↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
77/164

《30-5愛玩奴隷の少女、リュネ》

「い……今の、聞こえた?」


 音が聞こえたのは、俺だけじゃなかったらしく、ゴーフルがしがみついてきた。


「誰か、いるの!?」

 セレフィナが部屋の中を見回し、音の主に話しかける。


「ここから聞こえたような気がするんですが」

 マクベスが立ち止ったのは本棚の前。


「どかしたら壁に何かあったり…………ダメだ、動かない」

 動かそうと試みたが、ビクともしない。 


 重いとかそういう問題ではなく、止め金具がくっついているわけでもないのに、本棚はそこに、固定されているようだった。


「ねえアル、本棚の周り見てみて。変な隙間があるわ」


 本棚の側面を見て、セレフィナが指摘した。


 ここで言う「隙間」は、壁の前に本棚を置いた時の、ごく当たり前の隙間じゃない。


 本棚の側板(がわいた)の縁(ふち)にだけ走る、均一な隙間。


「本棚が隠し扉になってたりしてな。ちょっと叩いてみよっか……あれっ!?」


 本棚の中を覗き込みながら、ゴーフルは両手で本を抜き取ると、またしても疑いが深まる点が出てくる。

「この本みんな、ハリボテだぜ」


 抜き取った本をゴーフルが俺達に見せ、マクベスがそれらを手に取る。


「フェイク本ですか。見せかけの本なんか並べてまで、何を隠そうとしてるんですかね?」


「じゃあ早速トントンっ……とね」

 ゴーフルのノックの音は妙に軽く、後ろに何も詰まっていないような、空洞を思わせた。


「奥に空間があるって事だな。問題は、どうやって開けるかだ」


 左右どっちを引っ張っても押しても、反応はない。


「どこかにスイッチでもあるのか? このフェイク本って、全部フェイクか?」


「全部抜いてみようぜ」


 ゴーフルと一緒になって、フェイクの本を片っ端から抜いていくと、抜けないものに当たる。


「これだけ抜けないな。もしかして……」

 その本は抜き取らず、逆に、グイッと押してみた。


 すると「カチッ」と何かが外れる音がして、本棚の右側がわずかに浮く。

「開いたぞ」


 部屋の中央にはリボンで飾られた、大きな鳥籠が鎮座(ちんざ)していた。


 中には一二~三歳くらいの女の子が入っている。


「えと……どちら様、ですか?」


 頭上についた三角の耳を、猫のようにパタパタさせ、少女は俺達を見上げた。


 鳥かごは大きいとは言っても、少女が立てるほどの高さはない。


 絶対に、軍人達の娘や妹のような身内ではないだろうが、籠の中の少女は外の囚人達と比べて、明らかに身ぎれいで、そこもまた異様だった。


 するとセレフィナが彼女を見て言う。

「この耳……獣性人(じゅうせいびと)ね」


「獣人じゃないの?」


 獣の特徴をした、人型の生物が存在しているのは知っている。


 しかし俺は(ちょっと違うかもしれないけど)「人魚」以外に遭遇した事はなかった。


「間違いではないけど、『獣人』っていうと、獣の特徴の方が多い種族の人達の事を指す場合が多いわね。薬や食べ物なんかで事故が起きないように、区別する必要があったから、『獣性人』って呼び名が出てきたの。逆に獣性人はこの子みたいに、人間の特徴が多いわ」


「あなた方はリュネの、ご主人様ですか?」

 女の子の名前は「リュネ」というらしい。


「違うよ。俺はアルフィード。こっちはセレフィナに、マクベス、ゴーフル。『ご主人様』っていうのは?」


「え……と、リュネがこれから暮らす、おうちの人です。リュネはご主人様の言うことをきいて、喜んでもらうのが、お仕事……です」


「なるほどね」

 マクベスが壁にくっついている小さな棚から、何か見つけたらしい。


「どうしたの?」


「これ、見て下さい。彼女の言動や、このおかしな状況の理由も説明がつきますよ」


 マクベスの持っている紙には「人材取引証書」と書かれていた。



商品名:リュネ 分類:愛玩(あいがん)用 性別:女 年齢:十三歳 種族:獣性人

性格評価:従順 愛嬌:優秀 健康状態:良好

価格:金貨三〇〇枚



 引き渡し予定日は、今日の日付が記載されている。


 言葉こそ「人材」と書かれているが、湧(わ)いてくるのは嫌悪感しかなかった。


 売る奴、そして愛玩用の少女を、好き好んで購入する奴に。


 ゴーフルは苦虫を嚙(か)み潰した顔で、腕組みをした。


「庭にいた連中は、この娘(こ)の存在を知らなかったのか。無理もねえ」


 もし彼が「建物の中を見て行こう」と、しきりにせがまなければ。


 この娘は誰も来ない部屋で、籠から出ることもできず、飢えて死ぬしかなかったと思うと、胸が痛い。


「ゴーフル、君の言うことをきいて、よかった」


 まさしく彼のお手柄である。


 ともあれ彼女に、残酷な事実を告げる。

「リュネ、といったね。この収容所には、もう誰もいないし誰も来ないよ」


「えっ!? 係の人が、『ご主人様が迎えに来るから、それまでここで大人しくしてるように』って」


「その係の人も、もういないんだ。こっちに寄って」


 俺が手で指示した方向に、リュネは寄って行った。


「死にたくなかったら、動かないで」


 空いたスペースに向かって剣を振り下ろす。


 外見重視で頑丈には作られていなかったのか、籠は比較的、簡単に斬ることができた。


「大丈夫? 切れた格子で怪我しないようにね」


 座りっぱなしでうまく立てないのだろう、ふらつく彼女の手を取って支える。


「この娘、どうする?」

 ここにはもう本当に誰も来ないだろうし、万が一「ご主人様」が来ても、ロクなことにはならないだろう。


 みんなに相談すると、セレフィナが案を出してくれる。


「まず一緒に、ルルディを出ましょう。レオパルテに着いたら、孤児院か神仕院(しんじいん)に連れて行く。それからトリフィラートに連絡して保護をお願いできたら、迎えに来てもらえるまで待たせてもらうで、いいと思うわ」


