、銃を窓に向かってわざと撃ってみる。


 少し時間を置いて、外からパタパタと足音が向かってくる。


 部屋の外に出ると、主人は心配そうに私の俯いた顔を覗き込んだ。


「お客さん、大丈夫かい!?」


「盗賊に襲われました。通報してください!」


 面倒ごとがイヤなのか、主人は一瞬だけ顔を歪めた。


 しかしあえて、ここで必死に食い下がる。


「おねがいします。盗賊が『今もその辺をうろついている』と思うと、安心して眠れません!」


「……分かったよ、だけどこの街の駐在はヤル気ねえからなあ」


(やる気がないのは、あんたでしょ)


 口には出さないが、私はがっくり肩を落とした。


「仕方ありません、自分で行きます。ここの駐在が頼りにならないなら、近くの街の方へ」


 足早に「他の街へ」行こうとすると、素早く、痛いほどの力で腕を掴まれる。


「ま、待ってくれ!」


「よかったあ。一緒に行ってくれるんですね?」


 精一杯の感謝を声に込め、とびきりの笑顔を心掛けた。


 しぶしぶといった感じに主人は「女の子の一人歩きは危ない」と、ついてきた。


 私は待っているように言われたが「一人は怖い」と、押し通した。


「でもねえ駐在も、人が殺されないと動かんよ?」


 夜道を歩きながらも、主人は私に思いとどまらせるよう、ぶつぶつ言い続けた。


「なあ、お代は結構だし部屋も変えるよ?」


「嫌です。盗賊が『逃げた』のに、安心して眠れません。それともまさか、盗賊を庇(かば)ってるんですか?」


「そんなことはないさ!」


 一瞬だけ睨むように細められる主人の目は「チっ、面倒な女だ」と、今にも舌打ちが聞こえてきそうなほど嫌そう。


 それから一瞬の間を置き、彼は困った顔に戻った。


「……ただ、本音を言うと『盗賊に入られた宿屋』だなんて悪評が立ちそうで、あんまり騒ぎにはしたくないんだよ」


「『人が殺された宿屋』より、マシだと思いません?」


 私が畳みかけると、主人はピタッと足を止め、私も止まる。


 再び歩き出すが、なるべくゆっくり歩いて、彼の少し後ろの位置に落ち着いた。


「人から人に伝わっていく内に『主人が盗賊と繋がっていて、目をつけた客を殺させている』に変わっちゃうかもしれませんよ」


「お……俺を疑ってるのか!?」


「いいえ。私を襲って、何を盗(と)るんですか?」


 商人に服を恵んでもらった際に、私は質素なものを選んでいる。


 前払いの為にお金を取り出した入れ物も、ボロ袋は言わないが、かなり地味なものだ。


 その内に、駐在所に着く。


「はいはい、じゃあ盗られたものは?」


 さて主人の言っていた通り、駐在はほんとーに、ヤル気がなさそうだった。


 煙草をプカプカふかしながら、もう片手で被害届をつまんでヒラヒラさせている。


 宿屋の主人は「ほらな」と、独り言なのか私に聞こえるように言っているのか、小声で呟いている。


「お財布です」

 現に、枕元に置いてあった小銭入れを盗られている。


 銅貨と、貝殻を粉状にして固めた、貝貨(ばいか)が数枚を入っている程度だが、お財布はお財布だ。


「財布なんか持ってたの?」


 私をジロジロ見て、駐在はこれ見よがしな含み笑いをした。


「お財布持ってなかったら、どうやって宿取ったと思ってるんですか?」


 脳内に湧(わ)いた言葉が、口から漏れてしまった。


「ちゃんと扱ってくれよ。うちのお客さんだよ」


 主人は「なあ、帰ろう」と小声でしきりに言いながらも、一応口添えしてくれる。


「海賊に襲われて、次がこれか」


「あっはは、そいつは災難だったねえ」


 脈絡もなく海賊の話題が出て、駐在のオッサンは声を出して笑い始めた。


 口を滑らせて、昨日の事をこぼしてしまった、自分を殴りたい。


 あの世で聴取できるように、その海賊本人のもとへ送ってやろうかという考えが浮かんだが、なんでもない顔をし通す。


「ご主人、ところであんた盗賊を見たのかい?」


 駐在の質問に、宿屋の主人は「いいや」と、困ったように答えた。


 その返答に駐在はニヤニヤ笑いながら、煽(あお)るように言う。


「お嬢ちゃん、あんまり大人をからかって困らせるんだったら、君が逮捕されちゃうよ」


 もう私を完全に、嘘つき認定して追い返そうとしているらしい。


「だったら、一緒に来てください。証拠ならあります。荒らされた部屋はそのままです。『盗賊の一人が発砲した』ので、窓に穴も開いてます」


 証拠があるとは、本当に思っていなかったらしい。


「うーん、それはどうも。盗賊が一人じゃないんなら、衛兵どもの仕事だなあ。こんな凶悪な事件じゃあ、俺の手に余る。あいつらの方が、税金から給料がっぽりもらってんだし」


 嘘つき認定して追い返す、から、衛兵に押し付ける方向性に転じる。


 そこまでして仕事をしたくないんだ。


 ダイヤモンドのように固い意志に驚きつつも、それは願ったりかなったり。


 だってこの駐在では、期待はできない。


 一方宿屋の主人は「なら、任せたよ」と、そそくさ帰ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。