【第19話 アルフィード編:復興されつつあるエルバ村】《19-1泣けそうなほど懐かしい風景》
列車の窓の外が、見覚えのあるに景色になってくる。
「なんだかすっげー、久しぶりに感じんなあ。気のせいだろーけど」
ゴーフルが窓から頭を出す。
危ないので引っ込め、ボックス席の向かいに押し込めた。
「そんな事ないさ、俺もすごく懐かしいよ」
窓を閉めたところで、ユングとよく行った川が過ぎていった。
「またいつか、釣りしたいな……」
「いいわね、私もやってみたい」
セレフィナの言葉で、独り言が漏れていたのに気付く。
その次は隣村の田園地帯のあった場所。
草花がたくさん自生していた、野原のあった場所……。
大半がもう焼け野原で、あの懐かしい面影は俺の記憶の中にしかない。
「もうそろそろだな」
本を膝に乗せたまま眠っているマクベスの肩を、叩こうとした時だ。
「間もなく『西カントリード区域』『西カントリード区域』」
車掌が拡声器を片手に告げ、列車の速度が落ちていく。
ちなみに「西カントリード」とは、この地方の西域を指す。
言いやすさのせいで「オルカントリード」という呼び方が定着しているが、正確には「カントリード地方、全域」のことを言うのだ。
立ち上がると、普段のよりもやや重い代剣が、ベルトを強く引っ張った。
「やっぱりしっくりこないな。次、鍛冶屋に行くまでの我慢だけど」
神器との合成だなんて無理を言ったのだから、文句は言えない。
降りた頃には、もう赤くなった空に日が沈みかけていた。「西カントリード区域」という名前の無人駅に、もう今日は、列車は来ない。
「長かった。すっかり……夜ですね」
まだ眠そうなマクベスが、伸びをしながら言う。
「村に宿屋があるから、今日はそこに泊まろう」
「いきなり行って、部屋は空いてるかしら」
不安げなセレフィナだったが、その心配は無用だ。
「空きどころか、いつも閑古鳥が鳴いてるよ」
道場の帰りに大浴場で汗を流しに来る門下生達が、主な収入源といってもいいくらい。
村の門をくぐると、目の前の光景に驚きを隠せなかった。
「……あ、あれ? ウソ……!?」
頭が異次元に迷い込んだように混乱して、言葉がおぼつかない。
「ようするに復興してんだろ。ちっとは見た目も変わるって、落ちこむなよ」
ゴーフルは俺が、ショックを受けていると思ったらしく、慰めてくれる。
「……ちがう。大火事の前のままだ。本当に……戻って来たんだ!」
俺が出ていく前。
呆れかえるほど平和だった村の光景が、そこにあった。
宿屋のそばで、作業着姿の集団に出くわす。その中の一人が俺に気付いて、駆け寄ってきた。
「アル! 生きてたのか!」
役人の、バンおじさんだった。
「アルが帰ってきたって!?」
他の人達もこっちに来る。
(これは、夢なのか? それとも……あの時の惨劇が、嘘だったのか?)
あまりにも何もかもが元通りで、自問自答する。
焼け野原になった花壇の花の種類はおろか、色の並びまで。
「マクベスさんの占いが、当たったのかしらね」
セレフィナの独り言が「再会」のカードの組み合わせを思い出させた。「運命のルーレット」と「旅人」、そして「メビウスの輪」。
「うん! 信じられない」
普段俺は占いなんて信じない。
だけどこの時ばかりは当たった事に驚いたし、素直に喜んだ。
「『お前達』のおかげだよ。腕のいい職人を雇えたし、資材も揃える事ができてな。俺達も手伝ってたんだ」
どうやらボタニー王からの復興資金は、無事に届いたようだと安堵する。
「はー……疲れた。よし! 今日の作業はもう終わり!」
バンおじさんの掛け声で彼らは作業道具を片付けると、宿屋に入っていった。
おそらく大浴場を利用するのだろう。
集団の中から一人がそっとこっちにやって来て、ニヤニヤ笑いながら小声で言ってくる。
「リエルに会いに行ってやれよ。『アルが王女を助けに行った』って聞いて、心配してたからな」
「はは……どうも」
「可愛いの連れてるけど、お前また女を引っかけたんだな。まったくけしからん奴だ」
「違います!」
庶民の服と眼鏡で変装しているとはいえ、セレフィナが例の「王女」とは気付かない。
他の人に呼ばれて、彼は宿屋に入っていった。
