《26-2船底の牢獄》
海賊男から鍵束と、そして包帯の入った袋を受け取る。
彼曰く、
「他の船を襲う時に、乗組員はなるべく殺さずに連れて行くんだよ。奴隷にして売れるからな」
……だそう。
片っ端から殺して金品や食料を奪うというイメージだったが。奴隷としてなら生かす選択肢もあるか。
「ふーん、監獄船みたい」
牢屋があるという点や囚人の過酷な運命は、監獄船と変わらないだろうけど。
「海賊団によっては船員にしちまうのもあるし、復讐防止の為とか……管理が面倒だって理由で、全員殺して海に沈めちまうトコもある。本当に船によって違うぜ。船長の性質次第ってのが、大きいんじゃないかな」
「『この船に乗る前は』って言ってたけど、アンタ元から、海賊じゃないの?」
「商船……とはいっても、今回襲ったのとは別の船だけど、操舵手見習いだった。だけど、船長とうまくいかなくて逃げたんだよ。で、酒場で『商船の乗組員やってた』って、マスターと話したてら、その場にいたこの船の船長……そん時は『元船乗り』って言ってたけど『俺もだよ! 毎日辛いよなあ』なんて気さくに声かけられて。酒をたらふく飲まされて、翌朝には縛られて船の上だったんだよ」
さて、房のあるという階へ下る。
各房からは、すすり泣き声がする。
一番近くにあった房を覗きながら、両手に鍵をこれ見よがしに掲げた。
「ここから出たい?」
「だ、誰だアンタ!?」
頭にターバンを巻いた、船乗りらしき小太りの男が、腫らした目を見開いて訊き返す。
房に入れられる時にやられたのか、肩の血の跡が、生々しく服に滲みを作っていた。
「出たいか訊いてんの。まずこっちの質問に答えて」
もう一度、鍵束を見せながら尋ねる。
ターバンの男は首を縦に振った。
意思を確認したところで、面倒にならない程度の嘘を交えつつ、私の要求する見返りを提示した。
「海賊達は、財宝や略奪品の取り分をめぐって自滅したわ。この船にさらわれて、雑用係をさせられてた奴が生き残ってる。彼に協力して、レオパルテに接岸したいんだけど。協力願してもらえるかしら?」
拒むのであれば出してはやらない。
そう言わんばかりに鍵束、そして救急袋から取り出した包帯を、話の間ちらつかせた。
ターバンの男は懇願するように、何度も首を縦に振った。
「……ただ、私は商船の所有者というだけで、操縦はできない。だが、出してくれたらお礼はしよう。操舵手も航海士も、使える人員は使ってくれ」
鍵を開けて、痛々しく血を流す肩の手当てをしてあげる。
長旅に備えているのか包帯や薬はたくさんあり、救急袋を床に下ろす時、重そうな音を立てた。
こちらの様子を伺っていた他の房の者も、先を争って、「俺も、俺も」と協力を申し出てくれる。
商船の乗組員達がみんな、上に登っていったところで、私も上がるかと階段へ向かう。
「待って、こっちもお願いできる?」
奥から誰か、女の人っぽい声が呼んだ。
「あれ? これで全部じゃ、なかったっけ?」
房という房から、我も我もと声が上がり、声の上がる房の鍵を片っ端から開けた……つもりだった。
踵を返して一番後ろの房を覗くと、確かに、房の奥に誰か寝そべっていた。
「ゴメン。いっぱい開けたから、どこ開けたか開けてないか、分かんなくなってたわ」
穴に鍵を差し込んで、格子を開ける。
「悪いけどこの枷、取ってくれない?」
目を凝らすと人影は、両手両足に枷をはめられ、拘束されていた。
鍵束の中の、牢屋のものよりひと回り以上小さな鍵を、枷の鍵穴に挿し込む。枷が外れると彼女は起き上がり、解放された手足を伸ばす。
照明の下に出てきた彼女は、きれいな女性……には違いない。
だけど、赤いトサカのように立った髪に、パッチリかつ鋭い、意思を通すようにキリっとした目と、とても「ハンサム」だった。
女性にこういうのも変だけど、一番しっくりくる。
ただ、後ろに結ばれた二本の三つ編みが可愛い。
「殺したの? 上の連中」
この質問から、彼女が私の嘘を見抜いていたと分かった。
「……そうしなきゃ、殺されるからね」
打撲になっている顔を冷やそうと、氷の塊を出す。それから布を巻いて、彼女の頬に当てた。
「驚いたね、アンタ魔法使い?」
「ううん、魔法使いって呼ばれる人達ほど、たくさんの魔法は使えないわ」
彼女のズボンの、右足首の所が破れて、血が出ていた。
傷口から、銃弾のおしりが覗いている。
「足、撃たれてんのね……痛そー。ん?」
めくらせてもらうと、別の傷らしき赤い部分が見えた。
もう少しめくらせてもらうと、いびつな縫合痕がある。
「それは……船に乗る前の傷だから、心配しないで」
触れてはいけない部分なのだろう。
ピンセットで弾を抜いて、止血し包帯を巻く。
「大変だったわね。あ、私はミスティ。あなたは?」
「イルゼヒルト。イルゼって呼んで」




