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《29-4殲滅(せんめつ)兵器と古代の王女 念願の死と残った未練》

 アミーと、おそらくリュドミラ王女は、肌や髪どころか衣服も色がなく、いかにも幽霊といった姿だ。


「アミー……?」

 さすがにスリザスが動揺を見せる。


「ゴーフル君、これは……」

 マクベスが言いかける。


「おうよ、人間って幽霊見える奴と見えない奴がいるだろ? だから誰にでも見えるように、存在感を上げてやったんだ。ほらよお前ら、人間どもにも見えるようにしてやったぞ。最後なんだから、言いたい放題ぶちまけな」


 ゴーフルが満足気に、彼女達に語りかける。


 二人は顔をチラと見合わせ、片方が淡々と言う。

「思わぬ所で、叶ってしまいました」


 見覚えのある様子から、こっちがアミーだろう。


「だな。喜んでいいのか」


 にわかには信じられないが、彼らのやり取りから察するに、アミーは本当は死ぬことを望んでいて、スリザスも知っていたのだろう。


 もう片方の、おそらくリュドミラ王女がニコニコしながら二人を眺めている。


「あーん、でもレオパルテ行きたかったぁ! 昔とちがって、今すっごく発展しておしゃれな街がいっぱいあるんでしょ?」


 外見年齢相応の無邪気さで、無念を訴えるリュドミラ王女。

 しかし外見はアミーなので、違和感が拭えない。


「……アミーちゃんと、かなり対照的ね」

 セレフィナが小声で言った。


「知ってたのか? レオパルテ行きのこと」


 スリザスの言葉に、アミーの方が頷く。


「はい。最後の夜に先生が、ミスティさんと話してるのを、聞いてしまいました」


「夜中に二人で楽しそうにおしゃべりしててさ。いい雰囲気だったよね? ミスティちゃんと先生」

 リュドミラ王女は楽しそうだが、冗談じゃない。


 こんなオッサン、しかも偏屈で口の悪いオッサンが相手なんて、大反対もいいとこである。


 俺と目が合った彼女はニヤニヤ笑って、煙草を吸う仕草の真似をしながら、わざとらしく言った。

「『それともなんだ、寝室までついて来るか?』」


 スリザスとアミーは、ぽかんとした表情で彼女を見つめている。


「リュドミラ、恋愛小説の見過ぎ。あなたが期待してるような感じじゃなかったわよ」


「冗談だよー。先生イケメンだけどオッサンだもん、しかも偏屈な。まぁでも、アミーも楽しんでたじゃない。楽しんでたって、小説の方ね、小説」


「あなたの性格の影響だけど」

 とアミー。


 しかしリュドミラ王女が「冗談」を言っている最中、スリザスが沈痛な面持ちで「そこまで聴いてたのか」と呟くのが聞こえていた。


「……気色悪い。そういう人だったんだね、見損なったよ」

 スリザスも酒場で猥談(わいだん)をする男達と、一緒だったというわけか。


 歴史の語り部だの研究者だの、彼の背負っている偉そうな肩書が、うすら寒く感じる。


「あはは。でもあたしの生きてた頃は全然普通だし、なんならまだマシな方だから許してあげて。あたしなんて、国王と親戚になりたい、いろんな年齢の大人……中にはそういうシュミの人とかが、求婚してきたよ。最高齢はなんと九六歳。でもあたしじゃなくて、王様である父様がモテモテなの」


 リュドミラ王女のませた、からかうような言動について、アミーが慌てたように頭を下げる。


「なんだか、もう一人の私……がすみません」


 みんなどう答えたいいか分からず困惑する中、同じ王族のセレフィナだけは、同情するように言う。


「利益の為に、小さな子でも平気で利用する、政略結婚の負の部分よね。……もしかしてリュドミラ王女の恋愛小説好きは、打算のない、純粋な恋愛に憧れたからじゃないかしら?」