「疲れているところを申し訳ないんけど、村長に挨拶に行きたいんだ。荷物を置いたら、ちょっと付き合ってもらえないかな?」
他の土地の人がこんなに大勢いたら、非常に目立つ。
そうすると良くも悪くも結束の強い村の人達の警戒心を、刺激してしまいかねない。
だから来てすぐに村長と顔見知りになっておけば、何か困った時に親身になってくれる可能性が高くなる。
「おおアル、戻ったか。せっかくだから、あがっていきなさい」
思った通り、見慣れない上に明らかに田舎の服装ではない彼らに、村長は少々驚いていたようだった。
「アル、その人達は? 外部からの人かね?」
「ね、ねえアル。私の服……変かしら?」
セレフィナが自分のスカートの裾や、スパッツなどに目を落として、服装を気にする。
ゴーフルがフォローになるか判らないフォローをした。
「安心しなよ、田舎じゃよその人間は、なにをやってもアヤシイから」
とりわけチラチラ見られているマクベスは、まったくと言っていいほど気にせずに、好青年の笑顔であいさつしていた。
「この格好についてはお構いなく。占い師をしているので、商売用の衣装なんですよ」
「……はぁ。占い、ですか」
この説明で、村長はとりあえずはマクベスの服装について納得したようだ。
「ほら、どこにいてもなにをやっても、存在自体があやしいヤツが平然としてんだから、気にすんなって」
どういうわけか、ゴーフルのいつもの猫かぶりが、ここでは影をひそめている。
あまりビクビクしなくてもいいが、ゴーフルのこの気にしなさすぎるぶっきらぼうな物言いは、いかがなものか。
「すみません村長、この子外国から来てるんですけど、ちょっと……おおらかすぎるというか」
「ではお茶を淹れますので、こちらへどうぞ」
メイドのイブおばさんの、相変わらずの事務的な案内で広間へ通された。
やっぱりおばさんも彼ら、特にマクベスをチラチラ見ると、洗濯場へ消えた。
「無事で、何よりだった。みんな、お前が一人で旅に出たのを心配しておったぞ。王女を救ったと都から使者が来たのが、最後だったからの」
「ご心配をおかけして、すみません。ところで、すごく腕のいい大工を雇ったんですね。見事に、昔のままだ」
「うむ、お前の取り付けてくれた、王からの援助のおかげもあるが。ジーギスと倅がな」
先生と、ユング親子の名前が出る。
「ボタニー王の使者から、お前が王からの援助を取り付けたと聞いて、ユングの方が張り切ってな。世界各地の剣術大会に出ているんじゃ。賞金が出るたびに、村への復興資金として提供してくれておる」
そう言って、新聞用の棚から記事を見せてくれた。
トロフィーを手に、拳を振り上げガッツポーズをするユングが、大きく写っている。
ところでこの写真は、賞金といっしょに現地から送られてきているという。ゼーンズフトまで出なければ、撮影機材のないこの区域の新聞は、文字だけのものがほとんど。
他の記事も見せてもらうと、大小さまざまな大会に、先生とユングの名前が見受けられた。
あの懐かしい風景は、ユング親子が買い戻したものだったのか。
今回会えないのは非常に残念だが、それは仕方がない。
さて、復興が順調に進んでくれているせいか、村長は以前よりも生き生きと、健康そうに見えた。
「すごく、お元気そうですね。よかった」
育ての親である村長に何かあっては、さすがにミスティも悲しむだろう。
そして孫であるロバートが「あいつの疫病のせいで!」と、ミスティをなじるだろう。
「ところでミスティはまだ、帰っていませんか?」
話がミスティに及ぶと、村長の顔に影が落ちた。
セドナおばさんが死んでから、彼女を娘のように育てていた村長の心中を思うと、やるせなかった。
「ああ、あれからやはり、なんの音沙汰もない」
「村長、聴いてください。ショックを受けるかもしれませんが……」
追い打ちをかけるようで、この話をするのはためらわれたが「会いたければ、オルカントリードに戻れ」という、悪魔の言葉について話す。
「彼女は、ここに戻ってくるそうなんです。一〇年前の……セドナおばさんの仇を討つ為に」
村長の顔から、血の気がさっと失せた。
これ以上ショックを与える話は控えた方がいいと思い、おいとました。




