《24-2地下神殿の番人》
列車は国境の標識を通り過ぎ、いよいよ「レガリア」に入国する。
さて、サラバールへの最短経路は聖都マルアーク経由なのだが、マルアークは変な伝染病で……私がクリシュナに行っていた時期に、滅んでしまっている。
だから利用する路線を変えたりして、だいぶゆっくりな旅になった。
途中で寄った街の駅にある売店で買った、新聞の大見出しは「プリムスコロナ帝国兵、駐留先で強盗」とある。
なんでも新兵の集団が、駐留している現地の店に押し入って金品を強奪したそう。
ついこの前帝国は、世界各地での治安の乱れの修正や、暴走した魔物の駆除に乗り出すべく、各国に基地を置いている。
当初の問題であった現地人の犯罪や魔物の襲撃は減ったものの、今度は帝国兵達が強盗やらなんやらを働くという、新たな問題が発生しているとの事。
隅々まで目を通したものの、今のところはこの間の村での事件どころか、エルバ村の名前すら、どこにも見当たらなかった。
「やっと着いた」
乗せてもらった輸送馬車の中から、大きな滝が見えた。
「時計の下のとこまでなら、展望台として自由に登れるよ」
監視台として設けられているという時計塔を指して、モフモフした髭の御者が教えてくれる。
「ありがと、おじさん」
お礼のお金を渡し、サラバールの街に降りた。
早速教えてもらった通り時計塔の展望部分に登り、双眼鏡で見渡してみる。
それらしき建物はない。
ふと、この街のシンボルでもある滝の上を見る。
「あれが、例の神殿?」
アーチの規則正しく並んだ美しい建造物を見て、つい疑った。
かといって門からはみんな水が出ていて、出入り口らしきものはないし。
地元の人にでも訊いてみるかと、さっさと階段を駆け下りた。
まさかこんな軽装の小娘を、遺跡荒らしと思う人はいるまい。
しかし名所の建造物や自然を荒らすという理由で、現地の人は、観光客を良く思っていない場合も多いと聞いた事があったので、ちょっとばかり勇気がいる。
(酒場で酔っぱらいにでも、喋らせるのがいいかも)
ハンターズ・ギルドの前を通ると掲示板に「求む、遺跡荒らしの情報」と書いてあるのを見つけた。
詳しく読むと、大地神王の神殿、別名「ティフェレット・エメト殿」に安置されている宝が、何者かによって盗まれた……という。
容疑者の目撃情報を見ると「ヘーゼルブラウンの髪が特徴の、一五~二〇歳くらい。一見美少年だが間抜けな顔」。
「シスター姿で眼鏡を掛けた女。トリフィラート国のセレフィナ王女に死相を足した感じ。一四から二十五歳くらい」。
「青い髪で長身。占い師を自称しながら銃を提げている。おそらく主犯。前科がありそう。あるに違いない」。
「金髪のスパゲティヘア。外見年齢は一〇歳前後と子供のような見た目だが、何故か更生可能な時期はとっくに過ぎているような気がしてしまう」。
どこかで見たような特徴(そしてちょくちょく、ディスられている)の四人だが、「捕らえた者には賞金を与える」の表記がある。
「こんにちは。表の貼り紙、見たんだけど」
賞金稼ぎだと嘘をつき(クリシュナでしていたのは人間相手の訓練。あくまで賞金は副産物)、件の神殿について訊くことに成功した。
「えーっと、サウスタウンの門から南西」
教えてもらった通りの場所へ行き、滝の裏側の洞穴を覗くと、神像が並んでいるのが見えた。
そして奥、「神像達の、崇める視線の先」……地元住民はこう言っていたが、そこには聖壇がある。
「だけど神像達、もう祭壇向いてるじゃない」
彼らが言うには、向かい合っている神像達を動かして、祭壇を崇めているような構図を作る。
そうすると、祭壇の後ろの床が開き、地下神殿への階段が現れるそうだ。
しかし私が入った時にはもう、神像達の視線は祭壇に向いていたのだ。
「ここが例の、神殿だと思ってよさそうね。地元の人に話聴けて良かった」
お城のような建物を想像していたから、情報なしでは見つけられないわけである。
この入り口も暗い上に、前には大きな滝だからなおさら目立たない。
聖壇に飾られた花などの植物は、信者達が供えているのだろう。
祭壇裏に地下へ続く道が、ぽっかり口を開けていた。
一歩足を踏み入れると、急に明るくなり、ランプが要らなくなる。
「いったいどこから!?」
光源を探して見渡すと、燭台に火が灯っていた。
誰かが点けたのかと思うのが普通だが、ここには私以外誰もいない。隠れられるような場所も見当たらない。
「……まさか罠とか、ないよわよね?」
まるで招き入れるような感じが、すごく怪しい。
信者のために入りやすく整備されているとも取れるけど、警戒はするに越したことはない。
私は信者じゃないから、神様がいたとて、救ってはもらえないだろうから。
階段を下がりきると、高い天井に彫刻の柱。ステンドグラスの薔薇窓のような模様が、岩の壁に彫られている。
さしずめ地下の大聖堂、といったところだろう。
「素敵」
あまりの美しさに呆けて、警戒を忘れた。
だから自分に注がれた視線や、異臭に気が付くのが遅れてしまった。
「……ナニ、この臭い!?」
鼻を押さえてえづきながら、臭いのもとはなんだと見回す。
大きな柱の陰に立っている甲冑が目に留まった。
腐ったような匂いは、そこからのようだった。
(あんなの……さっきあったっけ?)
アンデッド系の魔物かもしれないと、銃口を離さずに近付いてみる。
臭いを放つヘルムの隙間から、うねりのある長い白髪がはみ出ている。
一定の間合いは保ったつもりだったが、強烈な吐き気に襲われて、取るべき距離を見誤ったと悔やむ。
(この中身は……死体?)
甲冑を着たままの死体を立たせたのは、誰だ。
よほど気の狂った奴が、ここには潜んでいるのかとゾッとした。
「悲しむでない、シルバ」
髪と髭を巻いた、おじいさんがそこにいた。
甲冑の中身の名前は「シルバ」と言うらしい。
この人は普通じゃない。
そう直感して、体が動かなくなる。私の緊張を察してなのか、彼は優しく微笑んだ。
「よく来たな。セドナの娘」
ここでも、母さんの名前が出た。
「似ているから、一目で判ったよ」
そしてやわらかい動作で、私の構えた銃が下ろされる。
「あの、あなたは? なぜ母を知っているんですか?」
「儂はこの神殿の主。そしてこの番人の名は、シルバ。セドナの夫……お前の父親じゃ」




