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《29-2剣にかけられた呪い》

「で、アンジェ……宰相(さいしょう)ギャラクス様のヤロウは、なんだって?」


 ゴーフルに急(せ)かされ、封を開く。


「武術大会?」

 端的に言えば「レオパルテで行われる、武道大会に出ろ」というもの。


 スター選手である「ルベオルス=カルマ」に勝利すれば、手配を解除するように、被害国に取りなしてやるという。


 大会の予定日を見て、セレフィナが呟く。

「この日付……王女の誕生日だわ」


「そうなの!?」


「ええ、トリフィラート王室でも、早くから贈り物を考えていたわ。私も同じ十代の女性だからって、選定に関わってたの。だから覚えてる」


 王女の誕生祭も、兼ねているのだろうか。


 コトン、と何かが置かれた音がして、一度手紙から目を離す。


 スリザスが用意してくれたらしい、お茶のカップを置いていた。


「で、なんて書いてあった?」


「……『手配を解いてほしかったら、レオパルテで開催する武道大会に出ろ』って」


「手配書を世界各地にばら撒いて、不特定多数の協力者を得ているんだろうな。正義という娯楽を得た連中は、こぞって居場所の情報を伝える。情報提供だけでも報酬が出るのであれば、もっと厄介だな」


 ハハハッと、何がおかしいのかスリザスが笑いながら、葉巻にしては細い煙草に火をつけた。


(何がおかしいんだ、このオッサンは)


 世話になっているはずなのに、やっぱりこの人は好きになれない。


「ところでアルさん、ちょっと剣を貸してもらえる?」


 マクベスに言われて剣を渡す。すると彼は、テーブルに剣を置いた。


「スリザスさん、この剣を見てもらえませんか?」


 そう言うと彼は鞘(さや)から剣を少し抜き、刃の部分でスリザスの視線が止まる。


「見てみろ」

 そしてスリザスは、刃が見える状態のまま、俺の方に差し出した。


 刃には、文字列がこう浮かんでいた。



「ルベオルスの前で力を示せ。さもなくば剣はいずれ、お前の命を吸い取る」



「鍛冶屋で確認した時はなかったのに」

 とゴーフル。


「これはただの武器を、魔剣に変える呪いだ。普通は予告なしに、持ち主を死に至らしめるはずなんだが」

 スリザスは言う。


「パッと見て、魔剣にはとうてい見えないわね。引き取った時は禍々しさなんて、全然なかったのに」


 浮き上がった文字列を覗き込むセレフィナ。


 不吉な予言のせいか、美しい剣の輝きが、本当に魂を吸いそうなほどに禍々しい。


 もう一度スリザスは剣を手に取る。


「あの鍛冶屋のオッチャンが、剣に何かしやがったのか?」


 ゴーフルが言うように、俺も店主を疑った。しかしスリザスがそれを否定した。


「いや、それはない。この呪いはスタンダードな人間であれ亜人種であれ、ヒトという生物の器にいる以上、使うことはできない。それに、あの店主が自分の客の武器に細工なんぞ、絶対にしない」


 生物的な根拠だけで終わっていないのが、スリザスらしくない。


 しかしこんな偏屈なオッサンに信頼されるとは、あの店主はよほど、自分の仕事に信念があるのだろう。


「じゃあ、これをやったのは」


 魔族。


 真っ先に思い浮かぶのは、シュットガイストの存在。


 スリザスは考えるように、眼鏡に手を当てる。


「シュットガイストかもしれんし、そうでもないかもしれん。他にも魔族を召し抱えている可能性もある。ただ、鍛冶屋の時点ではなかったんだろ? そしておそらく、持ち主が一定の条件を満たせば呪いが発動するようになっているんだろう。そしてその条件が、その手紙を読むことだろうな」


「おっちゃーん、質問!」

 ゴーフルが身を乗り出して手を挙げた。


「『ヒトという生物の器にいる以上、使うことはできない』って、なんでわかるの?」


「ヒト科に属する生物にできるのはせいぜい、そいつのキャパシティによってまちまちだが、限られた短い時間のみ、武器や防具といった物に魔法の力を宿らせるのが関の山だ。現在までの研究で証明されている。その短い一定時間というのが、本当に個人差があるが一時刻だったり半日だったり、多くても一日か。その一定時間を超えると、消費する魔力の量が、致死量の範囲を超えてしまうんだ」


 だから「ルベオルスと戦うまで」なんて何時刻どころか、何日何月かかるかも判らない期間、呪いをかけ続けることは不可能だと。


「ふーん……って、にっが! なんか前と違わない!?」

 ゴーフルがお茶を噴き出す。


「悪い。長いこと茶を淹れてなかったから、やり方を忘れたみたいだ」 


 スリザスの表情に一瞬だけ、影が落ちたように見えた。自分の淹れたお茶が不評だっただけで、ショックを受けた? まさか。


「前に出されたお茶は、アミーちゃんが淹(い)れてくれてたのよね。そういえば今日、彼女はいないんですか?」


 セレフィナが尋ねると、数秒間を空けて、答えが返ってくる。


「死んだよ」

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