「お前ここ、出たい? アタイ達と一緒がイヤとか、どうしてもご主人様を待ちたいなら、無理は言わねえ」


 ゴーフルが彼女の意思を確認すると、彼女は戸惑っている。


「……えと。でも、勝手に出て行ったら、怒られるかも」


 リュネのこの言い方は、この場所に進んで残りたい、という様子ではなかった。


「リュネ、無理はしなくていい。でも、君がどうしたいかは、君が決めていいんだ」


「ついて行って、いいんですか?」


「ああ。その事で、誰かがリュネを怒っても、ちゃんと俺が、君を守るよ」

 そう約束すると、暗かったリュネの表情が、パッと明るくなる。


 安心してくれたようで何よりだ。


「ありがとう、セレフィナ」


「孤児院が見つかる保証も、トリフィラートが保護を承諾してくれるかも、まだ分からないわよ」


 しかし単なる一般人が同じことを提案するよりも、はるかに説得力も可能性もある。


 ルルディにいるよりは、ずっとマシであろう。


 部屋を出る時、気になっていた事を口に出した。

「ねえ、リュネは籠から出たりなんて、できなかったんだよね?」


「はい、できません」


「俺達、この部屋から誰かが隠し扉をノックする音を聞いて、君を見つけたんだ」


 リュネはキョトンと「?」を表情に浮かべるだけで、心当たりについては何もないようだった。


「……まさかね」

 不思議と、みんな同じことを考えているのが分かる。


「ハハハ、昔からの住人が新たなる犠牲者候補を助けたか。それとも自分達の領域から、新参者を追い出そうとしただけか。怪談に、思わぬ『続編』ができてしまいましたね」


 マクベスが笑いながら言った。


 昔からの怪談の真偽はともかく、この建物の使い道や、実際に犠牲者がいたことを考えると、シャレにならない。


 最後に調べるのは倉庫のような場所。


 下からは、ひんやりした空気が立ち上っている。


「ここは一段と、禍々しいね。見たらすぐに出ましょうか」


 階段の下を見下ろすマクベスの声は、珍しくこわばっている。


「……リュネ、怖いなら外で待っててもいいんだぞ?」


 リュネはというと、明らかに震えて怖がっている。


 なのに俺の背中にしがみついてまで、ついて来ている。


「一人になる方が、こわいです……」


 階段を下ると、鍵つきの扉がある。


 鍵を切って強引に開けると、二段ベッドのような小さな檻が、規則正しく並んでいた。


 電気技術ではあるものの、頼りない照明が廊下を不気味に照らしている。


 両側の壁の大半を構成する、鉄格子の向こうから、青白く透けた腕が伸びてきたとしても、決して不思議ではない。


 辺りから音がしないせいか、自分自身の唾(つば)を呑むときの音が、大きい気がした。


「あの扉、すっげえ不吉な感じすんな」

 ゴーフルが指すのは、奥にある重厚な鉄の扉。


「いやぁっ!!」

 開けた瞬間、セレフィナの悲鳴が、静かな中にこだました。


「げ」

 ゴーフルが一歩後ろに下がる。


 シャツの背中が引っ張られた。

「はわわわ……アルフィードさまぁ、怖いです!」


 宙吊(ちゅうづ)りの黄色い骨が何体か下がっているし、その下には本で見たような拷問器具や、それにかかった哀れな死体。壁は血でどす黒くなっている。


 暗い眼で死者が何か訴えて来る気さえするし、渇いた血の匂いまで錯覚できそう。


「……うわぁ」


 あまりの惨状に、口を大きく開いてしまう。


 引き返そうとマクベスが、扉の取っ手に手を掛けた。

「記録ができたなら、もう行きましょう、死者に同情するとろくな事がないですし」


 前庭に戻ると、ゴーフルは水晶をしまう。


 ただ俺にはちょっとだけ、心配事があった。


「水晶って、どのくらいの量を記憶できるんだ? 記録した内容が消えちゃったりとか、しないのか?」


 ゴーフルからの返答は

「無限に記録できるよ。消えちゃったことは、今んとこない。ただ、見たい映像がどんなのか自分で覚えてなきゃ、水晶も記録を引っ張り出すに出せないけどね」


「俺達が全員、記憶を失ったり死んでしまったら、水晶が残っていても無駄だということか」

「ま、でもリュネが生き残って、トリフィラートに保護されてくれるだけでも、帝国の非道の証拠にはなるんじゃね?」

 とゴーフル。


「さて。仕上げといきますか」


 門を出るなりマクベスは、館に向かって両手を構える。


「エクスプロージョン!」


 彼の詠唱とともに、館は全壊……とはさすがにいかないものの、大部分が破損し、作業所としては機能しないであろうと思われた。

「な、何するんだよ!?」


 俺が尋ねるとマクベスは「念のため」とニッコリ。


「建物そのものが残っていれば、また変な目的で使われるかもしれません。でもここまで壊せば、そんな輩(やから)はもう湧いてこないでしょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。