《16-2卓上で決められる運命》
キャラックという港街の宿屋での、食堂での事。
「このカードは『出会い』。こっちに出ているのは『愛』の暗示ですね」
マクベスが卓上にカードを並べて告げた。要は「運命の出会い」があるでしょう、という占い結果である。
「まあ、嬉しい」
セレフィナは素敵な結果に満足そうだ。
ノルブリンカとレガリア間の航路には、両国間で定められた停泊ポイントの港町がいくから存在する。
船はその港街ごとに停泊し、船の点検や補給を行うこと。そして日が暮れる頃になると、その最寄りのポイント港が最終停泊となり、船は錨を下す。
つまりは原則、夜の航行は禁止。昔は多かった船の遭難が重く見られて、定められた法律である。
そして今日の最終停泊が、このキャラックだ。
交通の要所になっている大きな街だけあって、宿屋の食堂は繁盛していて店員は忙しそうである。
食事が運ばれて来るまで少し時間がかかるという説明が入店時にあったので、待っている間、マクベスが得意の占いを披露してくれた、というわけなのだが。
彼には悪いけど、誰にでも言えそうな月並みな結果と思わざるを得ない。
それでも、王族庶民問わず、女の子は「運命」が大好きだ。特に、恋愛がらみは。
それでも路銀を稼げるほど客が金を払うのは、神秘的な、特に客の望んでいる話をイケメンにしてもらえることに価値があるからではなかろうかと、邪推をしてしまっている。
俺は、占いは信じない。
理由もありがちなのだが、運命が決まっていると思うのが嫌なのだ。
だって自分の努力が、むなしいものだと肯定してしまうことになるから。
俺は矮小な一個人でしかないけれど、ただただ神様のいう通りなんて、まっぴらゴメンだ。
特に最近、ゴーフルから「リアルな神様の話」を聞いてからは。
俺がこんな失礼な考え事をしながらカードのめくられるのを眺めている間も、マクベスの占いは続いている。
「もう、出会っているかもですね」
「本当に!?」
「ええ。ですから身近にステキな人がいないか、じっくり観察するのもいいかもしれません」
ゴーフルが「なあなあ」と肩を叩いてきて、耳打ちした。
「マクベス兄ちゃん、さりげに口説いてない?」
言われてみると、そうも聞こえる。
こんなセリフを聴かされたら、女の子はドキリとしてしまうのではないか。
それも、すらりと背の高い、顔立ちのきれいな男に、じっと目の中を見つめられながら「恋の兆し」を告げられるのだ。
聞こえていたようで、マクベスは首を振った。
「いいえ、本当にそういう結果が出ているんです。しかし誤解されても、仕方ありませんね。セレさん、とても可愛いですから」
「あーあ、歯がうく」
ゴーフルの冷やかしもどこ吹く風。マクベスは恥ずかし気もなく言ってのける。
きっと女性の扱いにも、この手の冷やかしにも慣れているのだろう。
奥手な自分は、軽薄だなという印象を受ける一方、羨ましくもなる。
「占い、得意なんです。路銀や研究費に困った時は、これで稼いでもいたんですよ」
「ふうん」
再びテーブルの上に並べられるカードの列を眺める。
絵画に出てきそうな路地の絵。頬をバラ色に上気させて微笑む、どこかコケットな可愛らしい少女の絵。
するとゴーフルは一枚カードを拾い上げ、折れない程度にヒラヒラさせた。
「ほんとうに見えてんの? じつは相手見て、それらしいこと言ってたりして」
もっとも天使なのに「神様を信じない」彼に、占いを信じろというのも、無理がある。
「おや、厳しいね」
「じゃあ、オイラもみてよ」
わかりました、とマクベスとカードを捲って並べる。
「えー、と……仕事や勉強でトラブルあり。大目玉を喰らうかも、と出てます」
ゴーフルの結果を聞いて、ぷっと吹き出してしまう。しらを切ったものの、恨めしそうに睨まれた。
「疑ったこと、じつは怒ってるでしょ?」
ゴーフルが困ったように、頭を掻く。
「大当たりじゃないか」
とはいっても、占いの結果というよりほぼ事実だったので、俺もマクベスの仕返しじゃないかと疑ってしまった。
「アルさんは」
「あ、俺はいいよ」
「まあまあ、そう言わずに」
断る前にすでに占い始めたらしく、何枚かカードが出ている。
(ルーレットの絵と、旅人みたいな服装の男の人の絵)
信じないとはいっても、自分のことを言われているからか、ついカードに視線が向いてしまう。
「この旅の中で、一生の運命が決まる出来事がありそうですね」
途中まで読み上げられた結果は、予想通り月並みで歪んだ満足を得る。
(その『一生の運命が決まる出来事』が、肝心なんじゃないか)
旅人のカードを見ていると、ふと考えついた。
「『旅』っていうと『一生』とか、少し強引だけど『新たな出会い』とも解釈できそうだけどね」
「そう言われればそうですね。『運命の出会い』ですか」
笑いながらマクベスは、からかうように言った。
「じゃあ、もう一枚めくってみますか?」
二枚のカードを束に戻してシャッフルすると、マクベスは今度は俺に自分でめくるよう、カードの束を差し出す。
「この占いって、具体的にどういうルールなの?」
セレフィナの時もゴーフルの時も、カードをめくっていたのはマクベスだけだった。
「僕の気分次第です」
「いいかげんだなあ」
カードの束から一枚抜くと、メビウスの輪のカードが出た。
「えーと、メビウスの輪。意味は『繰り返し』ですね。まあ、運命かはともかくとして、この旅で出会いは繰り返しているから、当たりと言えるのか……それじゃあ、面白くないかな」
「占い師の面白い面白くないで、運命って決まるのかよ?」
当たるも八卦当たらぬも八卦。
悪い結果が出た時に「気にするなよ、ドンマイ」というニュアンスで言う言葉らしいけど。マクベスのような占い師にも、悪用されそうなフレーズである。
「同じ『出会い』が繰り返されるで『再会』。なんて解釈はどうかな。再会したい人はいる?」




