【第17話 アルフィード編:神器を狙う者の行先】《17-1天国に続く階段》
頂上が近くなったらしく、山道には通行人の姿が見えてきた。
案内を乞う為に、布袋をかついだ人の良さそうな初老の男に声を掛ける。
「すみません。『天使の塔 』について、お尋ねしたいんですが」
「君達は、旅行者かい?」
何となくだが、少しばかり不安がよぎり「そうです」と嘘をつく。
「あそこは神聖な場所でね。地元の者も、出入りを禁止されているんだ」
「そうですか……残念ですが、諦めます」
物分かりのいい演技をして、男から遠ざかる。
「警戒心を、刺激してしまったようですね」
マクベスの言葉と、他のみんなの小さい頷きで、俺の違和感が間違っていなかったことが証明される。
というのも、俺が天空王の神殿について尋ねた瞬間、人当たりの良さそうな男の顔が面のように凍りついたからだ。
本当に、一瞬という短い時間だったので「ひょっとしたら気のせいかも」と、自分を疑う気持ちも大きかった。
さっきの男の行った方を、セレフィナがチラと振り返る。
「私達、泥棒だと思われたのかしら?」
前回の大地神王神殿の場合は、街の住人はあえて泥棒や荒らしを止めない。
侵入者はトロールの廊下に迷い込むと、知っているからだが。
今回のケースはどうなるだろう。
「どうする? 日を改める?」
時間は惜しいが、いったん退くことを提案をしかけたその時、
「君達」
後ろから、穏やかな声が掛けられる。
そこにはさっきの男を含めた大勢の人が、気さくな笑みを浮かべていた。
「案内をしよう。せっかくあの山道を登ってはるばるやってきたんだ、無下にする事もないだろう。お客さんが来るなんて、久しぶりだから歓迎するよ」
縄で縛られたりするわけでも、枷をつけられているわけでもない。
でも大勢の里人が、俺達の周りを囲い連れて行く様は、案内というよりもはや連行に近かった。
「崖を掘って、補強した神殿だ。立派だろう? 天まで届きそうな階段を登って祭壇まで行くから、浄土崖……『ピュアランド・クリフ』と呼ばれているんだ」
口調は優しげだが「決して逃がさない」という圧力は、充分声に含まれている。
「さあ、中へ入ってゆっくり見てください」
四隅に青い宝石のついた扉を開け、里の民は促すというより、神殿の中に俺達を押し込んだ。
押し込められる間際、彼らの中の痩せていて力のなさそうな男の腕を、マクベスが掴む。
「うわっ」
不意を突かれたやせ型の男に顔を近付け、マクベスは迫る。
「僕達、この神殿のことを何も知らないんです。案内役、お願いしますよ」
怯える男の腕は、マクベスに掴まれている部分を中心にみるみる赤くなり、白い煙のようなものまでうっすら出始める。
これはまずいと思い、後ろからマクベスを引きはがして止める。
「やめろよ、マクベス。里の人間を傷つけたら……」
この隙にやせ型の男は、扉の間をするりと抜けて逃げていった。
「人がいいですね。こっちは殺されるかもしれないのに」
塞がれてしまった出口を一瞥したマクベスの顔は、今にも舌打ちを堪えているようだ。
それでも彼のしようとしたことには、賛成できない。
「さっきの男の腕から、煙みたいなのが出てた。制御した状態の炎の魔法を、徐々に強くしてたんじゃないのか?」
「はい、脅してこっちに来させて、人質にするつもりでした」
彼のやり口にゾッとしながらも「火傷の痕だなんて証拠を残したら、俺達は強盗になってしまう」と、倫理やキレイごとを除外した「マクベス向け」の反論、をしようとした。
「軽い火傷程度なら、セレフィナさんに治してもらえばよくないですか?」
俺の考えを見透かしたような彼の言葉に、俺の反論は言う前から潰されてしまった。
重い沈黙を破ったのは、セレフィナの階段を上る足音と、この提案だった。
「だったら別の出入り口を探して、脱出するなんてどうかしら」
絶望的な空気に相応しくなく、セレフィナの声はいつもどおり朗らかだ。
「そういやそうだね。でも、見つかんなかったら?」
ゴーフルに突っ込まれても、彼女が慌てる様子はない。
「最悪、マクベスさんの魔法で壁を壊す、とか。あの人達のあの様子だと、泥棒や遺跡荒らしが他にも来てるだろうから、訴えられたって、私達だという証拠にもならないと思うの。さっきの男の人が火傷の痕を証拠に出してきても、さっきマクベスさんが言ってたみたいに、私なら治すのに、五秒かからないわ」
「セレ姉ちゃん、時々さらっとヤベエこと言うね」
露骨にゴーフルが数歩退きながら言うも、セレフィナは笑うだけだ。
「あら、達成しなきゃいけない目的があるのに、死んじゃったら元も子もないでしょ。ゴーフルちゃんがせっかく危険を冒して、知らせてくれたんじゃない」
みんな、互いに顔を見合わせたが、誰も反論はできなかった。
それに他に手は思いつかない。額に手を当てると、マクベスはハハハっと笑う。
「そうだね。人質を取った所で、彼らが人質を切ってしまえばそれまで。行きましょう、我々が生きて出ればいい話です」




