↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
60/170

《25-3永い夜の半ばを過ぎて》

「じゃああの子、スリザスさんに出会うまで、一〇〇〇年近くも彷徨ってたんですね」


「長い孤独の中で、死ぬことを目的に旅をし、今に至る。今ここで落ち着いているが、魔導師のそばで研究に関わっていれば情報も集まって来るし、最先端の魔法も早く知ることができる。いずれはどんな生物にでも効く安楽死用の魔法を、彼女が作り出す日が、来るんじゃないかな」


 スリザスさんの淡々とした口調が少し淋し気なのは、先入観のせいだろうか。


「死ぬ方法を探して旅、ねえ。私の勝手な感想だけど、あの子、今は死ぬ気なくなってたりして……ってちょっと思うんですけど」


「どうしてそう言える?」


「だってこの世には、願いを叶える悪魔のシュットガイスト一族だっているし、大地神王の神殿には、本当に大地神王本人もいるんですよ。十何年しか生きてない私ですら、両方に接触してるんだから」


「大地神王は知らんが、魔族との契約の末路は悲惨だ。選択肢になかったんじゃないのか?」


「私、この間までシュットガイストと契約してました。対価払い終わったら、それきりですよ。レオパルテに帰っちゃった」


「その話は、本当か? 死後に悲惨な末路でも、待ってるんじゃないか?」


「でも私の場合、やった事がやった事だから、地獄行きは免れないんですケドね。でも契約者に不利益になる事項は、必ず契約書に書かないといけないって、向こうにも掟があるみたいで『伝え漏れがあるとマズイ』みたいなことは言ってました。願いが『楽に死なせて』だったとして、対価が要るにしたって一〇〇〇年分の知識や経験なら、願いの代償としては充分だと思いますけど」


 その「漏れがあるとまずい」自体が嘘だったら……と突っ込まれたら、もう何も言えないけども。


「大地神王だって、神殿はそんな遠くないし、アミーちゃんみたいな可哀想な魔兵器の頼み断りますかね? まー何が言いたいかって、とっくに死ぬ方法は見つかってそうだけど、生きる糧っていうか理由みたいなものが、心のどこかにあったんじゃないんですか? その中にスリザスさんは、確実に含まれてる気がする……ていうより、大部分じゃないですか?」


「シュットガイストは『レオパルテに帰った』と、そう言ったな?」


 確認するように、スリザスさんはこう言ってきた。そういえば無意識に、口に出てしまっていた。


「表向きは、宰相(さいしょう)の護衛です」


「なるほど、レオパルテに行くのは兄捜しだけが目的では、ないみたいだな」

 急に図星を突かれて、ドキッとした。


 食事の時に旅の目的話はしたが、兄捜しの話しか、していなかったはずだ……と、あの時の自分の言葉を振り返る。


「どうして分かるんですか?」


「顔に書いてある」


 顔? ベリオットの話の時、どんな顔をしていたんだと、熱くなる顔を今更ながら手で隠す。


「うん。もう一度、会いたい」


 どう取り繕っても無駄だし、何よりこの人に嘘はつけない気がする。


「ひとつ、提案があるんだが」


「何ですか?」


「レオパルテまで、送らせてくれないか? 俺と、アミーに」


「え? いいんですか? 嬉しい」


 女の一人旅は色々物騒だし、私としては願ったりかなったりである。


「とはいっても明日、アミーにも確認して、彼女が行きたいと言えばだけどな。さて、もう寝るか」


 スリザスさんが立ち上がる。


「そうね。でも目が冴(さ)えちゃって。どうしよう」


「眠れないのなら、散歩でもしてきたらどうだ? 裏庭の道は、海岸へ続いている。家の周辺には結界が張ってある。海岸もその範囲内だ」


「どうしようかな」


「それともなんだ、寝室までついて来るか?」

 うら若い少女になんてことを言うんだ、このオッチャンは。


「高くつきますよ?」


「冗談だ。子供に興味なんぞないよ」


「私も冗談ですよ」


 裏へ回ると一本道がある。歩いていくと、本当に海に出た。


「本当だ、近い」


 こんな夜中では誰もいないだろうと、スカートの紐(ひも)を緩めた。


 裾に手をかけ、もう一度誰もいないことを確認して裸になった。


 何だか久しぶりに全てから解放された気分になって、そのまま海に飛び込んだ。


 調子に乗った私は、久しぶりにとヒレも尻尾も、遠慮なく出す。


「冷たくて気持ちいい。ストレス溜まってたから」


 水の中は、地上と違って自由だった。


 夜なのに、月明かりだけで底が充分に見える。この青く光る景色を懐かしく感じるのは、本能だろうかと、さっきまで足だった尾ひれに問いかける。


 沖の岩場に座って、満天の星空と、たゆたう波の黒い輝きを見ていたら、歌が口を突いて出た。



 夜空に星が輝く お月さまも微笑む ママの優しい歌声が 心地よく包み込む


 眠りにつくまで ママがそばにいるよ 夢の中で一緒に遊ぼう 安らかな眠りを与える


 ふわふわの雲の上で ねんねする小さな君 ママの愛が溢れて やさしく包んであげる


 眠りにつくまで ママがそばにいるよ 夢の中で一緒に遊ぼう 安らかな眠りを与える


 星が輝く夜空の中で ママの愛が広がる


 ふたりで過ごすこの時間は いつまでも大切な宝物


 眠りにつくまで ママがそばにいるよ 夢の中で一緒に遊ぼう 安らかな眠りを与える



 生きてた頃の母さんが歌ってくれた歌。


 私が村役人の連中を拘束する為に歌った歌。


 名前は星空……がついていたのは覚えているが、その先は思い出せない。


 結構長い題名だったなと考えていると、不意に辺りが暗くなった。


 さっきまで晴れていたのにと思って見上げると、巨大な船がそこにいる。


 この尾ひれではまずいと海に潜ったが、間に合わなかった。


 降って来た巨大な網が、私を引き上げてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。