《20-3異国の剣士と、田舎の芋剣士》
全てを絞り出した絶叫を女王が上げて目の前で弾け、俺は血肉の雨を受ける。
血を拭いつつ目を開けると、彼女は首だけの状態で目を見開き、舌を口から垂らしている。
輪切りになった胴体からは、血と一緒に、輪切りになったハラワタが流れていた。
血を浴びてとっさに目を閉じる間際、怪鳥の女王は、何かに振り向いたように見えた。
「こんな鳥公なんぞに、後れを取るのか」
ロックの死骸の山から声がした。
屍を踏み越えてこちらに来たその姿に、言葉が詰まる。
ストレートの銀髪という髪型と色のせいで一瞬判らなかったが、顔がミスティと似ていた。
似ている以上に、瓜二つだ。
上空の鳥達が、上から降り注ぐ。
リーダーを失って統率がなくなるどころか、みなで女王の仇を討ちにかかってきたのだ。
「チっ、逆上したか」
聞き間違いではない。
顔はミスティだけど、声は明らかに男のものだ。
彼は両手に持った二本の剣でロックの群れを迎えると、横に薙ぎ払って跳ね飛ばすように斬っていく。鳥達は抵抗する間もなく、首や半身を切り落とされている。
ゴミのように、鳥達は落ちていく。
辺りが静かになった頃、鳥の死体が山のように堆く積まれた。
「あの……あなたがレオパルテの剣士、さんですか?」
セレフィナが尋ねると、そいつはたった今火を点けた煙草を咥えたまま「そうだ」とだけ答えた。
「お前がエースペードだな? 違うか?」
「そうだけど」
俺のことを、知っているようだった。しかしこの口ぶりは、やっぱりミスティではない。
ゴーフルが冗談半分に指摘していた「姿形が変わっている(ムッキムキの異形ではなくても)」可能性を考えたのだが。
「村一番の剣士? ユング=ロックハートと互角かそれ以上? とんだ評判倒れだ。所詮田舎の芋剣士か」
彼は俺に侮蔑と失望を含んだ眼差しだけ置いて、宿屋ではない方面に去っていこうとする。
「どこ行くんだ」
「お前がこの程度なら、ユングとやらの実力も知れた。もうこんな村に、用はない」
シュットガイストの時の屈辱が蘇る。何も言い返せないのが、すごく悔しい。
しかしこれだけは言わせてもらう。
「あの太ったやつは、ユングじゃな……」
「言われんでも知ってる。あんな肉塊、どこの武術大会も、会場の敷地に入ろうとした時点でギャベジボックス行きだ」
奴は振り返る事無く去っていった。
「すごい、強かったわね」
棒読みの口調でセレフィナが、彼の行ってしまった方を見ながら呆然としている。
「そうですね。詠唱の時間など無駄だとばかりに、僕の周囲のロックを斬り捨てていきました」
所詮田舎の芋剣士。
あの言葉が頭を震撼させる。
この巣箱のように狭い田舎で、武器を玉突き棒がわりにして遊んでいるような不真面目な子供ばかりの門下生達の中で、得意がっていた自分の、なんと痛いこと。
村一番という、少し前まで誇らしかった言葉が、安物の腐った木の板で作った粗末な看板のごとく崩れた。
(巣箱の鳥は、外の、しかも百戦錬磨の猛獣に出くわしたら、即ひねり殺されるのが当たり前じゃないか)
「アル、そんなに落ち込まないで」
セレフィナからの優しい声が、かえって辛い。もうやめてくれ。
「はっはっは、心配しないでよ。芋は落ち込むなんて高度な作業はしないさ」
村一番だのおだてられて、その気になって。
いいや、今回の事は大いに反省せねばならない。
俺がふがいないせいで、せっかく世界に飛び立ったユングの名前まで、汚してしまったのだ。
挽回しなければ、俺は一生ユングの親友を名乗るどころか、再会もできないだろう。
「頑張れ俺、村一番だったじゃないか。豚もおだてりゃ木に登るって!」
自分で言っていて、吹き出しそうになるくらい、おかしかった。
いつの間にか何もせずに、俺は飼い鳥から芋に落ち、芋から豚へ昇格してしまった。
みんな気味悪そうに俺を見ているが、どうでもいい。
「ところであれなに?」
ゴーフルが指すのは、テレグラフ塔。
塔の上の腕木が、動いている。
嵐や地震などが収まった後にする、決まった動きだ。
「連絡用の塔だよ。あの腕木の折れ方で、メッセージを伝えるんだ。あれは『もう安全』ていう意味だよ」
「とりあえずさあ、もう寝ない? 疲れちゃった。まだ夜だよ」
大きくゴーフルはあくびした。




