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エンカウント/ミスティ《21-3村長の嘘が、死刑の合図》

「村長!」

 バンおじさんが神に祈るように、塔の上の腕木を仰いだ。 


 この男の家族は彼自身と美しい妻、そして母親に似た、可愛らしい一人娘の三人。


 彼が自分を含めた家族全員を助けるには……。


「冗談じゃない! あんたの女房、子供を助けたら半分使っちまうだろ!」


 他にも希望者が、家族の為の声を張り上げた。


「俺だって、おふくろに、妻もいる。子供が三人もいるんだ!」

「私だって、兄が捕らわれている!」


 家族の為の戦いが、檻の中で始まった。


 みな救いがたいほどの馬鹿で、家族想いだ。


「ミスティ、貴様……いったいお前は、何が目的なんだ!?」


 檻の外の、つまり今まで傍観(ぼうかん)していた村人の一人が、私を睨(ね)めつけ非難した。


 それを皮切りに、声高な文句の嵐が泣き声に交じって起こる。


「人質を取って、卑怯だぞ!!」


「バケモノ母娘め! 恩を仇で返すなんて恥を知れ!!」


 外の連中が、鍬(くわ)や鋤(すき)を取り始めた。


 持っている武器の大半が農具とはいえ、この数はさすがにまずい。


 誰かが前進の合図をする前に、急いで私の手は銃を取り、一人の足元を狙って撃った。


 眼窩(がんか)が引きちぎれんばかりに目を剥いた、先頭の男のズボンがみっともなく濡れる。


 最初に声を上げた勇気ある姿も、今では最低の体(てい)たらく。


 いけない、私は争いに来たんじゃない。


 ただ本当の事を、みんなに知ってもらいたいだけなのだ。


「説明をしてなかったわね、ゴメンなさい。私は村長に、みんなの前で『ある話』をしてもらいたいの。全てを嘘偽りなく話してさえくれれば、私は四人と言わず……人質を全員解放して投降するわ。たとえその後、死刑になろうともね」


 村長は無言で、顔をそむけている。


「あのコ、何がしたいんだ?」


 アルの周辺で、誰かがが舌打ちしたり、何か言っているのが耳に入った。


 それでも村長が、臆面もなく私の目の前で「被害者老人の顔」をしている光景に比べれば、そこまで苛立たなかった。


「ただし」


 静かになったところで、もう二つ、条件を言い足す。


「村長が一つ嘘をつくたびに、繋いでいる人質を一人ずつ殺していくわ。あと『四人まで』の意味だけど、村長が手か足の一つを差し出せば、何も話さなくても、一人解放してあげる。これで四人でしょ」


(手と足は、二本ずつしかないものね!)


 意地の悪い勘定をしつつ、枷の鍵の束をこれ見よがしにポケットから出した。


 皆の視線が集まる中、村長は……


「許してくれ! あの日魔物どもに『セドナを差し出せば、村には手を出さない』と脅されて」


 この期に及んで、白状しなかった!


 それでも、アルにとってはショックな話だったらしい。


「おばさんは事故で……って、村長達は……言っていたのに」


 村長をいい人だと信じ切っていた彼は、泣き出しそうな声を絞(しぼ)り出す。


 自分が何かされたわけでもないのに。村長の裏表の顔がどうだろうが、彼には関係ないのに。


 絞(し)め殺される寸前の鶏のような、あまりにも悲壮な様子に、私が彼に同情してしまう。


 しかし次の瞬間、アルはおもむろに剣に手を添えて、村長を、それから檻の中に捕らえた役人達を見据(す)えていた。


「兄ちゃん、暴れんじゃない!!」


 小天使と青い髪の男が、二人がかりで彼に組み付いて阻止していた。


 彼らも悟っていたみたいだ。あの一瞬の視線で、アルが村長と役人達に、殺意を向けていたことに。


「え? マクベス!? ゴーフル!?」


 しかも当の本人は、今のを無意識でやっていたらしく、自覚がまるでないようだ。


「自覚なかったんですか? 今にも君、ここにいる連中を皆殺しにしそうな顔、してましたよ」


 青い髪の男の声のトーンが、半ば呆れている。


「アル、いいかげんにして!」


 ここでセレフィナ王女似の、彼女の叱責(しっせき)が飛ばされる。


 怒られたアルを含め、男三人は硬直して彼女を見つめている。


 アルの注意が自分に向いたところで、彼女は私を指して言う。


「あなたのやろうとしている事は、彼女を罪人にする手助けでしかないわ」


 私はもう、罪人じゃないのか?


