↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/160

《16-3ノルブリンカ山地で垣間見た、かつてのにぎわい》

 壮大な山脈地帯が一つの国と言ってもいい。


 クリシュナの港に着いたのは、出航から三日後の昼すぎだ。


 しかし村を出てからというもの、辺りを覆い尽くすような人人人……こんな光景に、しばしば出くわす。


 最初人混みを見た時は、祭りでもやっているのではないかと勘違いした。


 とはいっても、近隣の村全てを総動員した祭りでも、あんな賑やかにはなるまい。


「ホント、どっからこれだけの人がわいて来んだろーね」


 暑そうに、ゴーフルは手の平を扇がわりにヒラヒラさせている。


 各区画にお行儀よく並んだ小ぶりな家々に、よくこれだけの人数が収まり切っているものだ。


「はぐれないようにしないとな」


 ええ、とセレフィナが腕に絡みついてきた。


「あの、ちょっと……」


「だって、はぐれちゃうじゃない」


 おそらく言葉通りの理屈でやっているのだろう。


(リエルみたいだ)


 奥ゆかしく、ちょっと天然で無防備な一面を見せる、評判の美人にどことなく似ている。


 そういえばミスティが「言葉の割には自信満々よね、あの娘」と評していた事があった。


 あのちょっと生意気な妹分に見られたら、何を言われるだろう。ふとマクベスの占いの結果を思い出す。



「同じ『出会い』が繰り返されるで『再会』。なんて解釈はどうかな。再会したい人はいる?」



 人混みの向こう側から向かって来る、ひときわ目立つとても背の高い男が目を引いた。


「でけえな」


 自らの身長と比較してか、どこか羨むような調子で、ゴーフルが口を尖(とが)らせる。


 男とすれ違う時、女性を連れているのがちらっとだけ視界に入った。はっとして振り向いた。


「兄ちゃん?」


 ゴーフルの声で再びはっとして、逆走しようとしていた事に気がつく。


「アル、そっち逆よ?」


 心配そうにセレフィナが顔を覗き込む。気がつくともう、後ろには人の波があるだけだった。


「誰か、知ってる人でも?」


 マクベスの問いに対して、俺は首を振った。


「ううん。見間違い、だった」


 よく考えてみればこんな偶然、ありうるはずがない。ここは異国の地だ。


 村の近くかつ、働いていたゼーンズフト街や、トリフィラートである首都のイグドラシルならまだしも。いるわけがない。


 癖のある長い髪の女性なんて、世界中にいくらでもいる。


 海に沿った山道をひたすら昇っていく。山地だけあって、春の終わりなのに、気温が低い。


 山の中腹になってくると、アルパカやリャマを連れた遊牧民が談笑している光景や、馬鈴薯(ばれいしょ)の畑、石造りの建物が並ぶ小さな集落に差し掛かる。


「かわいい」


 セレフィナが道行くアルパカのまつ毛に見とれている。


 毛糸を連想させるふわふわの頭や、とぼけたような目が、なんとなくゴーフルに似ている。


「なんだよ?」

 不満げに俺を見上げるゴーフルの後ろで、マクベスが小さなアルパカと彼とを見比べて、クスクスやっている。


「こんな山にも人が住ん……」


 振り返ったところで口が止まる。


 セレフィナもゴーフルも、口をぱかんと開けて、その人っ子一人いない廃墟の集落を見つめていた。ふいに、マクベスの方を見る。


 彼も無言で驚いた顔になりながら、廃墟を見ている。


 全員まばたきすら忘れ、沈黙だけが流れた。


 口から言葉が漏れる。


「山では不思議な事がしばしば起こるものだけど」


「そうなの?」

 都会育ちのセレフィナは、山に登る機会などないだろう。


 そもそもいくらグノーム大陸が自然豊かだって、イグドラシルのような都会はほとんど、山などは開発されてしまっているのではないか。


「うん。郷里(くに)の方でも狩りの時や、果実や花の収穫の時。あと葬式の時とか。山に出る時はだいたい、不思議な事があったよ」


「葬式をしたり、もめ事や死体隠しには、山がもってこいだものね」

 マクベスがサラっと物騒なセリフを吐く。


「隠すようなもめ事や死体があるのかよ」


「ともかく、人があまり立ち入らないからね。神が下りてきたり、人間が何かするにも、都合はいいと思うよ。今のは……何でしょうね? 神のいたずらか。あるいは、山そのものの記憶か」


「かつて賑わっていた頃の、記憶か」


 廃墟はみな風化してそこかしこ崩れ、苔(こけ)が好き放題繁殖していた。


 ここに人が住んでいたのなんて、気が遠くなるほど昔だと物語っているようだ。


「淋しいのね、この山も」

 セレフィナが、同情するような切ない声で言った。


 さっきの人が笑顔で話をし、遊牧をしたり畑を耕したりしていた風景を頭の中で想像する。


 質素だが活気のあった、山の集落。


 それらはもう、帰ってはこないだろう。


 途中、石積みの塚が壊れていたので、積み直してやった。


 手を合わせようとすると、マクベスにやめるように止められる。

「霊は、同情する人に寄って来る。何もしてあげられないのなら、見て見ぬフリが一番ですよ」


「安心しなよ、この塚にはもう、何も宿っていない」


「ゴーフルには、やっぱり判るのか」


「うん。でもやっぱり、マクベス兄ちゃんが言ってるみたいに、石碑や塚は不用意に拝まない方がいいよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。