《19-3余談、旅の剣士》
「旅人がいるのかい? 珍しいな」
なにせこの村は、地元の人以外は通ることもない。
よそからの人といったら、ごくたまに近隣村の猟師が、遅くなったからといって宿屋や親戚の家に泊まるくらいだ。
あとは復興作業のために、ゼーンズフトの街から通ってきているという職人達か。
ロバートの姿が完全に見えなくなると、他の連中も寄って来る。
「そうなんだよ。なんでも、レオパルテ王国ってデカイ国の剣士らしいんだけど、ユングと勝負したくて来たんだって。でも入れ違いになっちゃったんだよ」
やっぱり珍しい旅人には、みんな興味があるらしい。
ロバートがいなくなってから話が盛り上がりを見せたのは、やっぱりあの「勲章」の話題から逸れると機嫌を悪くするのを避けたかったのだろう。
「でも結構若いのよ。私達と、そう変わらないんじゃないかしら」
女の子達は頬を紅潮させながら「異国の剣士」について熱く語る。
「中性的な美少年、っていったらいいの? 銀の長い髪がキレイなのよねえ」
「『異国の剣士』。なんてステキな響きなの。あーあ、ずっといてくれないかしら」
彼女達の言う容姿などへの反応から、絵本の王子様のような外見を想像した。
「ロバートの機嫌が悪かったのは、そのせいでもあるんだよ」
ヨハンが遠慮のない呆れ顔で、ロバートの帰っていった道を一瞥した。
「なんだよ? その騎士にケンカでも売ったとか?」
「それがさ、その騎士がユングを探してるって聞いて、みんなで見に行ったんだ。そしたらロバートの奴
『俺がユングだ』って名乗っちゃってさ」
それでばれたか、コテンパンにやられた、というオチが見えた。
いい気味な気もするけど、ユングの名を騙って醜態を晒すのだけはいただけない。
「そしたらその騎士、なんて言ったと思う? 『名声に浮かれてブクブク太る奴なんぞ、勝負する価値もない!』だってさ」
オチを聞いて吹き出してしまった。
……しかし、ロバートがいなくなってからの、ヨハンのこの饒舌ぶりは。
「だけどアルと対面したら、満足よりも嫉妬しちゃうかもね。あの外国の騎士」
リエルがうふふっと、可愛く笑った。
門下生の男達は「なんて可愛いんだ」という顔で見惚れ「俺もこんな言葉掛けられたい」と、羨望の眼差しを送ってくる。
「お邪魔なようだし、先に行ってるわね」
セレフィナがぷいっと、そっぽを向いて足早に離れていく。
「だから、何怒ってるんだよ?」
「あーあ、疲れちゃった」
目と鼻の先の宿屋へ、スタスタと歩いていくセレフィナ。
リエルはきょとん、と小鳥のように小首を傾げ、門下生達が肘でつついてくる。
助けを求める気持ちでマクベスとゴーフルに目配せをしたが、「しょうがないな」という含みのある笑みが、返ってきただけで終わった。




