エンカウント/アルフィード《23-3最低な切り札》
部屋に入ると、ミスティはベッドに座っていた。
「そのことで、あいつが話があるんだそうだ」
横に立っていたシュットガイストが、俺の方に向くように、彼女に言った。
俺はやや緊張しながら、ミスティのもとにゆっくり歩いていく。
「ミスティ、大丈夫?」
「うん」
痛かっただろう。
返事はするものの、目も合わせてくれない。
本当は俺となんて、口もききたくないかもしれない。
「……まずは、乱暴してゴメン。でも君に殺しなんか、させたくなかった」
ミスティは人形のように動かない。
「交渉は、自分でする」
シュットガイストに告げると「そうか」とだけ返って来る。
俺の目を見ようとしないミスティに向かって、語りかける。
「当たり前だけど、許せないよな? 村長達のこと」
ミスティは否定はしないが、頷きもしない。
「だけど、殺さないでほしい」
今まで動かなかったミスティが、素早くこっちに首を動かした。
布団は握りしめられ、たくさんの皺を作っている。
「嘘つき……!」
鋭く細められた目が怒りを物語っているのに対して、口調はとても冷静だ。
だけどやっぱり声音からは、決して許してくれないという含みを感じる。
「何があっても私の味方だって、いつも言ってたくせに。やっぱり……いざとなったら手の平返すんだ」
「話を聴け」
ここでゆっくり息を吸い、暴れないように彼女の両手首を掴む。
「それなら俺が、殺してやる」
彼女の目が一瞬だけ、見開かれた。
嘘じゃない。
事情を知っても、やはりこの娘を犯罪者になんてしたくない。では、どうするか。俺が実行すればいい。
「村長もその息子も……役人共も。君が望むなら、誰であろうと殺す」
「アル!」
ドアの方を見ると、セレフィナが腰に手を当てて立っている。
「……セレフィナ」
「やっぱり。よくないこと、考えてた。だからさっき、村長さんや、その家族を見てたのね?」
「家族って? ロバートのことかい?」
そんなことしたっけと、記憶を巻き戻してみる。
マクベスの「最低でも村長の死」という言葉の後で、視界の中に、ロバートやその家族の映像があった。
無意識の目の動きを、見られていたらしい。
女性は勘が鋭いとは、本当だ。
芽生えかけの殺意ですら、素早く相手の仕草などから拾ってしまう。
「セレフィナ王女様、ですよね? 先ほどは、申し訳ありませんでした」
ミスティが一国の王女に対して、礼儀正しく頭を下げる。
さっきまで暴れていた彼女が、しおらしい態度を取るのに戸惑ったらしい。
セレフィナは困ったようにたじろぎ、優しい口調で慰めるように語り掛けた。
「ううん、怒りはもっともだと思うわ。それに、私達を傷つけないように、気を配ってたのも、みんな解ってた」
「でも、安心してください。私だって、アルには頼まない。絶対に、逃がそうとするだろうし、殺してくれたとしても、苦しまないように手心加えるのが目に見えてます。こんな言い方もなんですが、一緒にいた青い髪の男の人に、お金でも払ってやってもらった方が確実だと思います」
青い髪の男の人って、マクベスのことか。
俺はここでも役立たずかと、落胆した。
「分かった……復讐はやめる」
ミスティの顔を正視する。
俺が次の言葉を発する前に、彼女は言った。
「やめない限り、アルは余計な事するだろうから、それは私も困る。アルにはずっと、お世話になってた……こんなんでも、恩は感じてるの。だから私の為に犯罪者には、なって欲しくないのよね。王女様にしたって、イヤでしょ。法廷で彼に不利な証言するの」
「いい子だ」
本当に嬉しくて、ミスティの頭を撫でた。
話がまとまり、シュットガイストに向き直る。
「さて、交渉成立だ。契約書を書くよ」
シュットガイストから紙とペンが差し出された。
保証の内容は「ミスティが村の者を殺そうとすれば、必ず邪魔が入る」というもの。
「こいつが今の約束を破れないように、この書面で保証する」
シュットガイストが契約の概要を言うと、ミスティも、契約書の文面を読んでサインをした。
最後の文字を書き終わるまで、しっかり見届ける。
悪魔との契約なんて、一時はどうなるかと思った。
もちろんこれで、きれいに解決だなんて思ってはいない。それでもミスティが手を血に染めて、セドナおばさんを更に悲しませる事態が避けられたのは、素直に喜んでいいだろう。
「アル、私は先に出てるわね」
セレフィナがドアに手を掛ける。
「ああ、俺も長くはならないと思うよ」
ホッとしたところで、さっきから気になっていたことを彼女に尋ねた。
「ところでその服、どうしたの?」




