↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
28/170

《18-2クリシュナを出る船を待つ間の話》

 港街の賑やかな声とカモメの鳴く声の、なんと癒されることか。


 停泊所近くの休憩スペースに腰かけて、買った新聞を広げながら気を紛らわしていた。


「なに読んでるの?」


 セレフィナに声を掛けられ、記事を彼女の方にやって中身を見せる。


「ああ、今日の新聞だよ。また帝国の兵士が暴行事件だって」


 プリムスコロナ帝国の横暴は、田舎にいても耳にするくらい有名だ。


 何度も聞いたり読んだりしているせいで、この話題にはちょっと飽きている。


「帝国ね……いろんな国に基地を置いているし、怖いわね。トリフィラートにも属国になれとか、軍事基地を置かせろとか、たびたび交渉に来るのよ。それに負けじと、レオパルテもいろんな所に勢力を伸ばそうとしているし」


「レオパルテ……か。そこの王様は、何も知らずにアンジェを宰相にしてるんだよな。問題は帝国とレオパルテ、正直どちらが世界を牛耳っても、ロクなことにはならないってことだけど」


 ページをめくると、小さい欄(らん)の割にはちょっと面白そうな記事に遭遇する。


 盗賊狩りのサフォーと呼ばれる、賞金稼ぎの話題だ。


 つい最近出現し、この近辺で賞金首を次々狩り漁っていて、ちょっと有名なのだそう。


 若い女性だという証言もあれば、大柄な男という証言も出ているそうだ。


 どちらの姿でも、共通している証言が「青い瞳」とのこと。


 セレフィナが、山を見上げる。


「サフォーの姿を写真に収めようとしても、必ず失敗するんですって。だから姿を見た人の、証言しか判断材料がないみたい。怖いけど、この国の山のことを考えると、なんだか神秘的ね」

「天使か、神の化身か。真相はどうせ、ただの賞金目当ての人間だろうけど。感謝している人はいるんだろうな」


 不思議な出来事に自分自身が見舞われ、大天使の行き来する場所だと言われているあたり、真実味がある。


「ところで妹さん……心配ね」

 セレフィナの言う「妹」の意味が、一瞬理解できなかった。


「妹? 俺は一人っ子で……」


 いつそんな話をしたっけと記憶を遡(さかのぼ)ると、山の上の神殿で出会った悪魔男との会話の記憶に行きついた。


 誤解されているようなので、訂正する。


「妹みたいに育った幼なじみ、っていうのかな。あの悪魔に脅されているか、騙されているのか。いずれにしろ、救ってやらなきゃ」


「妹みたい……ねえ」

 突然のゴーフルの声に、かなりびっくりした。


 振り返ると、買い物を終えたらしいゴーフルとマクベスが立っている。


「何が言いたいんだよ?」


 彼の言い方には、ただ言葉の通りとは思えないような、悪意の滲(にじ)んだ含みがあった。


「いやべつに。ベタベタし……いや優しくし合う関係には都合のいい……じゃなくて、ぴったりの言葉だなって」


 このヘラヘラ嗤(わら)うデカい口を、いずれなんとかしてやりたい。


 人間の心には必ず巣食っているであろう、小さな悪魔が囁(ささや)いた。


 マクベスにトントン、と肩を叩かれると、さっきまで優しかったセレフィナの視線が、冷え切っていることに気付かされた。


「セ……セレフィナ、なんか怒ってる?」


「ううん、何も」


 確認すると彼女は冷たい視線から一転し、生ぬるい、どこか憐れむような目になって首を振る。


「お母さんの仇を討つ為に、武器を取っただなんて。そんな大切な話を、打ち明けてもらえなかったのね」



「会いたければ、オルカントリードの村に戻るがいい。母親の仇を討つ為、あいつは戻って来る。無駄話はここまでだ」 



 あの悪魔はそう言っていた。


「……正直、ショックを隠せないよ。セドナおばさんの死について、俺の知っている話とはだいぶかけ離れていて、信じられないんだ。あの言い方じゃあまるで、彼女が殺されたみたいじゃないか」


「あの悪魔にはおそらく包み隠さず話したのかしら。でも、小さい頃から彼女と兄妹のように仲良しだったアルを差し置いて、昨日今日出会ったばかりにも関わらず、そこまで彼女の信頼を得てしまうなんて。いったいどんな巧みな口車を…………」


 彼女の話し方や声色はいつもと変わらないのに、どことなく棘(とげ)を感じるのは気のせいだろうか。


 やっぱり神器を奪われたことを、本当は怒っているのだろうか。


 どうしようと、マクベスに助けを求めても「明らかに君が悪いよ。反省しなさい」と、クスクス笑ってあしらわれてしまった。


 でも本当に「仇を討ちに帰って来る」って。


 おばさんが、魔物の出る森で死んだのは知っている。


 だとすると「事故」というより「獣害」ではないだろうか?


「彼女の母親は魔物に殺された? それでその魔物を倒すために」


 少し強引だが、「人間による殺害ではない」と解釈すると、事故みたいなものだろうか。


 当時子供だった俺に聴かせるには「魔物に喰われた」よりも「事故」という、抽象的な言葉の方がショックが少ないという、大人達の配慮だった……という推測が立つ。


 それで力を手に入れる為に、ミスティは悪魔に魂を売った、ということなのか。


 だとしたら、彼女の願いは叶ったとしても、いい結果にはならない。


 悲惨な末路を迎えるのが、目に見えている。


 今の気持ちを正直に告白するのならば、村に戻りたい。


 本当の事が知りたいし、セドナおばさんの仇が今も存在しているなら、俺だって討ちたい。


 そして何より、ミスティを助けたい。


 だけれども、それを今言えるような雰囲気では、とてもない。


 みんなに相談すべきか迷ったところ、セレフィナの口から、思わぬ提案が出る。


「アルの仮想兄妹の話なんかどうでもいいわ。心に傷を負った娘さんが魔族の手に落ちるのは、由々しき事態よ。彼女はオルカントリードに向かうのね。スリザスさんの所に寄ってから、その足で列車に乗って向かいましょう。ここから船でまっすぐ向かうよりも、早いわ」


 船は一本のルートで行けるから、楽と言えば楽だ。


 だが、途中途中で遭難に備えての供給や、暗くなってからの停泊もあるので、結果的にかなり時間がかかる。


 しかし関係ないセレフィナはもちろん、マクベスやゴーフルには無駄足でしかなく、頼むのは申し訳ない。


「それに」

 彼女はマクベスとゴーフルの方に体の向きを変えて、説得するように言った。


「もしアルが、彼女に本当に信頼されていれば、説得できるんじゃないかしら。もっとうまくいけばの話、あの神器を奪っていった悪魔の情報も、引き出せるかも」


 ゴーフルが「あ」と小さく声を上げ、思い出したかのように言った。


「そういやそのミスティちゃんってさ、『レオパルテの宰相(さいしょう)のとこにもらわれてった』って、ゼーンズフトのカフェの兄ちゃんが言ってたよな」


「宰相ギャラクス……魔王アンジェに、ね。だったら情報源として、なおさら価値がありそうね」


 そう言って彼女は、レガリアとトリフィラートの地図を広げ、列車の最短ルートを確認してくれる。


「ありがとう。それと……ゴメン」


 怒らせてしまって、理由も解らない自分が本当に不甲斐ないし、申し訳ない。


 セレフィナはくるりと振り返って言った。


「でも、お母さんの仇討ちの後は、宰相のおうちで奉公の予定でしょ? レオパルテは裕福な国だし、説得したところで戻って来てくれるかしらね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。