エンカウント/アルフィード《21-2醜い『被害者』達》
「村長!」
バンおじさんは村長に懇願するように叫んだ。
しかし「四人まで」とすでに聞いてしまった他の役人達は、怒りの矛先をバンおじさんに向けた。
「冗談じゃない! あんたの女房、子供を助けたら半分使っちまうだろ!」
「俺だって! おふくろに、妻もいる。子供が三人もいるんだ!」
「私だって、兄が捕らわれている!」
檻の中で、誰かが近くの者を殴り、つかみ合って互いに辞退を迫るという、醜い蹴落とし合いが始まった。
ミスティはせせら笑うでもなく、ただただ無表情で眺めている。
殴り合いの渦中にない外野の誰かが、彼女に対して抗議の声を上げた。
「ミスティ、貴様……いったいお前は、何が目的なんだ!?」
一人の声に勇気づけられたのか、みな後に続いて口々に罵倒した。
「人質を取って、卑怯だぞ!!」
「バケモノ母娘め! 恩を仇で返すなんて恥を知れ!!」
目をそむけたくなる光景だ。
単にミスティが責められているから、ではない。
彼女の行為はお世辞にも、ほめられた事ではない。
けれど女の子一人に意見するのに、大勢でしかできない大人達の様子も、耳と目が汚れてしまいそうなほどに醜い。
周囲は熱気を帯びていくが、俺自身の背中には、ザワッと悪寒が走る。
「まずいわよ、アル。このままだと彼女……」
セレフィナが耳打ちをする間に、外野の人々が鍬や鋤を高く掲げ、戦う態勢に入ってしまった。
(ミスティが、殺されてしまう……!!)
身内や仲間が殺されてしまう危機に瀕した彼らを斬りたくはないが、やむを得ない。
剣を抜くと同時に、爆音が響いた。
ミスティの構える銃口から、煙が上がっている。
今しがたまで先頭に立ち、鋤を振りかざした男は、失禁していた。その足元には弾の痕。
あれだけの熱気が、一気に冷えていく。
「説明をしてなかったわね、ゴメンなさい。私は村長に、みんなの前で『ある話』をしてもらいたいの。全てを嘘偽りなく話してさえくれれば、私は四人と言わず……人質を全員解放して投降するわ。たとえその後、死刑になろうともね」
村長が、顔をそむけている。
こんなに大掛かりで、残酷な事をしたにも関わらず、村長が何かの「話」をするだけで、全員無事に返す。しかも自分は降伏すると言う。
「あのコ、何がしたいんだ?」
ゴーフルが舌打ち混じりに訝しむと、マクベスが言った。
「もしかして彼女の母親の死について、村長さんは、村人達も知らない事実を知っているんじゃないかと」
だとしたら、何を隠しているのか?
村長はまだ口を閉ざしたままだ。
「ただし」
するとミスティは、まだ言い終わっていなかったのか、それともしびれを切らしたのか、更に条件を追加した。
「村長が一つ嘘をつくたびに、繋いでいる人質を一人ずつ殺していく。あと『四人まで』の意味だけど、村長が手足の一つを差し出せば、何も話さなくても、一人解放してあげる。これで四人でしょ」
さっきゴーフルの言った「セドナおばさんを助けてくれなかった恨み」という仮説が正しいとして。
だから村長にとって都合の悪い「本当のこと」を言わなければ……つまり今度は役人やその家族を「見殺し」にさせ続け、村全体の仲をこじれさせる。
そこまで考えても、なかなか腑に落ちない。
説明を終えるとミスティはスカートのポケットに手をつっこみ、鍵束を取り出した。
おそらく、塔に繋がれている人の、枷の鍵だ。
皆の視線が集まる中、村長は白状した
「許してくれ! あの日魔物どもに『セドナを差し出せば、村には手を出さない』と脅されて」
血の気がサッ、と引くのを感じた。
つまり自分達が助かる為に、セドナおばさんを差し出した、と。
「おばさんは事故で……って、村長達は……言っていたのに」
彼女の死因が、事故なのか魔物なのかが、問題なのではない。
彼女を殺したも同然のくせに、あたかも彼女の死に対して、無関係を決め込んでいた事。
それなのに、その娘を引き取って育ての親の顔をしていたのか。
「兄ちゃん、暴れんじゃない!!」
マクベスとゴーフルが、ガッチリと、二人がかりで俺を羽交い絞めにしていた。
「え? マクベス!? ゴーフル!?」
「自覚、なかったんですか? 今にも君、ここにいる連中を皆殺しにしそうな顔、してましたよ」
マクベスが、呆れたように言った。
「アル、いいかげんにして!」
セレフィナの冷たい声。
「あなたのやろうとしている事は、彼女を罪人にする手助けでしかないわ」
その彼女の手を汚すくらいなら、かわりに俺がやる。
しかしそれを言う前に、セレフィナは見透かしたようにこう続けた。
「もしあなたがこの中の誰かを殺して裁判に掛けられて、私が証人として法廷に立つことになったら、『彼女の意思を汲んだ上での犯行だった』って、私は思ったことを証言するわよ。アル、知っているとは思うけど、大きな事件の裁判は王都でやるの。トリフィラートの司法は、あなたの証言と私の証言、どちらを重用するかしら!?」
やり場のない殺意を抑えようと、必死に気を静めている最中、ミスティが言った。
「残念ながら村長、今さっそく嘘をついたから、まず一人殺すわね」
ミスティの放った「殺す」という言葉を合図に、檻がガタガタと激しく鳴る。
そんな音なんて聞こえていないかのように、彼女は塔から地面に飛び降りた。
※pixiv版完結済み。pixivは総括アカウントにつき「サラダゴリラのシーザー」名義になっております。
【第21~23話:《三大神王の神器》】
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