「うんうん。現実はバラの似合う美少年に『君だけを見ている』だなんて言ってもらえるだなんて、夢のまた夢。もっと生きてられたら、そういう未来もあったかもだけど」

 リュドミラ王女は、少し悲しそうに微笑んだ。


 さっきからほとんど静かだったアミーが、今度は話し始めた。


「でも私も実は、楽しみだったんです。彼女と……先生とレオパルテに行くの。遠出なんて久しぶりだったし。一人じゃない旅なんて、初めてだったから」


 彼女の言う「旅」が一〇〇〇年の不老不死の旅のことだとすると、おかしい。


「君達は、ずっと一緒だったんじゃないの?」


 尋ねると、二人が顔を見合わせて難しい顔をする。


「うーん、そうなんだけど……なんて言ったらいいのかなぁ」


 答えようと懸命に言葉を探すリュドミラ王女。


「私、土で作られた魔兵器だったんです」

 アミーが自分の身の上を明かす。


「作り方は敵国の王の娘、つまりリュドミラの遺体を潰して、土に練り込んで作るというもの。そうすると、姿も声も、彼女瓜二つになるんです。私は生物ではないので、体が壊れない限り死にませんし、心もない……はずでした」


 アミーの視線が、リュドミラ王女にチラと泳ぐ。


「あたしは死んでも、魂も土の体に閉じ込められてた。だから、その影響で兵器だったはずのアミーに、心が生まれちゃったの。なんていうか……私たちは二人で一人の人格になったっていうか。それで今、土の体から解放されて、分離したってワケ。ちょっと説明ムズかしいけど」


「一〇〇〇年もずっと死ねなかったのに、どうして今になって」


 それも、楽しみにしていた旅の寸前に。


 無言になる二人を見て「訊くべきじゃ、なかったかな」と、後悔した。


「旅の支度をしてたら、明け方に海の方から歌声がしたの。とってもキレイで、優しい声」


 遠くを見るような目で、リュドミラ王女が言うと、アミーが続けた。


「聴き入っていたら、体にヒビが入って……だんだん砕けていって。それで」


 死の瞬間について語っているはずなのに、二人とも、表情はとても穏やかなのが奇妙だった。


 それにしても、歌声を聴いたら死ぬって。


「歌声が、経文や祈りと同じような作用をもたらす事もあるのね。聞いた事はあるけど」

 セレフィナが言う。


「彷徨える二人の魂は、図らずとも浄化されてしまった、というわけか」


「それじゃあ、私達はそろそろお暇(いとま)します」


 別れを告げるアミーに、スリザスはやはり変わらない様子で言った。


「達者でな」


「複雑ですね。望みが叶ったはずなのに。レオパルテ行きだけじゃない……もっと先生と研究もしたかった。ミスティさんとも、またいっしょにお料理したり、この時代の楽しい……こと、教えてもらったりしたかった。未練で、いっぱいです」


 今まで淡々と話していたアミーの言葉がたどたどしくなり、目からは涙が流れていた。


「とかいって案外、すぐに会えたりして。あたしたちのどっちかが、先生の子供にでも生まれ変わっちゃうとか」


 リュドミラ王女の言う「未来」は、ありえそうな気もするし、アミーを慰めているようにも聞こえる。


「お前さ、おっちゃんが結婚できるって、本気で思うか? たぶん友達すらいないのに」


 ゴーフルが王女の言葉を台無しにする一言をぶっこんだ。空気読め。


「そっかぁ、あたしたちが最期(さいご)を見届けるんじゃないかって思ってたけど。このままじゃ結婚どころか、孤独死一直線に……」


 ……さっきからリュドミラ王女を見ていて思うのだが、女版ゴーフル。


 アミーはクスっと笑いながら涙を拭く。


「来世はせめて、一五歳までは生きるわよ!」


 リュドミラ王女は、現代の感覚で聞けば縁起の悪い志(こころざし)を高らかに宣言(子供の内に死んでしまったのと、昔は今以上に、子供の生存率が低かった)した。


 彼女達二人は互いに手を取り、天へ昇って行った。

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