《18-4海底王国への順路》
鍛冶屋に片方の神器と剣を預けて戻ると、テーブルの上に、古びた大きな本が置かれていた。
スリザスは机の上の本を広げた。
「『海神王の指輪』の所在だが、正直言って、俺にも分からない。だが、可能性のある場所なら、少しだけ心当たりがある」
本の一番はじめには、ボロボロの羊皮紙のメモが挟まれていた。書いてあったのは「滅びた民の無念を辿れ」。
「『海底王国の伝説』を信じるか?」
スリザスがページを捲ると「海の果ての国」という、誰もが知っているおとぎ話のタイトルが出てくる。
「海底王国って、このおとぎ話に出てくる国ですよね?」
「なにそれ? 有名なの?」
子供に読み聞かせる物語の中では有名な方なので、大抵の人は知っているが、天界育ちのゴーフルは知らないようだ。
「海の神……たぶん海神王にまつわる物語だよ」
マクベスが海神王の名前を出すも、ゴーフルは首を傾げたまま。
「海神王ねえ。もう二〇〇〇年以上前に、天界どころか、ガドルサピールの周辺の宇宙からも、姿消してるらしいからなあ」
「ざっくりした内容を言うと、海の神様が治める国の物語だよ」
俺も小さい頃、母親が寝る前にこの話を聴かせてくれた。覚えている限りの内容を、ゴーフルに聴かせる。
「『ある海の底に海の神様の治める国があった。そこでは海の魔物や精霊などの生物が、仲良く暮らしていた。
海の神様は、陸に住む人間が海を大切にするかわりに、豊漁や、航海の安全といった、恵みを与える事を約束していた。
しかし海の上で人間達が戦争をして、海に船や油を沈めて、たくさんの住人が死んでしまった。
海の神様は悲しみ、そしてとても怒って、両方の国を滅ぼしてしまった』……だいたいこんな感じの内容だったかな」
「その物語は実際の出来事がモデルじゃないかって、言われているの」
セレフィナがモデルの話に触れると、スリザスは割かし新しめの新聞記事をテーブルに置いた。
「単なるおとぎ話で片づけてしまえばそれまでだが。考古学権威が海底文明の可能性を見出し、発掘作業に当たっているそうだ」
「オッサンどもが子ども向けの本のことで、あーでもないこーでもないとマジメに語り合って、海底まで掘り始めてんのか……」
ゴーフルは不服そうだ。
今までの話だって、おとぎ話の内容みたいなものだったのに。
「ゴーフル、俺は人魚姫を見た事あるって言ったら、嘘だと思う?」
「ううん、思わない。兄ちゃんはウソつかないもん」
なんだ、可愛いこというじゃないか。悪態ばかりの彼の反応に、ギョッとした。
「田舎っぺがまたカンちがいしたか、誰かにダマされてんなーってくらいしか」
「そうだな。『天使見た』って言っても、誰も信じないようなものか。現に俺も信じてないしね」
この発言の後から、何かが背中や二の腕にぶつかってくる感触がするが、それどころではないので無視した。
スリザスはもう二冊目に出した、比較的新しい本「童話『海の果ての国』の謎と解釈」を、ぱらりと開いてみせた。
「実際にその調査で、今までの記録にない戦争の跡が、発見されたそうだ」
「その戦争の跡って」
マクベスが、一冊目のおとぎ話の本を手に取り、最後の方のページをスリザスに向ける。
「この『海の果ての国』のラストに出てくる戦争のことだ、と言いたいんですね?」
「そうだ。アンジェの治めていた『旧アントス王国』の領土だった場所と、相手国の領土の間の海域で、砲を搭載した沈没艦と建造物のようなものが多数見つかった」
「なるほど、海の神様が『海神王』だとしたら、その場所周辺に『海神王の神器』があるかもしれない。それに戦争で多くの人が亡くなってるんなら『滅びた民の無念』も説明がつく。その戦争跡周辺を調べれば、何か分かるかもしれないってことなのかも」
喋っている途中で、考え付いた。
「もしかしたら人間の戦争は、海神王の財宝をめぐって争った……とか?」
うろ覚えだが物語の描写では、海の神様のお城には、目もくらむようなすばらしい財宝があった……とかいう記述があった。
「つべこべ言っていても始まらん。行ってみろ」
二冊の本と新聞紙がどかされ、地図の出番になる。
スリザスの指が現在地からグノーム大陸を北へ突っ切って、レガリアとの国境を抜け、トリフィラートに入る。
首都イグドラシルの脇を抜け、オルカントリード地方を経由した。




