【第29話 アルフィード編:武術大会の招待状】《29-1悪意だらけの手配書》
「あっ! お前さんたち」
鍛冶屋に入るやいなや、主人が山のような巨躯をこちらに向け、一つ目をパチッと開いて迎えた。
彼はサイクロプスだ。
「剣、取りに来ました」
無数に立てかけられた剣や槍などの武器は、城や軍事基地などで廃棄されたものを、この辺の鉱物などを使って、作り直しているという。
「ああ、待ってたぜ」
主人は、まあ見てくれとでも言いたそうに「一四」の番号札がついた、木の箱を出した。
プレゼントの箱を開けるように、店主は満足で頬を紅潮させている。
「ステキ、立派ね」
セレフィナが箱を覗き込む。
ゴーフルが剣を先に手に取って、天井に向かって翳す。
店主が得意になるのも無理はない。
俺の剣は見違えるほどに、美しくなっていた。
長く使った為に曇っていたりした刀身は、神器の力が宿ったせいなのか金色に輝き、刃の所々から小さな星がちりばめられているかのような、不思議な輝きが感じられた。
「柄がだいぶ傷んでたから、彫刻つきの立派なのに変えたよ。なにせスリザスさんの紹介だ」
子供の頃から慣れ親しんでいた剣が、生まれ変わった気分だ。
店を出てもゴーフルは、神器と呼ぶのにふさわしいその剣に、すっかり夢中で返してくれない。
「あのくたびれたしょっぱくて個性もない、ただのロングソードがこんな立派になるなんて。さっすが神器の力」
くたびれたしょっぱくて個性もない、ただのロングソードがもととはいえ、振り回されてはかなわないと、なかば強引に返してもらった。
スリザスの家に戻って、ドアをノックする。
「鍵は開いてる。勝手に入れ」
珍しくアミーではなく、家主本人の声。
ドアを開けるとスリザスが出迎え、中へ招き入れた。
「お前ら。海神王の神器はどうなった?」
怒られることを想定しながら、重い気持ちで結果を報告する。
「すまない、手に入れられなかった。見つけた時にはもう、箱の中身は空だったんだ」
「今回は、その方が良かったかもな」
思いも寄らない反応をスリザスが見せると、テーブルに四枚の紙が置かれた。
賞金首の手配書のようだが。その内容に俺は思わず、大きな声を上げてしまう。
「ちょっと待って!」
俺達の顔写真の下に、大量虐殺犯にもついていそうな金額の数字が、でかでかと記されているではないか。
「求む、遺跡荒らしの情報」
手配書には、その街の信仰の対象である神殿を荒らし、祀られているシンボルを盗んだ重罪人と書かれている。
手配書の内容に腹を立てたゴーフルが、中指を立てる。
「ナニが『黄色いモジャモジャ頭。見た目は一〇歳前後だが、憎たらしい顔はおそらく生まれ持ったもの。更生の可能性は絶望的」だよ!? 誰がこんなフザけた手配書書きやがった!?」
「怒るのそこ!?」
確かに俺も「美少年気取りな間抜け面の男」に対して、思う所はあるが。
もう一度手配書に目を落とすと、最後にこんな一文が添えられていた。
「『この備考欄は、情報提供者の証言をもとに作成されています』…………だと?」
これが手配書だなんてものの内容かと、目を疑った。
手配書作成の責任者、出てこい!!
「……私なんて『早死にしそう。きっとロクな死に方しない』よ」
セレフィナの説明文も、なかなかに酷い。
極めつけは「トリフィラート国のセレフィナ王女から、高貴さを抜き去った感じ」の一文。
文面からありありと伝わる悪意に皆が落ち込む中、マクベスだけは平然としている。
「まあ、地元住民の合意なしですしねえ。ただ……僕、そんなに顔から邪悪さが滲み出てますか、そうですか」
彼の手配書の備考欄には「取り繕ってはいるが、生来の邪悪さが滲み出ている顔面」だの「前科がない方がおかしい」だの「たぶん前世も悪人」「用が済んだら他の奴らを殺しそう」だの書かれている。
「しかしいつ、写真なんか撮られたんでしょうね?」
実に気味の悪い、マクベスの指摘。
「前の手配書を見た奴に話を聞いたことがあるが、『書いてあったのは、悪意ある特徴の書かれた備考欄だけで、名前と写真は載っていなかった』そうだ」
スリザスの今の言葉を「ん?」と思い返した。「前の手配書」?
自分の手配書を眺めながら、ゴーフルがぶつくさ呟く。
「大地神王の神殿に行った時、最初のが出たとすると……。もう新しい手配書が出てるとか。結構見られてんだね、オイラたち。誰も捕まえに来ないのが謎だけど」
捕まえに来られても困るが。
「こんなものが届いた。ついさっきだ」
そう言ってスリザスは、蝋の印で閉じられた封筒を差し出してきた。
宛名として書かれているのは、この住所の主ではなく、俺の名前だった。
「差出人を見てみろ」
切手の上には、レオパルテ王国の印が押されていた。
「え!?」
スリザスを除く、全員の声が重なる。
差出人は「レオパルテ宰相ギャラクス」。
「私達がここにまた来るのを、知ってたみたい。しかも届いたのは『ついさっき』って……」
セレフィナの反応で、彼女が俺と同じことを思ったのだと悟る。
俺達が来る日時まで正確に把握されていたのか、と。
それとも偶然か。そうであってほしい。