「もしあなたがこの中の誰かを殺して裁判に掛けられて、私が証人として法廷に立つことになったら、『彼女の意思を汲んだ上での犯行だった』って、私は思ったことを証言するわよ。アル、知っているとは思うけど、大きな事件の裁判は王都でやるの。トリフィラートの司法は、あなたの証言と私の証言、どちらを重用するかしら!?」


 この台詞で確信した。


 彼女は王女に似ているんじゃなくて、王女本人だ。


(昔からいろんなところで女を引き寄せてたけど、ついには王族まで、たらし込んだようね)


 そんなどうでもいい事はさておき。


「残念ながら村長、今さっそく嘘をついたから、まず一人殺すわね」


 中の役人達が暴れて、ガタガタと檻が揺れる。


 塔から降り、最初に殺す人間を選ぶ……と言っては語弊(ごへい)がある。


 最初に殺すのは、もう決まっている。


 バンおじさんの目をじっと見た後、私は彼の妻と娘に視線を移した。


 彼は察したのか、格子を掴みながら私に憎しみをぶつけてくる。


「やめろ、やめてくれ!」


 私を睨むその瞳はまるで、自分は他人の家族を奪った経験などない、清廉潔白(せいれんけっぱく)な人間だと、心から信じているかのよう。


「いやぁーっ!!」


 娘の悲鳴が響き渡り、彼の妻は絶望で下を向く。


「あ……あなた」


 見た目のインパクトは、弾痕よりも首の断面だろうと判断した私は、いったん銃をしまい、剣を抜いた。


 実際に苦しめる必要はなくて、バンおじさんに見せつけるのが重要なのだから。


 絵面だけは、悲惨な方がいい。


「ごめんね、リエル。なるべく苦しまないように、努力するわ」


「……やめて、ミスティちゃん」


 彼女に恨みはないだけに、泣いて命乞いをされると、少しだけ心が揺れた。


「……っ」


「躊躇(ためら)うなら俺がやろうか? そいつは悪人でもなければ、恨みもないんだろう。そんな人間を殺したらまた、クリシュナにいた時みたいに、体調不良になるんじゃないのか?」


 私の躊躇を見抜いたらしいベリオットが、殺人の代理を申し出る。


「俺は剣は得意でないが、手で首をちぎるくらいならできる」


 その時だった。

 飛び出してきたアルが、ベリオットに斬りかかろうとした。


 すんでのところで私の剣は、彼の刃を受け止める。


 アルが助けに入ったことにより、リエルの瞳から、宝石のような涙がポロポロこぼれ落ちた。


「……ベリオット、ありがとう。でも、ミイラを飲まされるのは、あれきりでいいわ」


「ミスティ……君がこんなこと、しちゃダメだ。こんなんじゃあ……セドナおばさんだって、浮かばれないよ」


 正論と剣をふるう貴公子然とした彼の姿に、うすら寒さを感じるのは、私の根性が曲がっているからだろうか。


 反面、リエルが死んでいない事にほっとしてしまった自分もいた。


 彼の視線が一瞬だけ、私を通り過ぎる。


 私の背後にいる存在を、確認したのだと悟った。


 いるのはおそらく、アルと一緒にいた三人の内の誰か……


(しまった!)


 目の前にアルがいる状態で、後ろを確認することもできずにいると、後ろから短い叫びが三人分、聞こえた。


「後ろから来てたぞ」


 ベリオットが言う。振り返ると思った通り、アルの連れが三人とも地面に転げていた。

[……なんかゴメン、いろいろ中途半端で」


「身も心も、魔族になった方がよかったんじゃないのか?」


 ここでもこの言葉がよぎる「後悔先に立たず」。


「村長……お願いです、本当の事を言いましょう!!」


 他の役人の、檻の中から泣き叫ぶ声が飛び出した。


 しかし呆れたことに村長は、それでも口を貝のように閉ざし続けている。


「村長! あなたと……そして役人達は、彼女に一体何をしたんですか!?」


 塔に繋いだ人質達の一人が咆哮(ほうこう)し、それを皮切りに「助けて!」と口々に悲鳴が上がる。


 ついに村長が白状した。


「許してくれ! 一〇年前の事件、魔物達が村を襲った原因と、セドナは関係ない!! 生贄を承諾させるために、罪を被せたんじゃ!」

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