《24-3初めて知る、母親以外の家族》
「え? は!?」
今の言葉で混乱しながら、何度も交互に甲冑と、神殿の主を見た。
絶対にできないと思っていた父との対面という状況と、私の父親が、この甲冑を来たゾンビだという事実についていけない。
「本来は地獄の独房行きの予定じゃった。だが、罪が少しばかり軽くなって、この刑に服しておる」
「なんでですか?」
「お前達がいたからさ」
主は……おそらく大地神王は答えた。
「シルバは竜性人という、その名の通り竜の性質を持った人種でな。天賦の強さに驕り高ぶり、無用な殺生を繰り返した。しかしお前の母と出会って悔い改めたのだ。そして死に際は、お前達をかばって死んだのじゃ。毒と油をまき散らしながら沈没する船の、下敷きになってな」
神殿の主しか、さっきからしゃべっていないが、この父だというシルバは言葉が話せないのだろうか。
甲冑の体が震えているのか、小刻みな金属音が鳴った。差し出されたガントレットの握りこぶしから、金のチェーンが垂れているのが見えた。
「よいのか、シルバ?」
大地神王が問うも、父の拳は差し出されたままだ。受け取ったそれは、ペンダントだった。
平たい装飾部分の割れ目を開いてみると、泣けるほど懐かしい顔がそこにあった。
赤ちゃんを抱いた肖像の女性は、間違いなく母さんだ。
「似てるって、よく言われたけど」
客観的に見るまでは実感がなかったし、髪の色が少し薄く眉毛も薄いが、目鼻や唇といった大まかなパーツは、確かに私に受け継がれている。
その隣に並ぶ、こう言うのもなんだがギャラクスさんにも劣らない、美しい赤眼に白髪の男。
その男の腕に抱かれている赤ちゃんは、たぶん私だろう。
しかし赤ちゃんは、私だけではなく、もう一人。
母さんに抱っこされている方の子は、髪と眼の色を父から継いでいる。
「知らなかっただろう。お前に双子の兄がいたなど。名前はルビー、そしてお前の本当の名は、サファイア」
私の兄の存在と、本名を明かした大地神王は、訥々と話した。
以下は大地神王の話した内容である。
竜性人シルバと、人魚の娘セドナ。
二人の間に生まれた双子の名前は、男の子はルビー、女の子はサファイアと決まった。
名前の由来は、瞳の色からでもあるが、対照的でありながらも同等の輝きを持っているという意味で、二つの鋼玉の名を取ったのだった。
しかし生まれて間もなくルビーは病で死に、悲しみにくれたセドナは精神を患ってしまう。
「……ルビー、死んじゃったんですか?」
「生まれてすぐに、心臓の病で死んだはずだ」
大地神王は続けた。
日々やつれていくセドナを心配したシルバは、記憶を消す方法を探し求め、記憶を消す魔法薬を手に入れることに成功した。セドナからルビーに関する記憶を秘薬で消し、思い出させる要素がないか、彼は徹底的に気を配った。
万が一連想が働かないようにと、妹の名も全くの無関係な「ミスティ」に変えた。
「だが」
大地神王の言い方は、ややもったいぶったものに変わる。
「シルバが一人で墓を訪れた時、ルビーの遺体は掘り返され、消えていたそうだ」
ここで話は終わった。
「死体、どこ行ったのかしら?」
「副葬品と共になくなっていたそうだから、盗まれたのではないか。いずれにしろ、シルバはセドナに知れぬよう、遺体を捜して回ったそうだが、見つからなかったらしい。……あるいは」
「あるいは?」
「生への未練や恨みのせいで、遺体そのものが、蘇ってしまうということもあり得なくはない」
まだ物心つく頃でなくとも、生きている以上生存本能はある。
まだ赤ちゃんなのに死んでしまったのでは、無念も無念だろう。
「ふうん、じゃあ生き返って、どこかで暮らしてる可能性も、なくはないんだ」
「あまりにも低い可能性だがの」
ふと、ベリオットとした会話の一部が、思い出された。
私の言った「無辜」を「婿」と勘違いして、私の男だという、とんでもない勘違いに発展してしまったあの時の。
「……ところで私、男に見える?」
「知り合いに、お前みたいな顔の男ならいる」
「……ウソでしょ!?」
その「知り合い」が、兄である可能性はそんなに高くはないだろう。
けど、会ってみる価値はありそうだ。
いずれにせよ、今の私の生きる目的としては、ちょうどいい。
日数はするが航路一本で行ける。
次の目的地が定まったところで、気になっていた別の話について、尋ねてみる。
「そういえば、サラバールの街で聞いたんですけど。遺跡荒らしの被害に遭ったそうですね」
「遺跡荒らしだと?」
驚いたことに大地神王は「被害を受けた」認識はなさそうだった。
ではアル達が泥棒だという話は、間違いか別人だったのかとホッとする。
「はい。じつは」
表で手配されている遺跡荒らしの犯人が、自分の友人かもしれない。
もちろん無実だと思っているが、どうしてこんな事になっているか、心当たりはないかとの旨を尋ねる。
「確かに持ち出した者はおる。しかし儂は、許可を与えた」
「うーん、『神様からの許可あります』って言っても、誰も信じないんじゃないですか? 地元の人にとては、大事な宝なんだし」
大方、ここに通う熱心な信者が神器がなくなったのに気付いて、慌ててハンターズ・ギルドに手配を頼んだのか。
父と大地神王に、最後のあいさつをして神殿を出る。
最寄りの港への道を急いだ。




