《28-2招かれざる者の道》
さほど長くない廊下の向こうに、また扉。
その左手に、格子戸がある。
ゴーフルが正面の扉を開こうと、駆けていく。
それから押したり、横にスライドさせようと必死になって扉にかじりつくも、ビクともしないようだ。
「かーっ、チクショー! 開きゃあしねえ! おい石扉のくせに、何いっちょ前に『さびついてます』ってツラしてんだよ! えーい墓石ですら、たまに動く事あるっちゅーに!」
わけのわからないことを言いながら、彼は扉を蹴っ飛ばす……が、硬さによる報復を受けたようで、つま先を押さえて悶絶している。
一見ふざけているようだが、本人は至って真剣なのだろう。
「……プッ」
もう少し黙っていようと思ったが、噴き出してしまった。
さっきまで死にそうな状態だったから、緊張がほぐれたのもある。
「ぁン? なんだよ兄ちゃん、笑ってないで手伝ってよ! そーだ、その剣で切っちゃえ!」
「ゴーフル……これ、開かなくて当然だ。よく見て」
周囲の壁との間には、隙間がない。
正面扉と思ったものは、見せかけの扉。
つまりただの壁だ。
「あっ! みんな気づいてて、今まで黙ってやがったな!」
「ごめんなさい。だって楽しそ……可愛いから」
セレフィナが笑いながら言った。
マクベスも、肩がプルプル震えている。
「『墓石ですら、たまに動く』って……ゴーフル君は動いたの、見た事あるんですか?」
「何度もあるよ! 管理する奴のいなくなった墓地とかよぉ。ちょくちょく引導渡しに行くんだけど、そういうとこにいる亡者ってさあ、やたら自己主張強いんだよなあ……」
「だけどさっきまで、俺も扉だと思ってたよ」
この大きさといい、彫刻といい、今は行ってきた扉にそっくりだった。
「ほんっと、思わせぶりなデザインだよな。これ作った奴、バカじゃねえの」
「きっと、君や僕みたいな性格の職人が作ったんだろうね」
と、マクベス。
「マクベス兄ちゃんなら、ノッカーも丁寧につけるね。ライオンの頭とかの、無駄にゴーカなやつ。オイラだったら……そーだな『オープン』って看板でもつけとくか」
「こっちは開かないのかしら」
そう言いながら、セレフィナは格子戸の向こうを覗いている。
対面にあるのは壁だが、そこに差し込んでいる闇が、曲がり角の存在を教えていた。
「ちょっといい?」
セレフィナを下がらせて、剣を抜いた。
「およ? 兄ちゃん、剣に組みこんだのって、何でも斬れる方だったっけ?」
「いいや。斬る斬らないは、俺の意思次第さ」
剣を振り下ろすと、格子戸に切れ目が入る。
もう一閃くれてやると、金属の棒は落ち、通れるくらいの隙間ができた。
「でも、ゴーフル君が言う通り、何でも斬れる方は奪われてしまったはずでは?」
マクベスはこう言うが、今は別に、そっちでなくてもいい。
というか、神器である必要はない。
「それに忘れてるようだけど、これ、代りの剣だよ。使い慣れてくると、丈夫でいい剣だよね。これくらいの細さの鉄格子だったら、剣の強度さえあればお安い御用だ」
「アル、これ鉄じゃないわ。カヴキテスタ鋼よ」
セレフィナが鉄だと思っていた棒を拾い上げ、さすがに俺は驚いてしまった。
カヴキテスタといったら、錆びにくい上に、すごく硬い金属だ。
鎧に適しているが加工が難しく、鍛冶屋の腕が問われる金属でもある。
少し高いが潮の影響を受けにくいので、海が近い土地の兵士が好んで買う。
海近くの滞在に備えて鍛冶屋で買っておいた、自分の肩のプロテクターがそうだ。
「へえ。それで刃こぼれしないなんて、丈夫だなあ」
「兄ちゃんのことだから『亀?』とか『甲羅?』っていうと思った」
平静を装い……「バカにしやがって」となどもつゆほども思っていない、という体裁で、ゴーフルに答える。
「確かに、亀の甲羅にちなんでついた名前だからね。甲羅は亀にとっては、命を守る鎧だし」
かといって、亀の甲羅が鉄より硬いかは知らない。
あくまでこの名前は、とても丈夫なことのたとえだ。
格子の向こうに出てこちら側を向いたマクベスが、何かを見上げて言った。
「僕達が来た道は、侵入者用のトラップだったみたいですね」
俺も出て、彼と同じ場所を見る。
格子の上には「招かれざる者の道」と、彫られていた。
「それだけ、奥には大切なものが安置されているのね」
角を曲がるとまた、あの「扉に見せかけた壁」と同じデザインの扉があった。
確かめると今度は周囲に隙間があるので、ちゃんとした扉だ。
そこを出ると大聖堂に出た。
後ろ向きの祭壇と、そこには箱。
祭壇の向こう側には正しい入口だったのであろう、大きな扉が見えた。
祭壇の正面に回ると、今通って来た扉の他に、もう一つあった。
ゴーフルが必死に開けようとしていた、見せかけの扉の裏側だろう。遊び心なのか、意地が悪いのか。設計者の意図は知ることはできない。
さて、ゆっくり祭壇の上の箱を開けると、中の光景に声を上げた。
「あ、あれ?」
「どうしたのアル?」
俺の声に異常事態かと、祭壇の後ろから回り込んできたセレフィナに告げた。
「……ない」




