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【第27話 アルフィード編:ジュエル・ロードの果て】《27-1煌(きら)めきの化石》

 オルカントリードを出て、列車で二時刻弱。


 かつて旧アントスと戦った国……ノームランドの海辺に辿り着いた。


「この水平線の向こうが、アントス……今のルルディか」


 おとぎ話だと思っていたのに、実際に戦争が起こっていたとは。


「いえ、レオパルテになりますね」

 そう言ってマクベスは、俺に世界地図を見せた。


 確かにノームランドから見て、海峡の向こうの陸地部分は「レオパルテ」と書かれている。


「アントスって、ルルディの旧称じゃなかったの?」


「確かに、旧アントスの首都は今のルルディにありました。しかし当時アントスは、周辺の領土を取り込んでいて、レオパルテも取り込まれた国の一つだったんですよ」


 マクベスが地図の「レオパルテ」を指して、その指をスーッと真下に滑らせると「ルルディ」に辿り着く。


 レオパルテとルルディは隣国同士であるにも関わらず「仲が悪い」という噂も聞く。


 そういう背景があったからなのか。


「『滅びた民の無念を辿れ』」

 セレフィナが、自身の手にあるパピルス紙のメモを見て、例の言葉を呟く。


 しかしそれが記されているであろう紙は、スリザスの部屋で見た時よりも白いというか、新しく見えた。


 そう思っていたのは、ゴーフルもだったらしい。


「姉ちゃんの持ってる紙、そんなキレイだったっけ?」


「書き写させてもらったの。貴重な情報だから」


 この水平線の先に、地図にない……海底の王国がある。


 海の底は深く、得体の知れない恐ろしい場所だと思う。


 だけど、そんな非常識な場所にある、不思議な国へ行ってみたいという願望が、頭をもたげてくる。

「アルさん、どうしました?」


 マクベスに声を掛けられ、ハッとする。


「いや、海底にはまだまだ、いろんな謎が隠されてるんだなって。海底王国が本当かは別にして、少なくとも文明はあったみたいだし」


 少し離れた所で、作業着姿の男達がせっせと働いている。


 考古学者の指示で動くグループの、滑車(かっしゃ)で吊(つ)り上げられているもの。


 だいぶ腐食していまっているとはいえ、人の形をしたそれは、明らかな人工物だ。


「あれも、遺跡の発掘かな?」


 ゴーフルが指す先には、縞(しま)模様の崖がある。


 確かに男達の来ている作業着が同じものであるという所から、遺跡発掘と同じグループではあるだろう。


 でもやっている作業が、明らかに違う。


「あれは、あの縞模様の崖の中にある化石を、採掘しているんです」


 とマクベス。


「恐竜とかあるかな? 行ってみよーぜ!」


 化石という言葉が、ゴーフルの好奇心の琴線(きんせん)に、触れてしまったらしい。


 彼は走って、行ってしまった。


「あ、ちょっと待てよ」


 彼に追いつくと、早速感動の雄叫(おたけ)びを上げている。


「おーっ、すっげええ!」


「やれやれ、あんまり大きな声をあげるんじゃな…………おぉーっ、スゴい!!」


 ゴーフルから何か言いたそうに送られてくる視線を、気にするどころではない。


 異様な、しかしあまりの美しさに感嘆した。


 敷物の上に所狭しと並べられている化石は、どれも虹のような輝きを放っている。


「これ……みんな化石なのかしら?」

 セレフィナが、見惚(と)れるような視線を落とす。


 マクベスも初めて見たらしく、吸い寄せられるように近くに膝を下ろして眺めている。


「ごくたまに、化石の一部がオパール化したり、表面に真珠層がつく事があるのは、聞いた事があるけど」


 彼の話と近い現象が、この虹をまとったような海洋生物の骸(むくろ)にも、起こったのだろうか。


 敷物の上に転がる彼らは一部どころか、全てが宝石になっているかのように見える。


「コラ、何やってんだ!!」


 突然投げつけられた怒声に驚き、飛び上がってしまった。


 砂で汚れた作業服の男が、腕組みをしながらそこに立っていた。


 泥棒だと誤解されてはたまらないと、急いで頭を下げて見せる。


「ご……ゴメンなさい! こんなスゴイもの、初めて見たので……つい。なにせ内陸の、田舎から来たもので」


 しおらしい表情を作り、さりげなく彼らの「特別な仕事」を持ち上げる。


 すると思った通り男の顔色は、まんざらでもなさそうに変化する。


「そうだろう。だが、見つかるもの全てがオパール化するなんて、普通じゃ考えられねえ話だ。おそらく、『輝封石( シール・シャイン)の鉱脈』が、近くに埋まってるんだろうな」


「え!? この近くですか?」


「そうとも。輝封石( シール・シャイン)の魔力は『煌めきの中に魂を閉じ込める』って言われている。そんな石の鉱脈の傍では、宝石化した化石がよく見つかるんだよ」


 ここまで聴いて、俺はあることが気になって、作業員に尋ねた。

「輝封石( シール・シャイン)のそのものの発掘は……しないんですか?」


「無理だな。輝封石( シール・シャイン)は海底鉱脈だ。まず海底に潜ることが前提になる。今の技術じゃ、生きて戻れるかすら知れねえ。ごくたまに、長い事かけて岩が削れて、外れた原石が流れ着く事はあるけどよ。そんな時は金持ち連中が、こぞって宝石屋に押し寄せる」


 現場の指揮をしている学者風の男が、作業員を呼んでいる。


 彼が「またな」と仕事に戻っていったところで、ゴーフルが俺に話しかける。


「良かったなあー、あのオッちゃんが単純で。兄ちゃんの白々しい猫かぶりに、まんまとダマされてくれんだもん」


「失礼だな、俺は誠心誠意謝ったよ。やっぱり田舎者だからなんでも珍しくて、ついワクワクして、いろいろ訊いちゃったけどね。思わぬ収穫もあったし」


 セレフィナもマクベスも、ゴーフルも「収穫」の意味が解らないらしく、顔を見合わせていた。


「なー、まどろっこしい言い方してないで、教えてよ」


 ゴーフルが口を尖(とが)らせて、話の続きを急(せ)かす。


「『滅びた民の無念を辿れ』の意味だよ。あの宝石は『人魚の涙』って別名があるんだ」

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