《17-3次に対峙するは》
入口に対して奥の壁に手を翳し、マクベスは目を閉じて詠唱する。
「エクスプロージョン!」
爆音とともに出口ができた。
剣の柄に手を掛けつつ、そっと外を覗く。
なるべく足音を立てずに、神殿の前の方に移動するが、こちらにも誰もいない。
「なーんだ、心配してソンした」
ゴーフルもすでに武器化させていたアウレオラを頭上に収納(?)する。
「もう俺達は、喰い殺されてると思われてるんだろうな」
「ここは本当に神聖で、そして恐ろしい場所だという扱いなのね」
結構崖の下の方にある里を、セレフィナが見下ろした。
だから最も高い位置に据え、距離を置いて生活しているのだろう。
「そいつを置いていきな」
どこからか声がした。
「気配は、一〇人以上はいるな」
塔の周囲に従う木々といった死角部分から、声の主と思われる、ごつい毛むくじゃらの男達が湧いてくる。
彼らの狙いが何なのかは、だいたい察しがつく。
財宝にはつきものの、呪いに近い因果である。
「お前らがいけないんだぜ、俺達が前々から目をつけてたお宝を、横取りなんてしようとするから」
「……野盗か」
思わず呟くとゴーフルから突っ込まれた。
「まーオイラたちも、他人のことは言えないけどね」
「失礼なことを言うんじゃあねえよ。俺達ぁ里の連中に頼まれて、財宝泥棒を退治しに来たんだからよ」
「!?」
「里の連中が言ってたんだよ。『追い返しても絶え間なく現れる財宝泥棒の相手に、もう疲れたってな。今回入り込んだ泥棒どもを退治してくれたら、あなた方に財宝を差し上げます』ってな」
唐突に鮮血が飛び散り、盗賊どもの口上は、彼らの人生事終わった。
野盗と思しき男達は、血だらけになって地面に落ちていたのだ。
「え!? え!?」
辺りには新しい血の臭いが漂うばかり。このご時世、殺人も珍しい事はないのであるが。
何が起こったのか見当もつかない。
すると、一人の大男がどこからともなく現れ、落ちている死体などないかのようにまっすぐ歩いてくると、目の前で止まる。
「この人」
肩までの夕陽色の髪、翼を模った肩のプロテクターに、緋のマント。その姿には、確かに見覚えがあった。
「知ってるんですか?」
マクベスに言われて頷いた。
「さっき港街の、人混みの中で見たんだ」
珍しく静かだったゴーフルが男を睨めつけたまま、静かな声で言った
「……やいてめえ、魔族だろ?」
額に滲んでいる汗の玉と脚の震えが、彼の緊張や恐怖を物語る。
ゴーフルを庇うように下がらせ、マクベスが男に話しかけた。
「僕達に、用ですか?」
そう言うマクベスだったが、攻撃魔法を発動させる時の手つきになっている。
ここにいる全員が、目の前の男が、軽く見積もってもここに散らばる盗賊達どころか、さっきの化け物とも次元が違うと、察知している。
「そうでもない。お前達が今塔の中で手に入れたものを、こちらに渡してもらおうか」
「何のことですか? 私達は里の人達から泥棒の疑いを掛けられて、ここに閉じ込められて、やっと出てきたの。何かを持ち帰るどころではなかったわ」
セレフィナが少しだけ嘘を混ぜて、男に説明する。
「ちょっと待って。一つ、教えて欲しい。さっき連れてた女性は、誰だ?」
「お前はオルカントリード地方……エルバ村の住人か?」
質問を質問で返されたという苛立ちよりも、「オルカントリード地方」「エルバ村」という言葉が出てきたことによって、確証が深まる。
「一目、会わせてくれないか!? 大切な、妹みたいな存在なんだ」
早口になっているのが自覚できる。
彼は表情のない目で、ただこっちを見るだけだ。
「会わせてもらえないなら、元気かどうかだけでも教えて欲しい」
いったいどういう関係で、何故こんな異国の地にいるのかも尋ねたかったが。
「お前が知って何になる?」
思った通り、彼に教えてくれる気はなさそうだ。
「会いたければ、オルカントリードの村に戻るがいい。母親の仇を討つ為、あいつは戻って来る。無駄話はここまでだ」
次の瞬間、おかしな事が起きた。突然、全身が動かなくなる。
(怖気づいたのか……!?)
気持ちの問題じゃない。地面に押し付けられるような強い力が働いている。
「体が、自分のものじゃないみたい……」
苦しそうなセレフィナの声で、俺だけじゃないと悟る。
「もう一度言う。渡せ」
男が言う。
すると手が、荷物の中に勝手に潜り込む。
「体が……勝手に」
(何をやっているんだ、渡すな!)
俺の意思を無視して、手は黒い方の宝石を取り出し、奴に差し出してしまった。
ここで急に体の自由が利いて、前に倒れそうになる。
「あんたは、一体何者だ。魔族がそうして神器を」
神器という言葉から連想が働き、ふと思い出しある可能性が、口からこぼれる。
「まさか……アンジェ?」
奴が催した都での『死の大会』は、俺達が去った後すぐに行われたわけだ。
という事は結構、間近にいたことになる。
それこそ、会っていてもおかしくないような。最後の生き残りの青年を化け物にして、こちらにけしかけてきた。
その事からも、存在は知られていたとみてよいだろう。
つまりこの目の前の男が、アンジェの刺客である可能性は、充分にある。
「イグナイテッド・ウィスプ!」
マクベスが男に火球をぶつけようとするも、しかし奴はそれを片手ではたいて消してしまった。
激昂するでも攻撃をし返すでもなく、ただ奴は黙っている。
その目には、もう俺達など映っていないと悟る。視線は散らかった盗賊の死体にいっている。




